(キラ愛され)
「⋯⋯んー。少し休憩しよう⋯⋯」
ぐーっと腕を上に上げ背筋を伸ばす。引っ張られる感覚が気持ち良いと感じた。
気が付けば随分長くプログラミングのチェックをしていた様で、時計の時間は朝を示していた為、またやっちゃったなぁとのんびり考える。まぁやってしまった事は仕方がないかと、気分転換出来も兼ねて自室から出た。
「キラ!」
「え? ラクス?」
突然声を掛けられ、振り向いた先にミレニアムに居ないはずのラクスがいた事に驚く。
「どうしたの? ミレニアムに来るって言ってた?」
「ふふ。内緒にして来たのですわ。キラにこれを渡したくて」
そう言って差し出されたハートの形をしたラッピングケース。
「これはバレンタインチョコですわ。勿論本命チョコですので」
「えーと、ありがとう」
本命チョコを強調して言ったラクスに、お礼を言うしか出来なかった。
「僕に渡す為に来てくれたの?」
「はい。ですがキラだけではなく、ミレニアムの皆さんにも渡す為に来ましたの」
「そっか」
総裁でもあるラクスからのバレンタインチョコなら皆喜んでいるだろうなと微笑ましくなる。
「⋯⋯キラ、もしかして眠っていませんか?」
「え!?」
ラクスに言い当てられ、思わず声を上げてしまった。誤魔化そうにも1度肯定したも同然の為意味は無いだろう。
「⋯⋯キラ」
「うっ、ご、ごめん⋯⋯」
素直に謝るとラクスはため息を着いて仕方がありませんわね。と微笑む。
「キラは休息時間にして頂きますから、ちゃんとお休みして下さいな」
「⋯⋯わかったよ」
総裁権限だと言われてしまえばキラも従う他無い。
とにかく一度食堂に行って飲み物を取りに行きたかったのだと伝えると、ラクスは分かりましたわ。と一言告げるとブリッジへ移動して行った。
ラクスと別れた後食堂へ向かうと、アグネス、ルナマリアに声を掛けられた。
「隊長! これバレンタインチョコです!」
「私からもあります。良かったら食べて下さい」
「ありがとう、2人とも」
2人からそれぞれチョコを受け取ると、先程ラクスから貰ったそれをアグネスが見つけた。
「⋯⋯これ、総裁からですか?」
「え? あぁ、うん。さっき会ってね」
「ふーん⋯⋯」
アグネスは面白くはないと言った様子ではあったが、それ以上は何も言ってこなかった。
「流石総裁。これプラントでも有名なチョコのお店で最高級だって聞きましたよ?」
「え!? これそんなに凄いチョコなの!?」
食べるの勿体無いかもしれないなんて、庶民感覚丸出しな考えをしていると、アグネスが溜息を付いた。
「隊長! こんな最高級のチョコ滅多と食べれないんですから、しっかり味わって食べないと総裁にもですし、お店の人にも失礼になりますからね!」
そんな貧乏臭いこと言わないで下さい! と言われて思わず「ご、ごめんね?」と謝った。
「アグネス⋯⋯」
ルナマリアがアグネスを嗜めたが、キラはそれを止めた。確かにアグネスの言う通り、勿体ないからと食べないのは良くないだろうと反省した。
「2人からのチョコも後で頂くね」
ニコッと笑って言うとアグネスはぽっと頬を赤くし、ルナマリアもこくこくと頷いた。
その後アグネスとルナマリアの2人と別れ食堂へ行き飲み物を調達すると、自室に戻る前に格納庫へ立ち寄る。
格納庫内が嫌に騒がしくて首を傾げると、キラの姿を見付けたハインラインが近付いて来る。
「准将、ちょうど良かったです」
敬礼をしてハインラインは珍しく困った顔をしていた。
「なんだが慌しいですが、何かありましたか?」
「すみません。補給の物資と共に来た荷物が厄介で」
「荷物?」
「ええ。しかもその荷物は全て准将宛になっております」
「えっ!?」
まさかの自分宛の荷物で騒がしくなっているとは思いもしなかった。しかし、手配をした記憶もないし、確認する必要が有りそうだとハインラインに尋ねる。
「これなんですが⋯⋯」
差し出された宛名や中身の検品の項目を読むと、プラントやらオーブからの荷物で中身がチョコと書かれていて目を見開く。
「えっ!? これ全部そうなんですか!?」
ざっと見ただけで大きなコンテナが5つは有る。この全てにチョコが入っているというのだろうか。
「全てチョコだとは思えませんが⋯⋯しかし、これだけの量を検品するとなるとなかなか⋯⋯如何なさいますか?」
「えー、えーと⋯⋯」
予想外の事に頭が痛くなる。何がどうしてこんなことになっているのだろうと困っていると、格納庫にシンがやってくる姿が見えた。
「あ、キラさん! ここにいたんですか? 呼びに行ったら自室に居ないし」
「シン。ごめんね。えーと、何かあった?」
「この件を報告しようと思っただけなんで大丈夫です! 凄いですね。これ全部バレンタインチョコみたいですけど⋯⋯」
「うーん。そうみたいだけど、なんでまた⋯⋯」
今までもチョコを貰う事はあったが、ここまでの大規模で貰ったことは無かった。なにか特別な事をしただろうかと考えていると、シンが分かったといった様子でポンッと手を叩いた。
「これあれじゃないですか? 国際救難チャンネル」
「なるほど。それならこの数は納得出来るな」
シンの言葉にハインラインも納得だと言わんばかりに相槌をしていたが、キラだけよく分かっていなかった。
「⋯⋯どういうこと?」
「ほら、ファウンデーションの時、キラさん初めて国際救難チャンネルで顔出ししたでしょ?」
「あぁ、うん。そうだね」
そういえばあの時はあれしか方法が無くて救難チャンネルを使用した事を思い出した。
「あの一件でキラさんの事が世界中に知れ渡って、いろんなテレビ番組で話題が持ちっきりだったらしいですよ!」
「ええー!」
知らなかった事実に頭を抱える羽目になった。
「つまり准将の人気がうなぎ登りになった成果が、今回のバレンタインチョコを送りたいという結果になり、こうして集まったものが送られてきたということか」
くいっと片方のメガネを上げたハインラインは、口元に笑みを浮かべていた。
「流石我らの准将です」
「⋯⋯いや、あの⋯⋯とにかく、どうにかしないとだね⋯⋯けど、これ多分僕だけってことは無いんじゃない? シンや他の皆宛もあるんじゃないかな?」
あの時一番に活躍したのはシンだ。彼の話もプラントだけではなく地球でも評価されていたはずだ。
「もちろん俺宛もあったみたいですけど、残りは全部キラさん宛でしたよ!」
流石です! なんてキラキラした目で見てくるシンに何も言えなかった。
「あらあら。どうかされましたか?」
「これはまた⋯⋯凄いですな」
ラクスとコノエが2人揃って格納庫へやって来て、重なったコンテナを見て驚いていた。
「ラクス⋯⋯」
「キラ。まだお休みになっていませんのね?」
「ちょっと格納庫に顔出そうとしてただけだよ」
ラクスからの視線に苦笑する。早く休んで欲しいと心配してくれるラクスに、申し訳なさを感じつつ、このままこれを放置してゆっくり休む事は出来ないからと荷物を見る。
「⋯⋯一先ず中身を選別する必要がありますわね。食べ物とそうでは無いものに分けて、全てキラに食べて頂くことは難しいですから、世界中の孤児院に寄付するというのは如何でしょう?」
「そうですな。准将から配信等でその旨を伝えれば問題もないでしょう。しかし手作りの物は危険があるのでそちらは処分しましょうか」
コノエからの提案にラクスも頷く。
「そうですわね。下さった皆様の想いを頂きましょう」
「了解致しました。この後総出で対応に当たります」
「よろしくお願いいたしますわ、ハインライン大尉」
「僕も手伝いを⋯⋯」
自分宛の荷物ならちゃんと自分の目で確認したいと思った時シンに止められた。
「キラさんは休んで下さい! 俺が手伝うので!」
「けど、シン」
「大丈夫です。ルナマリアやアグネスも連れてくるし、今日は特になにか問題もないと思うんで」
俺達に任せて下さい! と言ったシンと、ラクスやコノエからも任せては? という言葉に分かったと頷いた。
「⋯⋯少し休んだら僕も見るから」
「了解です! 本当しっかり休んで下さいね? 早く来たら送りますからね?」
僕って信用ないなぁなんて笑いながら「分かったよ」と大人しく従う事にした。
それから大人しく自室に籠りまとめて5時間は眠り、それから格納庫へ向かうとある程度仕分けも完了していた。
カガリやミリィ達からのチョコはキラにきちんと渡され、キラのファンですというメッセージと共に添えられたその他のチョコやお菓子達は、また更に分けられて後日プラントだけではなく地球の各国の孤児院等への寄付として渡された。
手作りもやはりあったが、それは流石に危険だということでキラにもミレニアムのクルー達にも渡されることは無く、もちろん寄付も出来ず廃棄にするしか無かったが、手紙はキラが預かり一通り目を通して、後日配信という形でお礼を伝える事になった。
『平和監視機構コンパス、総指揮官のキラ・ヤマトです。この度はバレンタインに沢山のチョコやお菓子、プレゼントを送って下さりありがとうございます。量も沢山で食べ切る事は出来ない為、世界各地の孤児院等に寄付をさせて頂きました。中にはどうしても廃棄しなくてはならない物もありました。それは申し訳ありません。手紙はひと通り目を通させて頂きました。皆さんからの素敵なメッセージありがとうございました。これからも平和監視機構コンパスは、世界が平和になるように手を取り合って行きます』
配信されたキラのメッセージに、批判が出る事は無く、むしろ熱狂的なキラファンが爆発的に増えたのは言うまでもない。