「俺を王子様にしてくれよ」 表紙がツヤツヤとしていて、寸法は200mmの正方形。絵の具を原色のまま塗ったような鮮やかな色彩で、ドレス姿の少女が描いてある。大型スーパーの書籍コーナーに置いてあるような、薄っぺらく、安っぽい絵本だ。その絵本が蜜柑の部屋の中に山と積まれているのは、もちろん趣味などではなく、仕事のためだ。在庫の保管のためだというが、単なる在庫管理で便利屋を使うわけがない。何かの訳ありの品なのだろう。どれも新品らしい、細長い紙で束ねられており、山ごとに本の種類が分けられている。一度は見聞きしたことがある童話のタイトルばかりだ。
蜜柑の隣に寝転んでいた檸檬が、手持ち無沙汰なのか、ベッドの上から手を伸ばして束から一冊を抜き取った。おい、と嗜めるが、あとで戻すから心配するなよ、とページを捲る。単行本と比べても分厚く作られているページは、パラパラと軽快な音を立てる。
913