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    おとなし

    テイルズ名物村焼き

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    おとなし

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    ナーポリア時代の子ジャちゃんが11歳か12歳かちょっと探しきれなかったので11歳になっています。間違いだったらすみません。商館を建ててからササンへ行くまでの日々を捏造するの、めちゃくちゃ楽しいです。あの時間でいろんな初めてを経験してほしい、、、(できるなら若シンくんに永遠に15歳でいてほしい)

    #シンジャ
    thinja

    子ジャちゃん、ナーポリアで誘拐される 漁師は日の出より前に動きはじめ昼頃には仕事を終える。その後村に出て日銭を稼ぎ、日が落ちる前には病で臥せった母親の待つ家へ帰るのが幼い頃の暮らしだった。ところがどっこい。ナーポリアの夜はティソン村よりずっと遅い。船乗りたちはいつまでも酒場を占領しているし、女の子のいる店は空が白むまで暖簾を下ろさない。俺が酒の味を覚えたのはこの頃だ。仕事の接待を兼ねて。自分の息抜きのために。情報収集、あるいは顔を広げるため。理由はまあ色々あるけど、とにかく賑やかに楽しく過ごせる夜のナーポリアを、俺はいたく気に入っていた。
     その日も何軒かの店に顔を出して、ほどほどの所で切り上げて帰ってきた。ほどほどだったと思う。日付が変わってからほんのちょっとしか経ってないし。きれいなお姉さんを連れ込まなかったし。自分の足で商館に帰れるくらいしか飲まなかったし。火の落ちた厨房で汲み上げた水を飲んでいると、寝巻きを着込んだヴィッテルが食器を持って厨房へ入ってくる。夜食でもつまんでたんだろう。俺は右手をひらりと上げて、ヴィッテルはぺこっと頭を下げてそれぞれ挨拶を交わした。
    「お帰りなさい、シンさん」
    「ああ。ただいま、ヴィッテル」
    「今日は早かったですね」
    「あんまり遅くなるとルルムが怖いんだよ。最近はジャーファルも一緒になって怒るんだぜ。このところ、金持ちの子どもを狙った人攫いが出るとかで。勘弁して欲しいよなあ。俺はもう子どもじゃないのに!」
    「あはは」
     ヴィッテルが柔らかい表情で笑った。ほんとうはこういう笑い方をする奴なのを最初から知っていた気がするし、その穏やかさを隠さず見せてくれるようになって嬉しい。水桶の中に食器を沈めたヴィッテルが言った。
    「それで、ひっと……ジャーファルさんに連行されて帰ってきたんですか? 手を煩わせるなーって怒ってたでしょう」
    「いや、今日は自分の足で帰ってきたよ」
    「あれっ、そうなんですか? ジャーファルさん、半刻ほど前にシンさんを迎えに街へ出たんですが」
    「そうなのか? 会わなかったなあ」
     入れ違いかな。どう言うわけか、どこで騒いでいても常にピンポイントで迎えにくるけれど、今日は俺がどこで飲んでるのか、どの辺りで切り上げて帰ってくるか分からなかったのかも知れない。珍しいこともあるもんだ。
     その時はそんなふうにしか思わなかった。ヴィッテルだってそうだった。俺たちはそのまま別れて自室へ戻り、なんの変哲もない夜を過ごした。問題が起こったのはその翌朝。
     東から昇りくる朝日と共に、莫大な身代金の要求状が、商会へ舞い込んだのだった。



    「ジャーファルが帰ってないって⁉︎」
    「おいおいおい、身代金ってなんだよ!」
     商会の中でもとりわけ親しい者だけが集まった一室は、卓上に広げた身代金の要求状を真ん中にして騒然としていた。ジャーファルの身柄と莫大な金額の交換を要求する書面には、ミミズが這うような具合の文字が記されている。手紙を見下ろした俺は頭を抱えて唸った。ジャーファルが帰ってないんて思わないだろ! ふつうに、ふつうに朝までぐーすか寝てしまった! 壁際で額を突き合わせたヒナホホとヴィッテルが、血相を変えて話し込んでいる。
    「警吏に連絡するか?」
    「だ、ダメですよー! 筆頭、今頃相手を殺してるかも知れないじゃないですかーっ⁉︎ それで帰って来れないとかだったらどうするんですかっ。我々はもう公的な顔を持った商会で、ここは法治国家なんですから……そんなことになってたら……っ」
     ヴィッテルが双眸をギュッと閉じ、手のひらを顔の前で擦り合わせて震えながら言った。マハドは彼の隣で可哀想なほどオロオロとしている。彼らの名誉のために言っておくと、別にジャーファルのことを心配していない訳じゃない。と、思う。筆頭と仰いだジャーファルの強さと、あと怒りっぽさをよーく知ってるだけだ。たぶん。たぶんな。俺は彼らの喧騒を尻目に顎の前で両手を組み、肘をテーブルへついて尋ねた。
    「あー。一応聞くが、シャム=ラシュの犯行の可能性は? レームに入り込んだとか」
    「仮にそうだとしたら、こうして身代金を要求することはないのでは? 向こうが第一に欲しいのは組織を抜けた者の命でしょうから」
     すやすや眠るキキリクを抱いたルルムが言った。彼女はやわらかな垂れ目を物憂げに細め、気遣わしげに続ける。
    「現時点では分かりませんが、ただの荒くれ者の仕業か、同業者の仕向けたことか。あるいはシンドリア商会へ恨みを持つ者の犯行の可能性もあります。ただ、シンドバッド様。あの子は確かに強いですが、まだ子どもです」
     ルルムは元々面倒見のよい才女だったが、彼女とジャーファルはナーポリアとイムチャックを往復する間でその関係をうんと深めたようだった。ぜんぶ言われなくても分かる。ルルムはジャーファルの身を案じている。母親のように。俺はうんと頷いた。
    「いや、分かってるさ。そもそも俺を迎えに出たばかりに起きたことだ。責任は俺にある」
    「ご自覚があるようで何よりです」
    「……ごめんなさい」
     ルルムは怒らないけど怒ってる。そりゃあそうだ。帰ってこない部下を、それも自分より四つも年下の子どもを放たくって寝るなんて。酒が判断力を鈍らせると言うのはほんとうかも知れない。俺は書面を手に取り、内容を検める。
    「身代金の受け渡しは議事堂の風見鶏の影がジャムズ橋の欄干に掛かるとき。港に準備された端から二番目の小舟で沖合いに出たあと、そこでジャーファルと金の交換を要求している。受け渡しの人数はひとり。この件を口外しないこと。守られない場合は人質の保証はない、と。ありがちだな」
    「海上か。伏兵を連れてくにしても、隠れて近付くことはできねえな」
    「金は用意するんですか」
    「そりゃあするだろ。ジャーファルを放っておけない」
    「でも、こんな莫大なお金。うちが今保管してる金貨では足りません。資産を現金化するにしてもそれなりの時間がかかります」
    「みんな、待ってくれ」
     彼らは俺が手のひらを掲げてトーンダウンの仕草を取ると、楽器が音色を失うようにピタッと静かになった。俺の発言を待つ構えだ。
    「…………。」
     ジャーファルを見捨てるつもりはもちろんない。あいつは俺の部下で、仲間で、眷属で、何より最近よく笑ってくれるようになった。お腹いっぱい食べることを覚えて、一緒に苦いコーヒーを飲んで、続きはしなかったものの学校へ通ったし、これから同い年くらいの友だちができるかも知れない。十一歳の俺ができなかったことを、この街でジャーファルにたくさん味合わせてやりたかった。たぶん、ほんのちょっと、弟みたいなものになりかけている。
     俺は言った。
    「ひとまず金策だな。犯人の要求に素直に従うつもりはない。が、従う素振りを見せるのは重要だ。受け渡しには俺が行く。警吏に知らせるかどうかだが……」
    「金も警吏も必要ありません」
     話を詰める途中、ふいに聞き慣れた声がして、締め切っていた扉がキィ……と開いた。みんなの視線が一斉に扉へ集まる。開かれた扉の向こうから、まぶしい朝日を背後に浴びた小柄な人間がコツコツと靴を踏み鳴らし入って来た。白い光を浴びた白い子どもだ。網膜を焼く光に双眸を細めた俺たちを見て、彼は細い首を傾げて繰り返した。
    「必要ないですよ、そんなの」
    「ジャーファル!」
    「筆頭!」
     入室して来たのはジャーファルだった。彼はなんて事ない顔をして「すみません、遅くなりました」と告げる。いつも通りのジャーファルだった。背筋はしゃんと伸びて、そばかすが浮いた鼻立ちはキリリとしている。ヴィッテルとマハドが風のような速さでジャーファルへ駆け寄り、細い肩をガッシリ掴んで詰め寄った。
    「ジャーファルさん、大丈夫ですか⁉︎ 誘拐、誘拐されたんですか? 逃げてきたんですか⁉︎」
     ジャーファルはヴィッテルの剣幕にキョトンとしたあと、あまりにも快活に言った。
    「はあ? 逃げて来るわけないでしょ。ひとり残さずブッ殺してきましたよ」
     それを聞いたヴィッテルが蒼白になり、わーっと嘆いた。
    「筆頭! 筆頭やっちゃったんですかあっ⁉︎ ダメですよ! ナーポリアでは人殺しはやっちゃダメなんですーっ‼︎」
    「いや、ナーポリアでなくても、もう人殺しはやっちゃダメだぞ……」
     俺はすかさずヴィッテルの発言を訂正した。シャム=ラシュの倫理観、時々ほんとにあやしい。ヴィッテルに泣きつかれたジャーファルは心外そうに眉を釣り上げ、細い腕で部下を引き剥がしながら言った。
    「もちろん、半殺しに留めておきました。そこそこ大きな組織だったので一晩かかりましたが。さっき当直の警吏を叩き起こしてアジトごと突き出してきたところです。最近話題になっていた人攫いだったみたいですね」
     ジャーファルは引き剥がしたヴィッテルをぽいっと床へ放り投げると、フンと笑って胸を張った。悪い顔だ。たぶん、数だけ立派で話にならないくらい弱かったんだろう。事の流れを見守っていたルルムが膝を折り、ジャーファルへ向かって怪我の有無を尋ねている。ジャーファルは「もちろん怪我なんかしてません」と快活に答えた。物語に出てくる剣士みたいな、あまりにも勇ましい猟犬の顔をしている。
     彼は俺へ向かって振り返り、はつらつと言った。
    「シン。警吏には、シンドリア商会の名前をバッチリ売っておきましたよ!」
     俺はジャーファルの快活な発言に「あ、そう」とだけ返した。
     そうかそうか。それならいい。
     おまえが無事なら、まあいいよ。




    「まあいいのはホントだけど、ひとりでどうにかしようとするなよ。感心しないな」
    「それ、私がシンより弱いからですか。それとも商会の当主が捕まえた方が市井のウケがよかったですかね」
     粉砂糖をまぶしたパンを頬張ったジャーファルが、やわらかい眉間に深い皺を刻ませて言った。パンは当直明けの警吏が個人的に届けてくれたもので、だからそれはジャーファルが受け取った正当な報酬だ。子どもだからと気を利かせてくれたに違いない。警吏とジャーファルが言葉を交わすのを見ていた俺は、なんとなく誇らしく、そしてうれしかった。こいつが色んな人間と交流するところを見るのが好きだ。だって、ほんとうはもっと、もっともっと、人懐こくて快活で、他人との交流が好きな奴なんだ。
     ルルムが淹れてくれたコーヒー風味のミルクが二人分、うつわのなかで静かに湯気を立ち上らせている。ジャーファルはパンの粉砂糖をうすい唇の至るところに付けて、その口を不満そうに尖らせた。
    「そりゃあ、シンなら一晩もかからずに事が終わったでしょうけど」
    「そうじゃない」
     俺は背を丸めて、ジャーファルの口元へ手を伸ばした。親指の腹で唇についた粉砂糖をごしごし拭ってやる。彼は嫌な顔はしたものの、俺を邪険にしたり、手を振り払うような真似はしなかった。こうしているとまるで子どもだ。……子どもなのになあ。やる事なす事みんな背伸びをしていて、早く大人になりたそうで、もしかしたらこいつは、十一の頃の俺に物凄く似ているのかも知れない。俺は指先で拭い取った粉砂糖を舐めながら口を開いた。あまい。舌がとろけそうだ。
    「大丈夫だとは思ってたさ。おまえは強いし、そうそう簡単に誘拐なんかされないだろ。……でも、夜に飲み歩くのは当分やめる。当主の責任を感じた」
    「どうしてですか。大丈夫。シンが酔い潰れる前に迎えに行きますよ。あんたがどこへいたって、私には分かるんですから」
    「そうなの?」
    「そうですよ」
     ジャーファルはしれっと答えると、口を付けていないところのパンを千切って、俺の口元へ突き出してくる。俺があーっと口を開けると、そこへ向かってひとくち分のパンが突っ込まれた。前歯で生地を噛み切り、奥歯ですり潰す。粉砂糖が歯に挟まって、シャリシャリ軽快な音を立て溶けてゆく。贅沢な菓子だ。
    「……あまいなあ」
    「シンにそっくりです」
    「俺って甘いの?」
    「ええ。甘いです」
    「どこが?」
     ジャーファルは何も答えずに、もう一度パンを千切って差し出してきた。既にひとくち分を分けてもらった俺はそれを右手で制した。
    「お前が受け取った報酬だぞ。お前が食え。伸び盛りなんだから」
     十一の頃、俺はずっと腹を空かせていた。だからこのパンはこいつが食うといい。俺の分まで。いろんなことを、子どもだった頃の俺の分まで。ジャーファルに。
     パンを突き出したジャーファルはまばたきをしてさびしげに微笑み、「そういうところです」と言った。
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    Replies from the creator

    おとなし

    DONE「シンドバッド少年の憂鬱」の後日談、子ジャちゃん視点の話です。あと一話の予定でしたが分かれてしまいました。読んでくださっている方がおられましたらごめんなさい。
    この話単体では健全ですが後編は年齢制限が入ります。

    ※倫理的に問題のある描写を含んでいますが該当行為を推奨するものではありません。
    ジャーファル少年の憂鬱 前編 二日ほど寝込んだあいだに、雪はすっかり溶けていた。寒々しくきれいな冬の朝は、呼吸をするだけで病み上がりの肺を洗うようだ。分厚い窓ガラスの結露を手のひらで拭うと、なめらかな藍色に沈んだ寒々しい街並みを、昇りくる朝日がまばゆい白に塗り替えてゆくのが見えた。屋根の上を走る朝焼けが議事堂の尖塔を照らし、そこから落ちた影がまっすぐに商館へ伸びて来ている。次いで商館沿いの大通りを見下ろすと、ボロを着た新聞配達の子どもが尖塔の影をくぐり息を切らせて駆けていくのが視界に入る。遠目から見てもあっちのほうが上背があるけど、たぶん同い年くらい。この時間、あの子はいつも山盛りの新聞を両脇に抱えて南へ走ってゆく。普段通りの光景。私が寝込んでいた間も、街の時間は日々同じように流れていたに違いない。
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