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    にずみ

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    にずみ

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    なぎれお 凪玲 ngro
    ・帰国したお正月の話
    ・未来if プロ軸
    ・ng→(←)ro

    久しぶりに帰国したのでお正月らしいことをしたいroがngを誘うが、ngはめんどくさいため断ろうとすると意外にもroはあっさり引き下がって…?

    お正月のngro 正月らしいことをしよう! とは玲王が言い出した。
     なんとかもぎ取った年末年始の休暇を利用して帰国し、示し合わせたわけではないけれど玲王とともに空港から凪の部屋へ直帰した。帰国するにあたりぱんぱんに詰め込んだタイトスケジュールをこなして、やっと肩の荷が下りたのは大晦日のことだった。
     玲王が取り寄せた最高級のそばを昼食に食べながら、玲王は楽しそうに提案してきた。一応、年越しそばの体をとっているが今はまだお昼時だ。アスリートとして不摂生を避けるためにこうして昼食として麺をすすっている。しっかり咀嚼して飲み込んでから、凪は口を開いた。
    「えー、めんどくさいよ」
    「正月だぞ? せっかく日本に帰ってきてるんだし、出かけようぜ」
     この日の凪は、程よく疲労の溜まった体に美味しいものを摂取して、あたたかい自宅で好きな人と過ごせるという、とても幸せな状態であった。よっぽどのことがなければこの空間が永遠に続いてほしいと思うくらいには、動きたくないと感じていたほどだ。そのせいで、普段以上にのろのろと動作が遅く、のっそりと椅子から立ち上がる。
    「俺はお正月もここで玲王とゆっくり過ごしたい…」
     二人でシンクに並びながら、玲王が皿洗いを、凪が皿拭きを行う。手際よく泡を洗い流した玲王の手が凪へ食器をわたし、凪がそれを受け取る。自身の意見を出しつつ、ちゃっかりと玲王の正月のスケジュールを自分で埋めてしまおうという魂胆であった。
    「それじゃあいつもと変わんねえだろ。ったくお前は…」
     水を止めた玲王が手を拭きながら笑う。凪が面倒くさがり、玲王が呆れたように笑って、それでも玲王が諦めず何度も凪のことを誘う。その一連の流れが凪は嫌いではなかった。むしろ好きだった。仕方ないな、というように目を細める玲王が可愛くて、凪を誘うためにどうしたものかと思案する表情がいじらしくて、そんな玲王のことを独占したかった。
     だから、凪としてはもうひと問答したあと、首を縦に振るつもりだったのだ。わかったよ、なんて諦めたように口にして、その実誘ってもらえた嬉しさをばれないようにしながら応える気がちゃんとあった。
     なのに。
    「そっか。じゃあ正月は別々に過ごそうぜ」
    「え」
    「あ、寝正月にはすんなよ! 適度に運動しろよ。あと、実家に挨拶に行け。行かなくても連絡はしろよな」
     お前、帰国しても連絡もしないもんな。凪の特性をよく知っている玲王の言葉に、だって放任主義だからと返しながら凪は驚いてた。
     玲王が案外あっさりと引き下がった。もっとぐいぐい誘ってくるものだと思っていたから拍子抜けしている。表情には出ていないだろうから、玲王にはばれていないはずだ。玲王が自身の腕時計を見やった。
    「ん、こんな時間か。そろそろ帰るなー。また来年!」
    「うん、今年もお世話になりましたー」
     ひらひらと手を振る玲王を見送った。扉が閉まりしんとなった玄関に佇む。イングランドからここまで数十時間、玲王とずっと一緒にいたから急に一人きりになるとなんとなく寂しさを感じた。
     断ってから、玲王が言っていた正月らしいこと、というものが気になってきた。存外、あっさり引き下がった玲王にショックを受けているのかもしれない。しかし、玲王のいう正月らしいことなんて、外出することなんだろうなということは予想できた。正月に外出するなんて想像しなくても凪には面倒くさいことだった。今日の凪が誘いを承諾しても、後日の凪が行きたくない気分になる可能性もある。
     玲王に言われたことを思い出しながら、寝室にむかう。ほんの少しでも気が向いたら実家に顔を出してみようか、なんて考えながら凪はベッドの上へ身を預けた。


     好きな時間に寝て、好きな時間に起きる。年末年始だからといって凪の休日の生活スケジュールは変わらなかった。玲王の言いつけを守って、ジムに赴きトレーニングは継続していた。
     年越しの夜、SNSの通知欄が新年のあいさつで埋まる中、玲王からのものだけにいち早く反応し、自分も同じように挨拶を返したのが凪の新年のはじまりであった。文面は簡素なものであったが、凪のことを考えて選んでくれた言葉に頬が緩む。そのまま、気づいたら寝てしまっていた。
     結局、実家に帰るのは気が乗らず、電話での挨拶に留めた。急な息子からの連絡に数か月ぶりに話した母親の声は特に驚きも嬉しさも感じられず、ただ体に気をつけて、とだけだった。我が母ながら淡白な人である。
     寝て起きてゲームして、トレーニングをし、お腹が空いたら食事をとる。凪の定位置はベッドの上だ。そうして、気づいたら一月三日になっていた。
     そろそろ正月休みも明けて仕事が始まる人も多いだろう。凪と玲王がイングランドに戻る日も近づいていた。
     本日のトレーニングを終えて帰宅する。リビングのソファに腰を下ろしたと同時にあるSNSの通知が表示された。玲王が何か投稿したのだ。凪は玲王の投稿だけはすぐ気づけるように通知をオンにしていた。
    「は?」
     玲王が投稿したのは三つの写真と一つの動画。投稿文は数行のありきたりな構成だ。凪が間抜けな声をあげてしまったのは、その内容に起因する。
     一つ目の写真は、玲王がカメラにむかって笑顔でピースをしている姿だった。お気に入りだと言っていたトップスを身に纏い笑顔をむける玲王はたいそう可愛いが、その横で同じようにポーズをとる千切がいた。それだけならまあ、玲王と千切は仲がいいし、で済むのだが、問題は場所だ。二人はなぜか並んで炬燵に入っている。見たところ、誰かの御宅であろう生活感を感じた。炬燵の上には菓子の入った籠が置かれ、二人の前には食べかけのみかんが鎮座していた。
    「どこ、ここ」
     写真をスワイプする。残りの二枚にも同じようにどこかの御宅でくつろぐ玲王と千切の姿が写っており、傍のテーブルにはお雑煮やおせちが並べられていた。カメラに視線をむける玲王はやっぱり笑顔で、カメラのむこうに玲王がとびきりの笑顔をむけてもいいと思うぐらい心を許している相手がいるのだと察することができた。
     最後の写真をスワイプして、出てきた動画の再生マークを恐る恐るタップする。数秒もしないうちに画面の中の玲王が動き出した。
    『撮れてる?』
    『撮れてる撮れてる』
     場所は外のようだ。着込んだ玲王が鼻の頭を赤く染め、白い息を吐き出している。彼の横には雪をかき分けて露わになった地面に、漫画でしか見たことのないような、臼、が置かれていた。臼?
    『今から錬介…あ、國神と餅つきしまーす』
     凪が状況を読み込めないままに動画は勝手に進んでいく。玲王が声をかけると、画面外から杵を担いだ國神が歩いてきた。今、錬介って呼んだ? 思わずスマホを持つ手に力がこもる。
    『じゃ、お嬢撮影よろしく』
    『おー』
     頑張れー、と応援の声が画面外から聞こえ、カメラが少し揺れる。撮影者は千切のようだ。
     玲王は地面に膝をつく。きっと高い服だろうに汚れるのもお構いなしだ。玲王は腕まくりをして國神を見上げる。二人は顔を見合わせて頷くと、千切の掛け声に合わせて餅つきをはじめた。國神が豪快に杵を振り上げ、その間に玲王が餅を折り込むように動かしていく。
    『あははは! めっちゃ息ぴったりじゃん!』
     溌剌な笑い声が聞こえ、また画面が揺れた。目の前の光景が千切はたいそうお気に入りなようだ。玲王と國神の動きは次第にヒートアップしていき、まるで何かの競技のような白熱さを見せている。
     ある程度餅つきを繰り返したところで二人の動きが止まった。カメラが臼へ近づいて、中の餅が映される。それから玲王と國神が息を整えながら仲良く並んでいるのを映して、千切の「今からこの餅を食べまーす」との緩い挨拶で動画は終わった。
     見終わってから凪はすぐに動けなかった。玲王が可愛い、なんで、どこ?、なぜお嬢ときんにくんが一緒なの、可愛い、どこ、本当にどこ?、可愛い…。微動だにしない表情と裏腹に凪の感情は大渋滞を起こしていた。
     急いで投稿文を確認する。
    「國神のご実家に千切と一緒にお邪魔しました! 錬介くんのご家族、ご親戚の皆さんありがとうございました!」
     写真と動画から徐々に予想はついていたが、玲王と千切が訪れていた先は國神の実家だった。プライバシーを配慮してか写真や動画には入り込んでいないが、國神の身内に大変お世話になったのだろう。玲王も千切も見た目もよくてコミュニケーションに何ら問題がないからすぐに気に入られたはずだ。
     玲王の他にも千切、國神もそれぞれSNSで写真や動画を投稿しており、そのすべてが楽しそうで、いわゆるオフショットが好きなファン層に好評だった。千切が投稿した写真と動画では、玲王・千切対國神で雪合戦をするものがあり、二人からの集中砲火を浴びた國神が善戦する様子が動画に収められていた。雪と汗でびしゃびしゃになっているのに、写真の玲王は屈託なく笑っていて、とうに成人を迎えているというのにまるで高校時代を思い起こさせるような笑みを存分に見せていた。
     ネット上では大盛り上がりだ。拡散やいいねが更新するたびに増えている。コメント欄も「実家に行くなんて仲良し!」「お餅美味しそう」「三人の笑顔が素敵」なんて肯定的なもので埋め尽くされている。確かに仲が良いし、美味しそうであるし、笑顔は素敵だけれども。
     盛り上がるネット上と対照的に凪の気分は急降下していった。なんで俺を誘ってくれなかったの、と子供じみた感情に支配される。凪自身が断ったからだということはわかっていた。それでもこんな玲王を見せられて、仲の良さを公開されて、すぐ隣にいるのが自分ではないことが悔しかった。


     帰りの新幹線で千切と話しているとポケットに入れたままのスマホが震えた。振動は一度では収まらず、電話であることに気付き、千切に断りを入れてデッキまで移動する。画面に表示された名前は予想通りの人物だった。
    「今どこ?」
    「ふ、開口一番それかよ。あけましておめでとう、凪」
    「あけおめー…」
     新年の挨拶はSNS上で済ませていたが、電話越しとはいえ凪と話すのは年を越してから初めてだった。例の投稿をしてから十分も経っていない。中々の速さだ。
    「どこ行ってたの」
    「お前見ただろ? 國神の実家だよ」
    「なんできんにくんの実家?」
    「あー、年明けて偶然千切と國神に会ってさ。國神が次の日実家に帰るっていうから冗談で付いて行っていいか聞いたらいいぞ、って。奇跡的に新幹線とれたから弾丸ツアーしちゃった」
     せっかく日本に帰ってきているのだから特別なことがしたい、と漠然と考えていたが、まさかこんなことになるとは玲王も予想していなかった。自分の行動力にも驚くが、それについてくる千切の豪胆さに感心し、急遽二人が訪問することを許してくれた國神と彼の家族にも感謝しなくてはならない。
    「國神の実家すげーいいとこだったぞ。ご飯も美味しいし、家族も優しくて。錬介をよろしくって任された」
    「それ。なんで下の名前で呼んでるの。動画でも呼んでたし…」
    「國神家で國神呼びじゃわかんねーだろ。國神さんしかいないんだから」
     そうだけどさ、と続ける凪の声からむっとした顔をしているのが予想できた。笑い声を抑えられないでいると、何笑ってるのさ、とますますむくれた声がする。
    「玲王」
    「何」
    「俺がどんなに嫌がっても誘い続けてよ」
     言葉に詰まる。凪は大晦日の二人のやり取りのことを言っているのだろう。すぐには返事ができなくて、一瞬視線を彷徨わせる。
    「…やだよ」
    「なんで」
    「めんどくさいだろ。お前にめんどくさいって、できれば言われたくない」
     まだまだ人間としてもサッカー選手としても未熟だったころに凪に言われた言葉は、だいぶ小さくなったといえどまだ傷として玲王の中に残っていた。その傷跡が凪のことに関して、玲王のことをほんの少し臆病にさせる。
    「めんどくさい…は言うかもしれないけど、」
     黙って聞いていた凪が口を開く。
    「玲王とならどこまでも一緒に行くよ」
    「お前、それ…、熱烈だな」
    「俺の本気度わかった?」
    「わかったから…」
    「じゃあ玲王、東京に戻ってきたら俺の実家に行こうよ」
    「はあ? お前実家に帰ってないのかよ」
    「電話はした」
    「だったらなんで帰んの?」
    「俺の両親に挨拶してよ。きんにくんに先越されたのは悔しいけど、終わっちゃったことはしょうがないよね」
    「どうして俺がお前の両親に挨拶する必要があるんだ? まあお世話になってます、くらいは言うけど…」
    「玲王は俺のパートナーなんだから」
     はあ? と自分の口から素っ頓狂な声が上がった。思わずに口に手をやってあたりを確認するが幸い人影はない。
    「…サッカーの話?」
    「人生の話」
    「…んな話、こんなところでするなよ!」
     大声にならないよう、でも凪にはしっかり伝わるように勢いよく言葉を続ける。なにかとんでもない話を新幹線のデッキでしてしまっていた。
    「そういうことは、顔見て言えよ。…俺もちゃんと言うから」
    「わかった。玲王、何時に東京つくの?迎えに行く」
    「え、八時頃だけど…いいよ、無理すんな」
    「無理じゃない。俺がやりたくてやるからいいの。逃げないでね」
    「逃げねーよ…」
    「また東京でね」
    「おう…」
     圧倒されるままに凪と約束を交わして、通話終了マークをタップする。画面は見慣れたロック画面に戻った。新幹線のアナウンスはちょうど、次は大宮であることを告げていた。
    「俺、帰ったら告白されんのかな…」
     壁にもたれかかったまま見やった窓には情けない自分の顔が映っている。スマホを持たない片手で頬に手をやると熱かった。顔の赤さが引くまで、千切に何かあったと悟られないようにするため、当分はここから動かないでおこうと高鳴る心臓を無視して玲王は思った。
     
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