セックスの後で別れ話を始める男なんて殺してもギリギリ無罪だと思う。まあ「国とケンカするからしばらく会えない」なんて言い訳はコイツにしては考えた方だって褒めてやってもいいけど。
今までどこの女と遊んだって最後はいつも私の所に帰ってきたのに、いい女ぶって面倒な事を言わなければずっとこの関係を続けられると思ってたのに。
「……別れたいんなら素直にそう言えばいいじゃん、バカのくせに変な言い訳しちゃってさ」
苛立ちまぎれにそう呟くと、ベッドの周りに投げ散らかした服を拾っていたタケの手が止まる。
「別に別れるとかいってねえだろ?ちゃーんと勝って戻ってくっから!な?」
いつもと変わらない調子で返されると、なんだか私がグズってる様な気分になって言葉が出ない。
タケの顔が見られなくてそのまま俯いていると、隣に座ってきて肩を抱かれてしまった。ノンデリのくせに生意気だな…
「マジでどうした?お前がそういうこと言うの珍しくね」
タケが気遣わしげに私の顔を覗き込みながら言う。こちらのご機嫌を伺う様な上目遣いのせいでいつ見ても惚れ惚れする美形がいつもより幼く見えた。
「だって意味わかんないから…急にギルド辞めたのもだけどさ、あんた最近仲間と何やってんの?」
震える声で返すと肩を抱く手に力が込められ、少し安心する。でも同じくらいムカつきもした。
「さいきん冒険ないからいっぱい一緒に居られて嬉しいって喜んでたじゃねえかよ〜」
「答えになって無いんだけど」
「あんまり詳しいことは話すなって半分に言われてんだよなぁ…」
珍しく歯切れの悪いタケの言葉に、言葉にできない不安が胸に広がっていく。
「ねえ、よく分かんないけど危ない事するのやめなよ」
言った瞬間しまったと思った、タケはこういうこと言われるの嫌いなのわかってるのに。面倒がって部屋を出ていくタケを想像すると胸が痛くなる。
悪い想像に囚われて俯いていると、タケが私の顎を掴んで強引に視線を引き上げた。いつの間にか私の目に浮かんでいた涙を親指で拭うと、悪戯に微笑んで囁く。
「危ない事しねー俺なんかつまんねぇだろ?」
そんな事ないって言えたらよかった。でも、確かに私はこの男のそういうところがどうしようも無く…
「死んだらどうするの?」
「そりゃ死んだら帰ってこれねーよ」
それでもつい口から漏れてしまった言葉に、『何いってんだコイツ』と言わんばかりの顔でピシャリと返される。
なんなの?心が粘土で出来てるの?まだモンスターの方が情緒あるわ。
「そーーいうことをいってるんじゃないの!バカ!床で寝て!」
何だか今までの心配も不安もバカらしくなって来た。しおらしくする甲斐がなさすぎる。
とりあえず本当に別れるつもりはないみたいだし、こいつ多分殺しても死なないから絶対帰ってくるわ。
「だからなぁんで怒んだよ〜!暫く会えねーんだから一緒に寝ようぜ」
タケの言葉を無視して毛布に包まると毛布ごと抱きしめられた。多分、明日私の目が覚める頃にはもうタケはいないんだろうな。
そんな予感も毛布越しに伝わる体温に溶かされ、私は眠りに落ちた。