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    auuauumu

    @auuauumu

    葬送領主と悪党の小説練習置き場です。BLです。

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    マハグリュ熱海新婚旅行。南紀白浜でもいいよ。

     耳を澄ますと波の音が聞こえる、海が近いからだろうか。白を基調とした広々とした部屋だ。しつらえに豪華さを添えるファブリックの明るい色が映える。
     さりげなく置かれたラタン製の調度品は質の良さが伺える細やかな細工で編み込まれていて、リラックスした雰囲気がいかにも保養地らしい。

     壁の一面にもうけられた大きな窓からは、午後の穏やかな光が燦々と降り注ぎ、グリュックを優しく温める。この季節でも温かな日差しは、北部高原のヴァイゼでは体験できないものだ。換気窓から吹き込む風も爽やかだ。

     グリュックは窓際のラタンの寝椅子に体を横たえていた。常のどこか張り詰めたような様子はなく、心からくつろいでいるように見えた。その手にはグリュック家の書斎にあるものより、簡素な装丁の本が鎮座している。

    (物語の本など何年振りだろう。)
    彼は半分ばかり読み終えた本に栞を挟み、伸びをする。ここ何年も国内の報告書や諸国の情勢についての文字や数字ばかりを追っていて、文章を楽しむことなど考えられなかった。
     もう一度本を開き、物語の世界に戻れば、生き生きと跳ね回る主人公の荒唐無稽な活躍に思わず口元が綻ぶ。

     グリュックは寝巻きのようなゆったりとしたズボンに、同じくゆったりとしたチュニックを着ていた。いつもは首元を隠すようにきっちりと締められているタイもなく、首元の紐も適当に結ばれただけでしどけなくくつろげられていた。
     オットマンに素足を投げ出しながら読書を続けていると
    「失礼いたします。」
    音もなく、マハトが部屋に入ってくる。

     マハトもグリュックと似たような簡素な服を着ていたが、人類より背が高いので丈が足りず足首や手首が見えていた。
     足元はサンダルで、普段はブーツに隠されているマハトの骨ばった踝が良く見える。

     その手には、先日彼に嵌めたばかりの支配の石環が鈍く光っている。それがやけに重厚で、リラックスした服装には似つかわしくなく見えた。

     シャツの襟元からいつも立ち襟に隠されている首が覗く。彼は喉元をしめつけられるのは好まないようで、襟元のボタンを二つも外し、白く長い頸がすらりと目だった。
    (私もマハトも、だらしないこの恰好を使用人には見せられないな。)
     グリュックはそう思ったが、今ここにいるのはマハトとグリュックだけなので、そのだらしなさに驚かれることもないのだろう。

     マハトはいつものようにティーワゴンで紅茶の準備を始めた。その手つきは優雅の一言だ。
    「ちょうど喉が渇いたところだ。君は気がきくな。」
    「そろそろお時間かと思いまして。」
    手際よく準備された紅茶は色も美しく、この地にふさわしい花の香りがした。
    「良い香りだ。」
    「はい。茶葉に南国の花を加えたものだそうです。」
    どうぞ、と手渡されたそれを、グリュックは香りを味わいながらゆっくりと飲み干し、小さなサイドテーブルに茶器を置く。するとすぐさま
    「おかわりはいかがでしょう。」
     マハトが近づき微笑んだ。
    「そうだな、もう一杯貰おう。」
     空のカップをワゴンに下げ、二杯目の茶を淹れながらマハトが言う。
    「グリュック様。右足の爪が欠けておりますね。」
    「そうか。」
    足元を見れば、確かに親指の爪の角が割れている。

     気づかなかった。慣れないサンダルなどを履いたせいだろうか。後で手入れをさせればよいだろうと、再び本に集中し二杯目の茶を干す頃に、マハトが何やら幾つかの道具を持ってグリュックの足元に立っていた。
    「まさか‥君がするのかね?」
    「ええ。見様見真似ですが。」
    「気が早くはないか。」
    「そうでしょうか?面倒ごとは早く片付けるに限るとよく仰っているではありませんか。」
    「…よく覚えているな。」
     (しかし、爪の手入れなど覚える機会があっただろうか。)
    グリュックは少々驚きながらもマハトの好きにさせると、足元に屈んだマハトがグリュックの足を小脇に挟むようにしてきた。割れた爪を小さな鋏で慎重に切り取り、やすりをかけられる。
    くすぐったい。
     思わずくすくすと笑い声が漏れるが、マハトは、まるで気にもとめないように作業を続けた。
     マハトは手先が器用だ。読書を中断しその作業の様子を見れば、見様見真似とは思えないほど手慣れた様子だった。丁寧な仕草で爪の形を丸く整えると、他の爪も軽くやすりで整え表面を磨く。丁寧に磨かれた爪の先は、窓越しの日差しを受け艶々と輝いた。
     あっという間に両足の爪の手入れを終え、仕上げに柔らかな布でグリュックの足先を拭うと、マハトはその足の甲に触れながら満足そうに矯めつ眇めつする。
    「やけに楽しそうだな‥だが、こんなことまで君がする必要はないだろう。」
     グリュックは、マハトに使用人のような真似をさせてしまったことに少しばかり後ろめたさを感じる。
     だが、マハトはグリュックの足の先から目を離さないままで、にんまりと笑い、その出来栄えに満足しているように見えた。
    「お気に召しませんでしたか?」
    「いいや、丁寧ないい仕事だ。」
    「では、良い仕事をした私を褒めてくださいますね。」
     マハトは道具はをさっと脇に寄せると再びグリュックのそばに侍り、そのまま彼の腹に頭を乗せた。
    「何だね。」
    「何でしょうね。」
    心地よい重さが腹にかかる。ガラスに落とされたインクのような、不思議な濃淡のある瞳がグリュックを見ていた。

     誘われるように腕を伸ばすと、丸い額に触れ、こめかみから伸びる二本のつのをするりと撫でた。そのまま滑らせ根本に至り、柔らかな髪を掬う。たまに小ぶりな耳にも触れてやった。
     細く艶のある、柔らかな髪の感触を楽しみながら頭を撫でれば、マハトもうっとりと目を細める。まるで、大きくて大人しい動物を愛でているようだと思った。

     低い体温と柔らかな感触。ふと撫でる手が止まると、マハトが不機嫌そうな声を上げた。
    「グリュック様、もう少し撫でてくださいますか。」
    「ああ。」
     柔らかな髪を撫でながら、あたたかな日差しに自分もうとうとと微睡みの世界に誘われると、起き上がったマハトが覆い被さってくるのがわかった。
     マハトの肩にかかるくらいの柔らかな髪の毛が溢れ、グリュックの周りの視界を遮っる。
     「…。」
    マハトの毛先が頬にあたり、くすぐったい。細い髪を指に絡め、その小ぶりな耳にかけてやると、腕に向かってマハトが擦り寄るようなしぐさを見せる。
    そのままマハトは口をぱかりとあけると、柔らかく腕に噛みついてきた。傷がつかないくらいの、じゃれあうくらいの強さだった。
    「マハト。やめなさい。」
    グリュックが咎めてもマハトはやめようとしない。
    位置を変え、唇を滑らせるようにしながらグリュックの腕を味わっている。

    +++++
    続きはいつか
    誰か考えて
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    auuauumu

    DONE暗くて重い、全員不幸になる話です。捏造たっぷり特盛。キスの話の続き。
    【あらすじ】精神魔法の事故で奥様の幻覚を見たグリュック様が、マハトに妻の愛し方(溺愛系)を見せてしまう。自分だけの大切な宝物にしていた思い出をマハトが無遠慮に暴き立て、それにグリュック様が本気で怒り、マハトとの決裂を宣言する。
    つもりが~!!一緒に堕ちるつもり満々の!無自覚依存話です!
    愛しい影【決裂に向かうバッドエンドマハグリュです。暗い話好きな人どうぞ】

    それは事故だった。
     視察中、精神解析の魔法が誤作動を起こしグリュックに直撃した。解除自体は外部の精神魔法の専門家がほどなく対応できるとのことだったが、人類に伝播する可能性があるため、到着まではグリュックを安全のため隔離することになった。

    「私は魔族です。精神の在り方が違いますので影響は受けないでしょう。」
    マハトは見守り役を買って出た。領主に忠実な僕で、魔力も力も強いマハトはまさに適任、領主と2人きりになることすら、誰からも警戒されない。

     静まり返った部屋の中で、グリュックの独り言や空笑の声だけが響いている。
    (確かに異様だ。)
     どうやらグリュックは、その短い人生を追体験させられているようだ。幸せそうに微笑んだかとおもえば、両手で顔を覆い涙をこぼし、静かに怒り、その表情はくるくると変化する。
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