彼の体に残った傷をなぞる。回復呪文は完璧に傷を塞げるわけじゃないから、どんなに速く呪文をかけても残ってしまうことはある。もう少し専門に扱える人ならばきっとそういうこともないのだろうけれど。私は回復呪文が使えるだけで、扱い方はクッキーの方がずっと上手だ。
「どうしたの?」
「ごめんねアイス。回復呪文、上手くできなくて」
「…ん?」
「前に話したでしょ、呪文を上手く扱えないとこうして傷が残るって。私、攻撃呪文ばっかりで、回復はてんでダメ」
背中に残された傷跡をなぞる。比較的新しいそれは爪で引っ掻かれたような痕だ。浅いけれど、傷には変わりない。
「……ごめんね」
もう一度誤るとアイスは笑ってこちらを向き、私の頭をわしわしとかきまわしてから両頬に手を添えた。大きくて固くて、私とは違う。その手で握る剣と盾で、私たちを守ってくれる手。
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