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    acid123021

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    acid123021

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    マッチングアプリごっこ(日木)

    「マッチングアプリで結婚する人が増えてるんだってさ」

    「へえ…」

    「まあうまくいけばお見合いみたいなもんだもんな」

    二人して肉が食べたいという話になって、ステーキを食べに来たら木吉がそんな話をし出した。

    学生時代からの紆余曲折を経てなぜか恋仲のようなものを兼ねるようになってしまった俺たちには、あまり縁のない話だ。

    「そういうごっこしようか」

    「は?」

    肉を頬張っているとよく分からないことを言い出す。

    「肉好きですか?俺も好きです。祖父母と一緒に住んでるんであんまりがっつり食べることってないんですけど…。同じ時に同じものを食べたいと思うなんて、嬉しいです」

    「……」

    木吉は唐突に敬語で話しだした。何だ?見合いの体をとってるのか?突然始まった三文芝居に俺は肉を噛むスピードを落として黙った。

    「日向さん、ラインでのやりとりで受ける印象と会ったときの印象が変わらないですね。実直な印象を受けます」

    「……」

    肉をゆっくり噛みながら木吉を見つめる。口の中で肉が解けていく。赤身ステーキのレアの部分の味がやけに際立つ気がした。何言ってんだこいつは。

    「…はあ」

    木吉相手にツッコミだすときりがないので、たまに手を抜くときがある。次はどんなことを言い出すのだろうと思い、何となく乗った風な台詞を返してみる。

    すると木吉は人好きのする顔で穏やかに笑った。イケメンスマイルみたいでちょっとイラッとする。

    「美味しいですね。赤身肉は食べてる最中も自分の血肉になる感じがする。」

    そう言って唇のソースを舌で舐め取るのがさきほどのイケメンスマイルに似つかわしくなくて、いやらしく見えるのは、そういう関係になっているからだろうか。もし、仮にこれがマッチングアプリで知り合って初めて合う相手だったらどう思うだろうか。女だったら、同じように「エロいな」と思っていたと思う。男だったら…、分からない。木吉以外の男をそういう目で見たことがないから。

    「……そうですね」

    とりあえず同意しておくと、木吉は満足そうに笑みを深めた。

    「よかったら、このあと二人で映画でも観に行きませんか?」

    「…いいですよ」

    自分の台詞に半笑いになりそうになりながら、それらしい返事を返す。いつまで続くんだこれ。

    そう答えると、木吉は口元を拭いて、ワイングラスに添えられた俺の手を握って、指先をなぞった。

    「……」

    「日向さんの爪の形綺麗だ」

    そう言って、木吉はにこっと笑って手を離した。何だこいつ。やりてーのかな。マッチングアプリなんてヤリ目的のも多いんだろうから、木吉の演技なのかよくわからない、初対面なのに妙に馴れ馴れしいような仕草はごっこ的には正しいのかもしれない。知らないが。ごっこだからそうしてるのか、本当に盛っているのかどっちなんだろう。

    「職業柄爪は切り揃えてるんで…。傷つけないように」

    そう言うとワンテンポ間があった。

    昔、そういうことをし始めた頃、木吉の後ろを馴らすのに指を入れたとき、そういう話をしたことがあった。

    そのことを思い出したのか思い出さなかったのか、木吉は一瞬固まったあと、「理容師さん、大変ですね」と言った。その目は期待しているように見える。見えるだけかもしれない。乗せられてきている気がする。

    「はい……」

    俺も何だかよく分からなくなってきて、適当に相槌を打った。

    肉はかなりボリュームがあったが二人で平らげて、腹ごなしに少し歩いて、誘われたとおり映画を見た。その間はごっこはやめて普通に話していたのだが、映画を見終わったあと、帰るかどうかといったあたりで、木吉がまた急に敬語で話しかけてきた。

    「まだ一緒にいたいんですが…だめですか?」

    「…それまだやんのかよ」

    「はは。…どうですか?」

    木吉はいたずらっぽく笑った。

    「……」

    「日向さんの指もう少し観察したい」

    「…指フェチなんすか?」

    「そういうわけじゃないけど…あなたの指は努力の結晶って感じがして好きだから」

    そういう木吉の目は優しさに満ちていて、芝居というより本気で言ってるんだろうなと思った。

    「…仕方ねぇな」

    そう言って、いつも使うラブホに入った。二人共実家暮らしなのでそこしかやれる場所がないのだ。

    シャワーを浴びて、ベッドでテレビを見ていると、木吉が風呂から出てきて俺の隣に座る。

    そして俺の手をとって眺め始めた。

    指の一本一本をマッサージするようにふにふにと触る。

    「年季の入ったタコがありますね」

    俺の手には理容ハサミのタコと、バスケのシュート練習でついたタコとがある。

    爪の縁の当たりを指先でなぞられてぞくっとした。

    「…擽ってぇよ」

    「ふふ。すみません」

    「いつまでやるんだよそれ…」

    「楽しくないか?また初めてのときみたいな感じでしたら楽しいかなって」

    「…楽しいか?」

    「日向がマッチングアプリ慣れてる人っぽい演技してくれたら楽しいと思う」

    「…変態かよ…」

    「そうかもな」

    木吉は笑って俺の指にキスをした。

    「…こういうところはよく来るんですか?」

    「……。………実家暮らしなんで」

    また始まった木吉の芝居に付き合うが、恥ずかしい。なんだよヤリチンのフリって。できねぇよ。男となんてお前としかやったことないのに。

    そんな風に思ってると、木吉は目を細めた。

    「…そうなんですね。おれ、こういうところ久しぶりで…。教えてください。日向さんがこういうところで、どんなふうにこの指で触るのか」

    そう言って木吉は俺の手に頬擦りする。上目遣い気味に見つめてくる目が、濡れて光っているように見える。

    「…あんまり見んな」

    「照れてます?」

    「うるせえ」

    「可愛い」

    「やめろって」

    木吉は俺の言葉を無視して、俺の目を見て言った。

    「今日はいっぱい楽しみましょうね」

    そして俺の指のタコにキスをした。

    とりあえず押し倒す。

    いつもの手順に入ってしまえば芝居もしなくて済むかと思い、木吉の唇を塞ぐ。舌を押し込むと、木吉の舌が応えるように絡んできた。

    「……っ」

    木吉の唾液の味がする。

    「……ぁ、は、……ン」

    息継ぎの合間に漏れ出る声がいやらしい。

    木吉の手が伸びてきて頭を撫でられる。その手つきは優しくて、心地よかった。

    「日向さん、もっと」

    「あ?」

    「もっとして」
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