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    chandora_0204

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    chandora_0204

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    ぐだモルSS。ifルートです。これに関しては投げられた石は受け入れます()

    魔女の見たユメ妖精達が助けを求める声が聞こえる。
    救世主トネリコ都合の良い便利屋を呼ぶ声が。
    「あぁ!救世主よ!」
    「どうか!どうか私達をお救い下さい!!」

    助けても、助けても何度もお前たちは次を求める。

    「偽物め!!」
    「嘘つき!私達を助けてくれなかった!!」

    感謝を口にする事などありえない。
    受けた恩は平気でドブに捨てる。

    「助けてくれ!!」
    「お願い!何とかして!!」

    何度でも、何度だって。
    お前らは私を都合よく求める。

    「出ていけ!!」
    「魔女め!!」

    ————————だから。

    「ありがとう、モルガン。君のお陰で助かった。」

    そのコトバは、深く深く、胸の奥まで、響き渡った。
    乾いた大地を潤す、雨のように降り注いだ。
    モノクロの冬を解かす、春の温かさのような、色鮮やかな温もりだった。
    あの子と同じ、純粋な感謝の言葉。


    それはモルガンにとって、何よりも輝く星のようで。
    近づけば近づくほどに、目が眩む明るさで。

    酷く甘い、心に充足を与えてくれる果実の様で。
    理性を失い、ただただ酔い続けるワインの様で。

    傷ついた心を癒し、治してしまう薬のようで。
    一度使ったら、執着し、依存する、麻薬のような危うさで。

    ソレを知ってしまったモルガンは。
    本来あるべき形の出会いを歪まされてしまったモルガンにとっては。

    あまりに手放し難い人致命的な毒で。
    藤丸立香に、どうしようも無く狂ってしまっていた。



    「……………。」
    「君には本当に感謝している。なのに、恩を返さずに勝手に帰るなんて虫のいい話だって理解している。」

    今まで私の前にいたのは、それを理解するどころか、思考の片隅にすら引っ掛からないような連中ですよ?

    「でもごめん。これだけは譲れないんだ。やらなくちゃいけない事が、果たさなきゃいけない約束がある。」

    目的も、誓いも、責務も。それら全て放り出して怠惰な毎日を、人間のマネゴトを行っている醜悪な生物しかいないこの場所で、貴方のその輝きは何よりも美しくて。

    「だから……帰らせてくれ。俺が元居た場所に。」

    放したく、なかった。
    別れたく、無い。
    なにより、だって、あなたは。

    「本当に……戻る気ですか…?」
    伝えられた記憶を辿る。
    あの私が見て来た、彼のここまでの旅路を。

    人理焼却。
    特異点修復。
    ただ巻き込まれた人が背負うにはあまりに重い重圧。

    人理漂白。
    異聞帯切除。
    帰りたかっただけの人が背負うにはあまりに重い業。

    ここに居ればそんなものは無いのに。
    あそこに戻れば、終わりの無い苦痛と虚無が待っているだけなのに。

    「うん、戻る。」

    揺るぎない目で貴方は宣言する。
    理解していない訳では無いだろう。
    いや、むしろ私よりも、誰よりも理解している筈だ。

    藤丸立香に、平穏な日常が戻ってくる事など、遥か遠くの理想になってしまっている事を。

    なのに貴方は進む。
    なのに貴方はやる。

    そんな貴方だから、私は—————————。

    「………分かりました。」
    立香の前に立つ。
    そんな私を見て、貴方はほっとしたように、申し訳なさそうに、淡く微笑む。
    「………。」
    彼の足元が輝き出す。
    緻密な魔法陣が描かれる。
    私の思考に走るのは、あの私から託された彼を帰すための術式で—————。
    「………。」
    南の島での、可愛らしい生物との憩いのひと時。
    新たな妖精岸騎士を迎える、盛大なお祭り。
    私の建てたホテルで過ごした、夢のような『夏の記憶』。

    愛しい激動の日々。
    無論、愛おしいのは平凡な日々も同じで。
    楽しそうに日々を送る娘を見守る私。
    友人との楽しいお茶会。
    かつての私が喜びそうな、大きな図書館。
    なにより、近くには貴方が居て。



    そして、この先、私に待つのは——————なにも、分からない。
    ソレをあの私は教えなかったから。
    伝えては、くれなかったから。
    でも、だから分かる。
    教えなかった事がなによりも物語っている。
    私は、この先の、私は—————。



    「……嫌。」
    「………モルガン。」
    「嫌。嫌!嫌!!」
    みっともなく縋りつく。
    我儘な子供のように喚く。
    嫌だ。嫌だ。嫌だ。

    離れたくない。
    別れたくない。
    手放したくない。

    貴方を知ってしまったからには、もう離れたくない。

    「私を、残さないでください。」
    縋りついた貴方の身体は、想像よりも華奢で。
    こんな身体で、あの日々を駆け抜けた事が信じられなくて。
    守りたい。
    助けたい。
    例えそれが、貴方の世界を殺す事になっても。
    酷く独善的で、歪で、身勝手な願いだと分かってる。
    それでも、世界なんてどうでも良いから、貴方が幸せでいて欲しい。
    貴方の幸せには、私が必要だと、言って欲しい。
    「貴方がこれ以上苦しむ必要も無い。」
    だから、到底出来なかった。愛しい貴方を、あそこに送り返すのが。
    「……それでも、進むと決めたんだ。」
    知ってる。
    貴方がそう言う事は分かってた。
    貴方もどうしようもなく壊れてしまっているのだから。
    今の私も、あの私も、そんなの分かってた。
    「言いましたよね?帰ってもサーヴァント達は皆退去している。また召喚するつもりですか?貴方がここまで積み上げて来たもの全てを、やり直すつもりですか?」
    「…うん。やり直すよ、何度でも。」
    静かな、優しい声で、貴方はとても残酷な事を言う。
    どこまでも優しい貴方。
    誰にも優しいのに、自分にだけは優しくしてくれない貴方。
    今もこうして、身勝手な願いを叩きつけている私を優しく抱きしめ返してくれる貴方。
    その温かさは何よりも心地よくて。
    溺れてしまいそうで。
    溶けてしまいそうで。
    だから、だから。
    「それでも……お願い…!」
    私を、離さないで。
    私を、見捨てないで。
    私を、一人にしないで。
    「貴方を、愛しているの。」


    今の私の境遇を、辛いとは思わなくなった。
    とうに、忘れてしまったから。
    蓋を、してしまったから。
    だけど、貴方が思い出させてしまったから。
    貴方が、蓋を開いてしまったから。
    もう、辛くて、悲しくてたまらないの。


    「私の全てを、あげるから。」
    身体も、心も、全部。
    「それでも、私を愛せないのなら、辛いですが、別の者を娶るのも許します。」
    貴方の愛が、別の者に注がれるなんて、想像するだけで魂が裂かれそうになるけど。
    それでも、貴方を失うよりは良い。
    「だから、ここに居て下さい。」
    私の傍に、居て下さい。



    「………。」
    声がしなくなった。
    伝わってくるのは貴方の悲しみと苦しみ。
    顔を見上げると、噛んだ唇から血を流していた。
    苦悩している貴方の顔。
    そんな顔をさせるつもりは無かったのに。
    そんなに苦しめたくは無かったのに。
    ごめんなさい。
    そう、口にしようとして。





    「ごめん。それでも、行かなくちゃ。」

    貴方の、拒絶の言葉に、頭が白くなった。

    あぁ、そうか——————————————。
    間違っていたんだ私は。
    この人は折れない、くじけない。
    どれだけ切実に願っても、きっと受け入れてくれない。
    だから、だから————————。

























    あなたを縛るモノを、潰さないといけない。
    そうしないと、貴方を手に入れられない。





    「——————————分かりました。」
    「…?モルガン?」
    気配が、変わった。
    何かが、マワッタ。
    そう、錯覚する程の気配が、モルガンから放たれていた。
    「モルガン?どうし——————————。」
    目が、あった。
    その時、藤丸立香は悟った。
    (しまった、間違えた————!?)
    致命的なミスをしたと、遅まきながら気づく。
    慌てて、口を開こうとするも。
    もう、遅かった。
    「——————————————あ、。」
    「大丈夫…。大丈夫ですよ…。」
    クチが、カラダが、ココロが、固まっていく。
    藤丸立香を構成する全ての要素が、別の物に置き換わっていく。
    そんな立香を見つめながら、頬を撫でるモルガンの目は酷く穏やかだ。
    盲目的なまでに穏やかで—————劇物のような愛に満ちていた。
    「後は全部、私が何とかします。私が貴方を縛るモノ全てを消します。だから、その時は。」
    私の、気持ちに、答えて下さいね?
    きっと、そう言っていた筈だ。
    耳と肌と舌の感覚を封じられた立香が、最後に残された目が、そう受け取った。

    そして、受け取った直後に、藤丸立香を構成する要素の全てが、青い宝石に変わった。




    「これで、後は—————————。」
    カツン、と誰もいなくなった部屋に鳴り響いた。
    音の発生源は、青い宝石。
    急に冷え込む。
    先程まで感じていた温もりが無くなり、沸騰していたモルガンの脳が急激に冷える。

    「あと、は———————————。」
    ナニをするつもり、だったの?

    「——————————————。」
    眩んでいた目が落ち着く。
    酔いから目が覚める。
    薬の効果が無くなる。

    そして、自分の所業を、振り返る。

    「……あ。」
    貴方が、欲しかった。
    貴方と、離れたくなかった。
    ただただ、その一心で。
    あなたを、あなたが大切にしてるものを。
    踏みにじろうとしていた。

    「あ、あ、あ……!!」
    いっそ憎まれれば良かった。
    怒りを宿してくれれば良かった。
    なのに、なのに———————。

    最後の最期まで、貴方の目には申し訳なさと、こちらを労わる優しさがあった。
    私のような、自己中心的な魔女にさえ、憎しみをむけなかった。
    そんな人を、私は、私は——————————————。

    「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

    発狂してしまいたかった。
    いや、もうしてしまっている。
    自分がしてしまった事に、耐えられない。

    なにより、あなたを失ったこの世界で、あなたという存在を知ってしまった私は、これ以上、進めそうにない。

    「もう、良い。」

    耐えられない。
    辛い。
    虚しい。
    こんなもの春の記憶を持ってしまったから。
    貴方を知ってしまったから。
    こんなに、辛くなる。
    だったら、いっそ。

    「あぁ、でも——————————。」

    最後の最後に、昏い喜びが胸に走った。

    「これで、貴方を手に入れる者は誰もいなくなる。」
    人にも、英霊にも、妖精にも、世界にも、私自身にも。

    「貴方は、永遠に私のモノ。」

    こうして、魔女はユメから覚めた。








    「…………む?」
    玉座の上で目が覚める。
    うたた寝をしていたかのようだ。

    「………ふむ?」
    ここ数日の記憶が曖昧だ。
    だがどうも、自分はベリル・ガットとの婚約関係を破棄した上で、別の異聞帯に追いやったようだ。
    なぜそんな無意味な真似をしたのか、訳が分からない。

    所詮は、言葉だけの関係。無意味な事だ。

    呼び戻そうと、連絡を取ろうとするが、その前に。

    「……なんだ、これは?」

    手元には青い宝石。
    中々の逸品だ。
    とは言え、装飾品など必要無い。壊そうとするが—————。

    「……なんだ、これは。」

    その宝石を見ると、酷く心がざわつく。
    不快な感情が込み上げる。
    頬を、何かが伝う。
    なのに、なのに。

    「……………まぁ、一つ位なら良いか。」

    その宝石をモルガンは壊さずに、胸元に付けた。
    けれど、なぜそうしたのか、そうしたかったのかは。
    思い出す事が、出来なかった。
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