わざとらしい呻き声をBGMに作ったお粥は美味しいんだろうか? 鍋をかき混ぜながら考える。別に私が食べるんじゃないし良いけど。
仮にも恋人である男が寝込んでいるのにこんな事を思うのは少々不人情がすぎるかもしれない。でも折角の休日にのんびりしていた所を無理やり上がり込まれたら甲斐甲斐しく看病する気も起きない。自由業の冒険者と違って私の休みは貴重だということをわかって欲しい。
そもそも普段は冒険から帰るたびに今回は何処の骨が折れただの、血を吐いて危うく死にかけただのとそれはそれは楽しそうに語る男がちょっと熱出したくらいで…
「なぁ~! なぁって~!!」
「うるさ……」
ああ、大きな子猫が鳴いている。考え事を遮る大声に火を止め、声の主の元に走る。
「どうしたの子猫ちゃん、ママはここだよ」
「誰が子猫だよ! やめろって言ったろその呼び方…」
ママはいいんだ…と思いながらベッドの縁に腰掛ける。
「あのさ、誰のためにお粥作ってると思ってるの?」
ズレた掛け布団をかけ直してやりながら言うと、哀れっぽい声で返される。
「なー、お前って俺が死んだら泣く?」
「この程度で死なないよ、微熱だよ」
「答えになってねぇだろうが~~!」
お前だってさっきの質問に答えてないだろ! と普段ならツッコむ所だけど、完全に甘えモードに入ってるタケちゃんにそんな事をしたらさらに面倒な事になりそうだからやめておこう。
甘えん坊の子猫には優しくしてあげなくては、ママとして。
「あのね? タケちゃんはつよーい冒険者でしょ? お熱なんかに負けないよね?」
自分でもゾッとするような甘い声が出た。もし引かれたら殴ろう、ママとして。
「うん…」
えっお前も甘い声出すの? そう思わず出かけた言葉を必死に飲み込む。そんな声が出せるなら先に言ってよね、思わず抱きしめるところだよ。
もしかすると冒険で負った傷と違って勲章にもならない、ただ大人しく寝ていないといけないこの状況は退屈を嫌う彼にとって私の想像よりずっとツラい物なのかもしれない。
「なぁ~~」
思わず黙り込んでしまった私に、タケちゃんがまた飴玉を転がす様な甘い声で呼びかける。
「うん?」
今度は本心から優しく聞くと、不安げな顔で見つめられる。美形ってずるい、そんな顔されたら何でもしてあげたくなってしまうじゃないか…
「…お前俺が死んだら泣く?」
「……そりゃ好きな人に死なれたら泣くよ、しかも自分のベットで」
普通にトラウマになる、ここ賃貸だし。とは言わないでおこう。
「だよな~! 離れてる間に死んだら嫌だろ? 俺寝るまでいてくれよ~」
私の言葉にパッと表情を明るくしたタケちゃんは、そう言って服の袖を掴んで離さない。タケ、可愛いやつ…
「お粥はいいの?」
一応聞くと「明日食うから!」と言うので取り敢えず良しとしておこう。タケちゃんがベッドの端に移動して出来たスペースに大人しく横になる。
汗でおでこに張り付いた髪を払ってあげると、タケちゃんはいつもより子供っぽく笑った。
◆
翌日、お粥を食べた後で薬を飲むように言うとタケちゃんが逃げようとしたので慌てて捕まえる。
「死にたいの!? 大人しくこの解熱剤を飲みなさい!」
「俺は粉薬は嫌いなんだよぉ!」
私が思わず声を荒げると悲痛な声で返される。さすがにこのワガママは可愛くない。
「言っとくけど粉薬だってタケちゃんのこと嫌いだからね」
「何でそんな意地悪言うんだぁ!!」
傷つきました! と言わんばかりの顔で抗議するタケちゃんの口を強引に開かせて薬を飲み込ませる。
心配しなくても良い子でお薬飲めたらちゃんと言ってあげるよ。
「でも私はタケちゃんが大好き」ってさ。