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    Shirota13S

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    Shirota13S

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    昔書いていたルドラのサーレントパーティの話。
    ボツにしてたやつを引っ張ってきて修正。

    サーレントパーティ4人分の別視点を書くつもりだったけど、途中で諦めました。これはレギン。
    レギン大好きだな自分。

    サーレントパーティの話「ナビゲーターぁ?」
     レギンは朝食のパンの上の卵を危うく床に落としてしまいそうになりながら、声を上げる。
    「ああ。いや、まあ、とは言っても、そんな大層な肩書きに見合うような仕事内容でもないんじゃがな」
     カスタギアは、息子の相変わらずの落ち着きのない仕草に眉根を寄せながら、新聞を片手にカップのコーヒーをすすった。
    「平たく言って、ただの道案内役じゃよ」

     湿った潮風と砂漠からの熱風の交錯する港町、オリアブ。その片隅のカスタギア雑貨店。父一人、子一人の朝の食卓の風景である。

    「ミュンヒのやつめが、近いうちにこの町の近くで発掘作業を始めるらしいんじゃ。ほれ、砂漠の入り口に古い遺跡があるじゃろ? なんでも、あいつが長年研究しておった何とかって石が、その遺跡にも眠っている可能性が高いらしいんじゃ」
    「はあ……」
    「じゃが、あの辺りは魔物が多くて危険じゃからな。砂漠には最近砂嵐が起き始めとるという噂じゃし。だから地元の奴に案内を頼みたいらしいんじゃ」
     それで誰か適任者を紹介してくれと言われたのじゃが、とカスタギアは新聞越しにレギンに視線を送ってくる。
    「たまたまうちに一人、暇を持て余しているやつがいたのを思い出してなあ」
    「誰が暇を持て余しているやつだよ!」
     レギンは再度声を高める。
    「暇じゃろうが! 店の手伝いもせずにフラフラとどこぞへ出て行って、一年ぶりにようやく帰ってきたドラ息子が忙しいだなんてぬかしたら、ヘソが茶を沸かすわ」
     カスタギアはフン、と鼻を鳴らす。
    「まったく、もうすぐ十九じゃというのに。将来どうするつもりなのかは知らんが、毎日部屋で役にも立たない銃火器ばかりいじっておる暇があれば、人助けだと思って行ってこい!」
    「毎日役にも立たない変な道具ばっか開発してる、オヤジにだけは言われたくねーよ!」
     レギンは朝食を一気に口に押し込み席を立つ。そのまま部屋を出ようとするところをカスタギアの声が追ってくる。
    「とにかくレギン、考えておけ」
     返事をせず、レギンは乱雑にダイニングのドアを閉めた。

     ***

     レギンは、別に父親と不仲という訳ではない。先程のようにたまに親子喧嘩はするが、おそらくその辺の普通の家庭相当だろう。……と思っている。
     しかし学者の家系で、父は道具屋を営む科学者、叔父は世界的な考古学者。レギン自身も様々な本を読みかじる好奇心の強いタイプではあったが、なにぶん周りが偉大過ぎた。己の進むべき方向が分からず、最近は家出を繰り返す日々を送っている。
     レギンも、自分が恵まれた環境にいるというのは理解していた。けれども、なぜか胸の奥に黒く燻るものがあった。それが何なのかは分からない。分からない自分が嫌だった。だから何度も家を出た。
     実は先日、いつもよりも長い家出から帰ったばかりである。父親の発明品を売り払い、それを咎められたことを口実に家を出た。これまで故郷の町がある東の大陸から出たことは無かったが、その時は海をわたった。とにかく見知った港町から出来るだけ離れたくて、若さだけを原動力に先へ先へと行った。自分でも何がしたいのか分からず、遠くへ行きさえすれば何かがあるのだと思いたかった。
     しかし何も見つけられず、何も得られず、自分が求めていたものが何だったのかすら分からず、オリアブに戻ってきた。残ったものは父親からの叱責と、故郷の町の人々のイタイ視線だけだった。

    「分かってるんだよ」
     自室のドアを後ろ手に閉め、レギンは呟く。
    「このままじゃダメってことくらい」


     ***


     汚染でよどんだ薄茶色い空に、絶えず灼熱の強風に乗った砂埃が舞う。レギンは風の中、ゾロゾロと大掛かりな道具を石造りの崩れかけた遺跡の中に運び込む、灰色の服の集団をぼんやりと眺めていた。
     暑くなる日中を避けるため早朝から砂漠に入っているので、やたらと眠い。

    「思ったよりも早くここまで辿りつけたぞい。助かったぞい、レギン」
     レギンの叔父の考古学者、ミュンヒ博士が近付いて来て、特徴的な口調で声を掛けてくる。
    「いえ、今日はたまたま砂嵐が大したことないですし、魔物もあまり出ませんでしたから」
     愛用のライフルを片手に、レギンは答えた。

     あれから結局、レギンは叔父の仕事を引き受けることにした。とはいえ、将来を見据えて腹を括った訳ではない。いつもなら家出に使っていた燻ったその原動力を、そのまま別のものにあてることにしたというだけである。
     父親からの当て付けがましい依頼ということで、最初は断ろうと思った。だが、急に気が変わった。その理由は自分でもよく分からない。説明できない。気が向いたとしか言えない。ただ強いて言うならば、あの後、父親の資料室から叔父の研究についての書物を持ち出し、読み漁るうちに、その内容に心惹かれてしまったのだ。
    「ラゴウ石」「ルドラ」「ジェイド」。これまで薄ぼんやりとしか知らない言葉だったが、それらの言葉を眺めていると、なぜかとても懐かしいような、浮き足たつような、焦燥感にも似た不思議な感覚に陥った。気付くと、父親を呼び止めている自分がいた。

    「これまでの研究によると、ラゴウ石はこの竜神の遺跡の地下に眠っているらしいぞな。おーいサーレント!」
     ミュンヒが口元に手を当て、作業員達の方に向かって声を掛ける。
    「はい」
     すぐに返事があり、作業員達の中から丸い眼鏡の青年が一人、こちらにやって来る。その姿を確かめ、ミュンヒは続ける。
    「今日は予定を早めて、このまま発掘作業に入るぞい。まずはワシらで遺跡の入り口の奥にある扉を開けるから、中から魔物が出てきてもいいように、レギンと二人で備えておいておくれ」
    「分かりました」
     眼鏡の青年は頷く。
    「行こうか、レギン」
    「おう」

     彼、サーレントはミュンヒの助手である。ミュンヒと研究所の発掘隊員達は、今日という本番の打ち合わせのため何度かオリアブを尋ねて来たが、常に彼はミュンヒの隣にいた。
     初めて会った時、隊員達の中で浮いた存在だとレギンは思った。一人だけ若く、服装からしても作業員ではない。本人に聞くと、元々はまだ修行中だが言霊師なのだという。色々と事情があって、最近ミュンヒの研究所に入ったそうだ。
     レギンとは歳が近く、なんとなく話しているうちに親しくなった。物静かに見えるが腕っぷしは中々で、今日は魔物が出ると二人で連携して対応することになっている。

    「中から魔物が出てきたらすぐ俺が撃つから、そのあとさっきみたいに言霊で支援してくれ」
    「分かった」

     ミュンヒの助手としてのサーレントはとても優秀だった。ミュンヒは普段は明るく気さくだが、研究に関しては熱心ゆえにうるさく、親戚のレギンから見ても少々クセがある。そんなミュンヒからの信頼を得ているのが、傍目からでもよく分かった。
     しかし同時に、サーレントは驚くほどの世間知らずだった。幼少よりトール火山にて修行ばかりの日々を送っていたため、俗世の勝手がよく分からないのだと言う。
     トール火山は、オリアブの町から見て北東にそびえる霊山で、言霊師達の修行場になっているとレギンも聞いたことがある。オリアブの町から近いとはいえ、その入山口は砂漠や川などを越えなければ到達出来ない場所にあり、レギン自身には馴染みのない場所であった。
     聞けば、マグマの煮えたぎる、まるで地獄のような場所なのだという。そんな場所しか知らずに大人になったのだとサーレントは言った。身寄りも無いらしく、育ての親である師と、他の修験者達に囲まれて生活していたらしい。それをさも当然のように、柔和な笑顔を交えて話す彼を見ていると、レギンは何か心に引っ掛かるものを感じるのだった。

     ***

     それから数日後のこと。あれから発掘作業は順調に進んでいる。まだ目的のラゴウ石は見つかっていないが、少しずつだが遺跡の内部が明らかになってきていた。

    「へえ。すごいなあ、レギンは!」
    どちらかと言えば大人しい彼には珍しく、熱っぽい様子でサーレントは言った。
    「こ、声がでけえよ」
     発掘作業の途中。束の間の休憩時間、二人で交わしていた何気ない雑談に、サーレントが妙に食いついてきたのだ。
     他の作業員達も近くにいるのだ。二重の恥ずかしさにレギンは赤面する。
    「ごめん。でも、だって、世界中だろう? 私には想像もつかない話だから……」
     何のことは無い。例の長い家出譚を、彼に話しただけなのである。
     得たものなど何もない放浪記。ドラマティックな武勇伝とは真逆のつまらない話。
     自慢するつもりなど更々なかった。失敗談として面白おかしく話したつもりだった。それなのに目の前のこの彼は目を輝かせ、興味を示してくれた。レギンは何だかむず痒いのと同時に、始めてあの旅が無意味なものではなかったのだと思えて嬉しかった。
    「そんなら、もしも今後ミュンヒ博士の研究が落ち着くことがあったら、今度は一緒に世界を見て回ろうぜ」
     軽い思い付きでレギンがそう言ってみると、サーレントは驚く程喜んだ。
    「いいのかい? 夢みたいな話だなあ」
    「ああ。案内するぜ。まあ、俺で良ければだけどさ」
     その言葉に、サーレントが思いがけず反応する。
    「……君って、たまにそんな風に自分を卑下するよね」
    「え?」
     言われて、はっとする。そうだろうか? 記憶を辿るよりも先に、
    「レギンはじゅうぶんすごいと思うけどな」
     とサーレントは言って、こちらを見て笑った。
    「君は私が持ってないものをたくさん持ってる。気付いてないだけだよ」
    「そ、そうかな……」
    「そうだよ。たまに羨ましくなる」
    「……」
     何と返せば良いのか分からなくなり、バツが悪くなってレギンは頭のロジカルキャップをいじる。
    「そ、そろそろ行こうぜ、サーレント。ミュンヒ博士に叱られちまう」
    「あ、待ってくれよ」
     後方でサーレントが慌てて追いかけてくる気配を感じた。
    「今の話覚えててくれよ、レギン。世界を見て回るって、約束だからな!」

     あの日から、どのくらい時間が経っただろう。少なくとも季節はまだ一巡していない。


     ***


     今、レギンは地底にあるハ虫類族達の町、タラークの宿のベッドの上で、岩でできた暗い天井を見つめていた。 

     真夜中。眠れなかった。明日の朝、自分たちは冥界のシュミセンと呼ばれる場所を目指す。そこでハウゼンという人間族のルドラを倒せば、サーレントは次期ルドラになれるのだという。

     この数日間、レギンはサーレントと本当に世界中を回った。地上だけでなく天空、海底、地底までも。しかし、それはあの日夢見ていた心踊るような旅ではなかった。得たものもあったかもしれないが、失ったものが多すぎた。そしてまさか、その終着点が、こんなものであるなんて。

     次期ルドラ? レギンもサーレントの隣でゴモラやルドラ達の話を聞いてはいたが、正直なところ理解が追いついていない。

     旅の途中で見た、何千、何万年もの間、ラゴウ石の中で眠っていた他種族のルドラ達。サーレントも、もうすぐああなってしまうというのだろうか。何かよく分からない大きな存在に、彼は取り込まれて消えてしまうのだろうか。

     あの日、ただ自由で楽しい旅を夢見たはずなのに。そんな悲しい結末など決して望んでいなかったのに。何故こんなことになってしまったのだろう。彼一人の犠牲の元に、人間族の未来が保障されても嬉しくなどない。何か、何か他に方法はないのだろうか……。

     必死で考える。なんとかしなければ、明日にもサーレントは居なくなってしまうのに。なんて自分は無力なのだろう。なんて小さくて、何も出来ない存在なのだろう。

     そもそも、なぜサーレントなのだろう。あの時、アヴドルで彼を一人にしてしまったから?あの時、聖杯や聖衣無しでラゴウ石を研究することになってしまった時点で、危険だということは分かっていたはずなのに。あの時、アヴドルを離れなければ……。

     いや。自分ごときがあの場にいたことで、何を変えられたというのだろう。そもそもサーレントが研究所に遣わされたのは、彼の師のソロンが、サーレントが今後人間の存続に関わる存在となると予言したためだ。こうなることは、決まっていたのだ。

     ……決まっている? 誰に決められたというのだろう。つまりこれまで自分達のしてきたことはただの決定事項をなぞっていただけで、この先も、自分達が何を考えようとも、あがこうとも、それらは全部無駄だということなのだろうか?

     そんな馬鹿な。しかし実際、太古に作られたはずのラゴウ石には予言の言葉が刻まれていて、その中にはサーレントのことが書かれていたではないか。つまり今までのことは全て、決められていたことなのではないか。

     ……だめだ。もう、やめよう。
     ……いや、でも……。
     
     答えがあろうはずもない。しかしこのまま眠ってしまい、朝が来てしまうのが怖くて堪らなかった。時間だけが無情に経過していった。


     ***


    「おはよう」
     朝、サーレントが声をかけてくる。その様子はいつも通りの彼に見えた。いつも通り最後に起きてきて、まだ眠そうにしている。

     レギンは何と答えるべきか迷って一瞬口籠る。いつも以上に、今彼が何を考えているのか分からなかった。結局、努めて普段通りを意識することにした。

    「サーレント、いよいよだな。しっかり休んだことだし、今日は頑張ろうぜ!」
     我ながらテンションの高さに引いてしまうが、いつもの自分がどうだったのかよく思い出せなかった。

    「レギン兄ちゃん、昨日眠れた?」
     ロロがこっそりと尋ねてくる。
    「大丈夫? その……ちょっと疲れて見えたから……」
     まだ幼いが、ロロはこういう所に鋭い。ダナン神族は相手の魂が見えるというが、彼の目には今の自分はどのように映っているのだろう。
    「だ、大丈夫だよ。確かに緊張して、いつもよりは眠れなかったけど……」

     ふと、近くにいたソークの姿が目に止まる。彼がいつも通りの涼しい顔をしているように見えて、一瞬腹が立ちかけた……が、すぐに思い直す。彼は確か、サーレントとは十年を超える付き合いだと言っていたはずだ。恐らく、彼もまた、何かしらの感情を腹に抱えているに違いない。そういえば彼は元々寡黙ではあったが、師のソロンを亡くした辺りから急に達観したように思う。自分と比べてしまって、嫌になった。

    「じゃあ、行こうか」
     サーレントが言う。

     行く? まるで彼一人を、贄に捧げに行くようだなと思った。これではルドラ教のやつらとかわらない。しかし、どうすることもできない。この先どうなるか全く分からない。

     ── レギンは、じゅうぶんすごいと思うけどな。
     ── 私に無いものを持ってる。
     ── たまに羨ましくなる。

     本当だろうか、サーレント。今、君のそばに立っている自分は、君の助けになっているのだろうか?
    運命が決まっているとして、自分の存在は、きちんと意味があるものなのだろうか。

     バベル製の銃を抱えなおす。父親には役にも立たないと言われたものだが、今はその重さが、ほんの少しだけ不安な心を勇気づけてくれた。

     行こう。何もかも分からないが、行くしかない。

     レギンは、宿の扉に向かうサーレントの背を追った。


     終
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