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    猫とメダカが好きな人(妄想中)

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    もしもクルガンが聖杯から出てきてしまったら、という妄想です。途中まで。
    エレミアさんの口調はゲーム後半のものに統一しています。

    もしもあの後クルガンが復活したら11日目夜

     大人の両手に収まるほどの銀色の杯には、深い森を思わせる大きな緑色の宝石がはめ込まれている。見た目の優美さに反してずっしりと重いそれを慎重に旅荷にしまいこむと、サーレントは深く頭を下げた。
    「ありがとうございます。でも本当に申し訳ありません……エレミアさんも大変な時なのに」
     サーレントの言葉に、銀混じりの髪を持つ貴人は、髭の口元に微笑を浮かべて頷いた。

    「気にすることはありません。君たちには何やら込み入った事情があるとカスタギアさんから伺っていますから。遠慮せず持って行ってください」
    「はい……」
    「サーレントさんも魔物には気をつけてください」


     ***


    「やっぱ金持ちっていうのは、なんつーか、『格』? っつーモンが違うね」
     エレミア家別宅の扉を閉めながら、レギンが呟いた。

     オリアブの町の中でも、ここは閑静な区画。昼間でも人通りは少ない。ましてや今は夕刻である。

    「懐が広すぎてこっちが心配になるぜ」
    「そうだね」
     サーレントは頷く。
    「エレミアさんには頭が上がらないよ。でも申し訳ないけど、この先何があるか分からないし、この聖杯を手放すわけにはいかないから……本当にありがたい限りだよ」

     聖杯、それは「魔封三器」と呼ばれる神具のひとつであり、魔の力を抑える力があるという。もともとはエレミア家の家宝だった。

     数日前、サーレントは師のミュンヒに言われ、エレミアから聖杯を借りることになっていた。しかしあの日、それは目の前でトレジャーハンターを自称する二人組の手によって、呆気なく盗まれてしまった。

     結果、ミュンヒは復活したハ虫類族のルドラの攻撃を受け命を落とした。エレミアの洋館も、魔物の襲撃を受けたという。住まいを追われたエレミアは現在、このオリアブの別宅に移り住んでいる。

     紆余曲折あったがサーレント達は聖杯を取り戻すことに成功した。今日はエレミアに、改めてその杯を、もう少しの間だけ貸してほしいと頼みにきたのだ。

     エレミアは迷いなく許してくれた。その懐の深さに、ただただ頭が下がるばかりだ。

    「で、残るラゴウ石はあと二つか。……これからどうなることやら」
    「ああ……」

     サーレントは今、世界を巡って「ラゴウ石のカケラ」を集めている。
     ジグムンド氷山に封印されていたダナンのルドラによれば、カケラをすべて集めれば、ゴモラから「大いなる者」について詳しい話が聞けるのだという。

     それが人間族を滅亡から救う道に繋がるのか――正直、サーレントには分からない。だが今は、それだけがハウゼンに至る唯一の手掛かりだった。

     ダナンのルドラはこうも言った。海底には水棲族のラゴウ石があると。そしてそこへ行くには、「砂に埋もれし場所」に眠る「ダナンの秘宝」が必要なのだとも。

     「砂に埋れし場所」とは、オリアブの町の近くのサッカラ砂漠であるということにはすぐに気がついた。
     数日前、サッカラ砂漠の巨大なアリジゴクと戦ったとき、砂の向こうに古びた遺跡を見た。おそらくあそこにダナンの秘宝が眠っているのだろう。

     問題は広大な砂漠の中で、あの時見た場所に再び辿り着けるかどうかということだ。
     砂の世界には目印がほとんど存在せず、地形も風によって日々姿を変える。
     オリアブに着いた時点で、すでに夕方だった。涼しくなってきたとはいえ、これから夜の砂漠を探索するのはあまりに危険だ。加えて、前日から続く大移動で皆疲れていた。
     砂漠には明日の早朝に入ることにして、今日はオリアブで宿を取ることにした。

     夕焼けに染まった町に、静かな波音が響いている。
     オリアブは本来は夜も賑やかな町だった。だが今は違う。天空の島の落下、アヴドルの壊滅、それに「浄化の光」の噂。不安が町を覆い、人々はあまり外に出ようとはしない。

     陽は山の向こうに隠れたが月はまだ出ていなかった。
     西や北の大陸では、浄化の光は夜になると月から降ってくるという話だった。この東の大陸にはまだ実害は無いらしいが、それでも他大陸の不気味な噂に多くの人々が震え上がっていた。
     
     サーレントも、何となく空を見上げながら歩いていた。足元がおろそかになっていたことに気づく。
    「わっ!」
     道の隙間に足を取られ、体勢を崩す。

    「おい、大丈夫かよ?」
    「あ、ああ……ちょっと、うっかり」
    「気をつけなよ。都会ぶってるけど、けっこうボロい町なんだから」
    「伝統あるってことだよ。イタタ」
     盛大に散らばってしまった荷物をレギンに助けられながら拾い集め、サーレントは服の砂をはらう。
    「ごめん、行こうか」

     念のため、月が出る前に宿に帰らなければ。
     歩みを速めるサーレントの荷が、その時怪しい光を放っていたことに、気付いた者はいなかった。


     ***


    「あら、おかえりなさい」
     カスタギア雑貨店。その裏側は研究所となっている。勝手口の鉄扉を開くと、すぐさま鈴のような声が二人を迎えた。
     ミュンヒ博士の娘のミーミルである。
     彼女はアヴドルの事件の後、レギンの実家でもあるこの研究所に身を寄せていた。
     数日前のアヴドルにて、ルドラ教団に捕まっていた子供達を送り届けるため、彼女とレギンはオリアブ行きの定期船に乗った。そのためレギンと二人、難を逃れることができたのだった。
     当然彼女もアヴドルの状況は知っている。しかし、あくまで彼女は気丈だった。サーレント達の旅の目的や、ミュンヒの詳細は伝えていない。けれども彼女は何も尋ねてはこない。

    「それで、どうだった?」
    「ああ、快く承知してくれたよ。さすがエレミアさん。金持ちは違うね」
     レギンも普段通りの口調で答える。
    「もう。お金持ちかどうかなんて関係ないでしょ。でも良かったわね。……私はあなた達の事情はよく知らないけど」
    「それじゃ、ロロを預かってくれてありがとう。俺たちはそろそろ行くよ」
    「ねえ。やっぱり今夜は泊まっていかないの?」
    「ああ、もう宿をとってあるんだ」
    「もしかして、私に遠慮してる?」
    「バカ言うんじゃねーよ。明日は砂漠に入るから、朝が早いんだよ」

     レギンは帽子の縁を引っ張ると研究所の奥の、半階下になった機械室を覗き込んだ。
    「おーいロロ、もう行くぞ!」
     ずっと部屋に響いていた、金属を槌で打つような音がピタリとやむ。

    「なんじゃ、もう行くのか」
     機械室の大型の機器の向こうから、白衣と広い額の頭が覗く。
    「外はもうすっかり暗くなってるんだよ。月の光の話くらい引きこもりのオヤジでも聞いてるだろ」
    「そりゃそうじゃが、……残念だのう」
    「何がだよ」
    「まだまだ説明し足りんのじゃ」
    「はあ?」
    「貴方達が来るちょっと前、ずいぶん盛り上がってたのよ」
     ミーミルが笑う。
    「カスタギアおじさまとロロ君。ロロ君は賢いのねえ。おじさまの発明品に興味津々みたいで」
    「まだ小さいのに関心じゃ。うちのドラ息子よりも、よっぽどこの店の良い後継になりそうじゃよ」
    「うるせーよ! ほらロロ、もういいだろ!」
     レギンが再度呼ぶと、カスタギアのいる位置の更に奥から、いかにも渋々といった声が返ってくる。
    「はーい……」
     しかし返事はあるものの、いくら待てども、彼はこちらに戻ってくる気配は無い。
    「早く宿に戻んねえと、怖いおじちゃんに峰打ちされちまうぜ!」
     レギンはそう言いながら、機械室へと続くハシゴを降る。サーレントも続いた。

     機械室は薄暗くホコリっぽく、油のにおいが充満している。
     前にサーレントはレギンに、「部屋をもっと明るくした方が研究が捗るんじゃないか?」と尋ねたことがある。だが、レギンいわく「切り詰められるモンは全部切り詰めなきゃ、先立つものが無くなっちまうんだよ」とのことだった。

    「よう、どうした。そんなにここが気に入ったのか?」
     ロロの姿を見つけ、レギンは尋ねる。
    「前にうちに来た時は、そんなに興味ねえみたいだったのに」
    「う、うん……」
     ロロは部屋の中央に置かれた、一際大きな機械を見上げていた。
     それはカスタギアの身長をゆうに超える、巨大な石窯のような装置だった。中央には大きな赤いハンドルが付いており、上部は煙突のようなものが伸びていて天井を突き抜けている。

    「俺がガキの頃から、ずっと未完成なんだよなあ、こいつ」
     手のひらで軽くそれを叩きながらレギンは装置を仰ぐ。
    「へえ。前から気になってたんだ。これって、何の装置なんだい?」
     サーレントに尋ねられ、レギンはカスタギアの顔を伺う。
    「ええと……バイオタンク? だっけ?」
    「そうじゃよ。古の滅びた町の地下にあった装置を真似て作ったものだ。規模はかなりちいさいが……。実用化できれば、この星に、大いなる恵みを供給できるのじゃ」
    「大いなる恵み?」
    「この星を綺麗にできる。汚染を浄化できるかもしれんな」
    「汚染を……? それはすごい!」
    「まあ未完成の上に、浄化は先を越されちまったけどな!」
     カラカラと笑うレギンを、カスタギアが睨む。
    「うるさいわ! わしはまだ諦めとらんぞ。突然浄化されたのだから、また突然汚染が戻ってこぬとは限らんわい。人類のために、この研究を完成させることこそが、わしの使命なのじゃ」
    「町の道具屋ふぜいが、なに大そうなこと言ってやがんだ。……本当にできたら凄いことだけどさ」
    「あと少しなんじゃよ。なかなか内部の状態が安定せんのだ。そこさえなんとかなれば、どうにかなりそうなんじゃが」
    「そんなことをもう十数年くらい言い続けてるんだよ。ずーっと失敗続きで」
    「科学に紆余曲折は必須なのじゃ。失敗は失敗でも、それは参考データの蓄積とよぶべきなのじゃ。科学とは人間の努力の積み重ねであり、先人達の知の結晶で、そもそも歴史を遡れば……」
    「はいはい、じゃあ俺たちはもう行くよ」
     ヒートアップするカスタギアに、レギンはそっと舌を出すとサーレントとロロの背中を押して機械室の外へと促す。

    「待て、まだ話は終わっとらん!」
    「気をつけてね」
     追ってくる勢いのカスタギアの声と、心配げなミーミルの声が重なる。サーレントは二人に頭を下げ、レギンに押されるままにカスタギア雑貨店を出た。
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