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    3/30インテ新刊『死神の話 The one’s story』サンプルです

    テーマは
    原作沿い×まだくっついてない流花×ホラー
    ちょっと人を選ぶ内容です

    第二話はちょっとガチめのホラーです
    やばめの怪奇現象に遭遇してるのに花道とバスケで頭がいっぱいな男流川

    #流花
    flowering

    第二話 丑三つ時の訪問者県予選の終わりとともに梅雨が来た。
    今年は太平洋高気圧の勢いが強いので、空梅雨になるかもしれない、そんな予報とは裏腹に、毎日しのつく雨が続いている。



    夜中、流川楓は二階の自室で目を覚ました。一度寝ついたら梃子でも起きない彼には珍しい事だった。
    さらに珍しいことに、目をつぶっても眠りが来ない。妙に寝苦しかった。一日中締め切っていたせいか、室内の空気が澱んで、重苦しく顔を圧迫しているような気がする。
    しかし動くのは面倒くさい。目を固く閉じどうにか寝ようと試みたが、眠気はドンドン失せていく。流川は諦めベッドから降りると、窓を開けた。水の匂いのする涼やかな夜風が流れ込んで、火照った頬を冷やした。
    街は静まり返っていた。朝から降り続いていた雨は止んでいて、街灯のひかりが濡れた屋根たちを淡く照り返していた。
    なんの気なしに目線を下ろすと、視界に赤が飛び込む。
    「…ッ⁉」
    家の前の遠路に俯いて立つ赤い頭が、いた。
    桜木だ。つむじしか見えなかったが、そう思った。まぁ、あんな派手な赤頭が何人もいる訳が無い。
    赤頭は塀越しに前庭に咲き乱れる花をのぞき込んでいるようだった。母が手塩にかけて育てている、赤やピンクの大輪の芍薬たち。
    見られているのに気づいていないのか、赤頭はいつまでも同じ場所に佇んでいる。
    流川は眉をひそめた。身体も休めず何やってるんだ、あのどあほう!
    壁の時計を見ると深夜2時過ぎ。ますます解せない。
    その時、赤頭の身体が、ゆらゆらと不規則に揺れ始めた。まるで、酒に酔っているように。
    まさか飲酒か。裸足の足の裏からゾワリと不快感が這い上がってきた。夜遊びに、飲酒…アイツは、しょせん不良だったということか。
    下半身から腸を伝わって、喉までせり上がってきたムカつきを、強引に飲み下す。
    別に…どーでもいい。
    アイツの正体がただのつまらない不良でも、バスケに打ち込む姿が上辺だけだったとしても、自分には関係ない、
    あのどあほうになんか…端から期待などしていない。あの初心者が足を引っ張るなら、その分自分が点を稼げばいい話だ。
    流川は窓を締め、布団に戻ると夢も見ず眠った。


    翌朝、外はまた雨だった。レインコートを着た流川は、自転車を押して門を出た。芍薬の花が一輪、まるで剄られたようにアスファルトの上に腐り落ちていた。昨夜、赤頭が立っていた場所だった。


    練習前、一年は全員体育館の隅に集まって日課のボール磨きである。ノルマは一人5つ。チームのエースであっても特別扱いはされない、流川も並んで黙々とボールを磨く。早く済ませて、シュート練がしたい。
    「はぁ、毎日は大変だよな」
    手がつかれたのか、石井は手首を振ったり軽いストレッチを始めた。
    「うちの中学はこんな毎日手入れなんてしてなかったよ」
    「あ、石井のところも?うちもそうだったよ。そもそも全国目指す!なんてチームじゃなかったし」
    言いながら、桑田はまだ磨いてないボールを手に取る。
    「これとか磨かなくても十分綺麗だと思うんだけどなぁ」
    「ハーッ、これだからボール磨き素人は…見たまえ!この艶めきを」
    花道が磨き終わったボールを高々と掲げた。
    「おおーっ…すごい…輝いてる」
    「だろ、クワ!フン、見ろ!ゴリをも黙らせた天才の手さばきを‼」
    「くだんねー。道具の手入れは遊びじゃねーんだ」
    「なんだとルカワ!」
    流川の手元を覗き込んだ石井が目を丸くした。
    「すごい!流川君の、桜木君かそれ以上にピカピカ」
    「はぁ⁉どこに目つけてんだイシ!」
    「ひっ…!」
    「ふざけてる暇があるなら手を動かせ」
    罵倒しながらも、流川の視線は花道ではなくボールに向けたまま、手も止まることはない。
    「負けるか、ふぬぬぬぬぬぬ!」
    花道は石井の襟首から手を離すと、ものすごい勢いでボールを擦り始めためた。
    「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
    「ねぇ、流川君」
    流川の隣りにいた佐々岡が、恐る恐る声をかけてくる。
    「流川君、いつも早いのに丁寧ですごいよね…なんかコツある?」
    「……さあ…小1の時から家でも毎日やってるから」
    「え?毎日?」
    「ボール買ってもらって、触るのだけでも楽しかったから…バスケ部だった兄貴のボールまで磨いてた」
    完全に身体が動きを覚えているのだろう。話しながらでも、流川の手を動かすペースは全く落ちない。
    「そっか、やっぱすごいな。マイボールか…ボクも買おうかなーと思ってんだけど、家の近所で練習できる場所ないんだよなぁ。流川君はどこでやってる?」
    流川は手の動きは止めないまま、のそっと顔を上げ顎でしゃくった。
    「あっちの……リングのある公園」
    「へ〜そんなとこあるんだ。オレあんま向こう行かないから、初めて知ったよ」
    「最近は競争率高えから、朝早く行かねーと空いてねぇ。宮城先輩んちの近くにもコートあるけど、あっちはそれ以上に競争きつい」
    流川は思ったことを口にするのも面倒がる男だが、バスケが絡むと途端に饒舌になる。
    「あ〜そーだよなぁ、最近バスケ人気だもんな」
    「でも、練習なんてやる気さえあればどこだって出来る。ハンドリング練習なら家ん中でも出来る。ボール持ってて損はねー。買え」
    佐々岡は流川の剣幕に気圧されながらも、しっかりと頷いた。
    「う、うん!そうするよ、ありがとう」
    「うるせーぞルカワ‼サボってんじゃねー!」
    「終わった」
    「はぁ?」
    「ボール五個、磨き終わったぜ。てめーもとっとと済ませろ、この…ノロマ」
    流川は見せつけるように、最後のボールをカゴに戻し立ち上がった。
    「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
    「悔しかったら夜遊びはやめろ、もちろん飲酒もな」
    吐き捨てて、流川はウォームアップを初めている先輩たちの輪に加わる。
    「桜木君!だ、駄目だよ高校生が飲酒は!」
    「最近はしてねーよ‼」
    「最近じゃなくてもまずいよ!」
    「ふんぬ―――――ッ誤解だ‼」
    「なんか、今日の流川君、いつも以上に棘があるような気がする」
    石井と花道が言い合う横で、桑田がボソリ呟いた。



    「ルカワに勝ぁあつ!ルカワに勝ぁあつ‼」
    嫌味が効いたのかはわからないが、その日の花道はいつも以上に気合が入っていた。速攻などフットワーク練習では皆の倍走り、シュート練の時も腐ることなくディフェンス担当を続けている。
    花道の運動神経はずば抜けているから、そのブロックをかいくぐるだけでも皆のいい練習になる。同時に、花道のゴール下守備もだんだんと様になってきていた。少しだけ、流川の溜飲も下がる。
    あいつが使えるようになれば、もっと勝てるようになる。決勝リーグも、きっと勝ち抜ける。
    見つめる流川の目の前で、花道が赤木のシュートをブロックした。
    「うまいぞ桜木!ドンマイ赤木!」
    「ぬはははははは!ゴリ!しょせんその程度か!」
    「くそ、お前に止められると百倍腹が立つ」
    しかし、調子に乗られるのは困る。流川は大人気なくフェイクを入れて、花道を軽々と躱してジャンプシュートを決めた。
    「ああああああああ!」
    「この程度で引っかかってんじゃねーよ」
    その後も流川は、散々花道を煽り散らかして、満足して家に帰った。
    遅い夕食を取り、風呂に入って、ハンドリング練習をしながら撮りためていたNBAのビデオを見る。憧れの選手たちのプレーを脳裏に焼き付け、吸収するために。
    「スゲーな…コレ」
    ダンクに行くと見せかけて、戻して…ダンク。特に目に止まったプレーは、何度もリプレイし、身体、脚、視線の方向から指先の動きまで丁寧にチェックし、頭の中動きをトレースしながら手の上でボールを転がす。
    これを、あいつに見せ付けてやったら……一体どんな顔をするだろうか。想像するだけで胸が高ぶる。
    真剣な目でビデオを見つめる流川の口元には、ほんのり笑みが浮かんでいた。



    夜中、また、目が覚めた。時計を見れば、昨日と同じく午前二時。
    どこか息苦しいのも同じだが、昨日と違い得体のしれない胸騒ぎを覚え、流川は躊躇わず窓を開けた。外は霧のような雨、湿った空気がどっと部屋に流れ込む。
    見下ろせば、昨日と同じ場所、芍薬の前に、また赤頭がじっと立っていた。全く同じ姿勢で俯いて、やはり顔は見えない。
    そしてやはり、ゆ〜らゆ〜らと、身体が不規則に揺れている。
    「………ッ!」
    あれだけ言ってやったのに、まだ遊び呆けているのか。まるで裏切られたような失望は、次第に怒りへと変わって、流川の身体を貫いた。
    「…どあほうが!」
    その時。
    ゆ〜らゆ〜ら揺れていた赤頭の動きが、ぴたりと止まった。まるで、流川のつぶやきが聞こえたかのようなタイミングだった。
    赤頭はしばらく動かなかった、まるで何かを探しているように左右を見ていた。
    が…やがてよたよた千鳥足を踏みながら、流川の家の門を抜け、玄関へ向かってき歩いてきたのである。
    ピンポーン
    静まり返った街に、チャイムの音が響く。
    ピンポーン
    流川は舌打ちをして、ピシャリと窓を締めた。
    「酔っ払いが…今何時だと思ってやがる」
    ピンポーン
    あまりにムカついていた流川は、チャイムをガン無視して布団に戻った。
    ピンポーン
    ピンポーンピンポーン
    ピンポンピンポンピンポンピンポン
    うるせーな、流川は布団を頭から被った。しかし、何故かチャイムの音は小さくならない。
    ピンポンピンポンピンポン
    目を固く閉じると、いっそうチャイムの音は近くなり、まるで頭の中で鳴り響いているようにすら感じた。
    仕方なく流川は寝る前にやっていた、スーパープレーのイメージトレーニングを再開した。次第にドリブルのダムダム音が頭に響くチャイムを塗りつぶしていく。
    やがて流川はバスケットボールの夢の中へと落ちていった。
    不思議なことに、あれほどチャイムがやかましかったのに、家族は誰一人として起きてくることはなかった。



    翌朝もやはり雨だった。レインコートを着て家を出ると、門の前で母が、箒と塵取りを手に怒り狂っていた。
    「見て、楓!誰かがお花を毮ってくの、ここ最近毎日よ!」
    母の指指す先に、芍薬の花が一輪、腐り落ちていた。



    放課後、今日も部活はボール磨きから始まる。
    しかし体育館済に集まったのは4人だけ、花道はまだ来ていなかった。
    「桜木君なら午後サボってどっか行って、まだ戻ってないみたいだよ」
    まさかこのまま部活もサボる気か。確かに連日あんな遅くまでふらついていれば、いくら体力バカでも身体が持つ筈がない。
    昨日の百倍嫌味を言ってやろうと思ったのに、流川は苛立ちをぐっと堪え、ボールを磨く手に力を込めた。
    そんな流川の内心など知る由もない佐々岡が、呑気に話しかけてきた。
    「なぁ、調べたんだけど市営住宅の裏にもバスケットコートがあるんだって、しかも誰も使わない穴場だって、流川知ってる?」
    とたん、横にいた石井がサッと顔色を変えた。
    「あそこは駄目だって‼霊が出る呪いのバスケコートって有名なんだよ‼心霊雑誌にも載ったことがあるんだって‼」
    「え、うそ……誰もいないなら練習に良いかなと思ったのに」
    「止めた方がいいよいいよ!絶対祟られるって…え?」
    「ふんぬ――――!」
    「うわっ桜木君!」
    いつの間にか来ていた花道が、石井の頭に頭突きを落とした。
    「ふぬ―――ッ!バカめ、オバケなんか、い、い、いるわけねーだろ‼」
    「あ、そうか桜木君オバケが怖いんだっけ」
    ギンと睨まれた桑田は、猛ダッシュで宮城の後ろに逃げた。
    「へー、ふーん、花道……オバケ怖いのか」
    「チガウぞリョーちん!オバケなんかいねーんだよ!前のアレだって、犯人はルカワの奴で」
    トン、流川はボールを置いた。
    「濡れ衣……」
    流川が目を光らせ立ち上がった途端、花道はひっと声を上げて逃げ出した。
    「ぎゃぁあああああああ!こっち来んな‼」
    「うるせーテメーが悪い」
    「リョーちん!見てないで助けてくれぇ‼」
    「嫌だよ…自分で止めろ」
    実際花道の腕力なら力づくで黙らせることだってできる。しかし花道は走りながら首を振った。
    「なんかイヤだ‼今日のルカワ近寄りたくねー‼なあ頼むからぁ‼」
    しかし必死の頼みも虚しく、宮城も誰も止めようとしない。練習前に体力の無駄遣いなんか誰もしたくない、どうせ花道に噛みつけば終わる。
    あいにく、絶対止めに入ってくれるはずの木暮は、まだ来ていない。
    「あーえーと、うちの団地裏のコートだっけ?」
    「リョーちぃいいんんッ‼はくじょぉものおおおおお‼」
    どたたたた!背中を向けた宮城と一年トリオの背後を、嵐のような足音が駆け抜けていった。
    「あそこ霊が出るなんて聞いたことねーけど」
    「えええ?うちの小学校ではめっちゃ噂になってたんですけど」
    「ああ、石井は隣の学区だったな。あのコート前に強姦事件起きてさぁ、その後しばらく小学校は集団下校になったけど、理由説明できね―じゃん。だから霊のせいって憶測が広まったらしいぜ」
    「マジですか?本気で初知りです!」
    体育館のドアが開く。しかし入ってきたのは木暮ではなく三井だった。
    「ちぃーっす‼ってうわ‼」
    「ミッチぃいいいいい助けてくれ!」
    猛牛のように突進してきた花道が、サッと三井を押し出し盾にした。
    「濡れ衣…」
    追っかけてきた流川と、三井を挟んでの攻防戦が始まる。
    「おい、おい引っ張るな桜木!って…どうどう落ち着け流川、いいかげんにしろよお前ら‼おい宮城も止めろ」
    もちろん宮城はジト目で聞こえないふりをしている。
    「ざけんな宮城!おい、安田!角田ぁ!潮崎ぃ!誰でもいいから来てくれ!」
    しかし誰も関わり合いになりたくないので、話に乗るふりをして三井から距離をあけた。
    「へぇそんな噂あるのか」
    「オレも聞いたことあるけど、ガセだったのか。ヤスは知ってるか?」
    「あーうんオレも幽霊云々は知らないな。まああそこ周辺変質者がやたら湧くし、警察沙汰も多いしある意味呪われてるかもね」
    「オレもアンナに絶対通るなって言ってる手前、使うわけにはいかねーしなぁ。コート使いたいな、自己責任でやればいんじゃね」
    佐々岡は肩を落とした。
    「止めときます。ところで先輩、桜木は…」
    「三井さんに任せときゃいーだろ」
    「畜生宮城、覚えてろよ!」
    「オレは犯人じゃねー」
    「あ―――‼もうめんどくせー、桜木お前諦めて噛まれろ!」
    「なんてこと言うんだミッチー‼」
    「馬鹿野郎お前ら!そろそろ止めねーと赤木が来…」
    「外まで聞こえとるわバカモン‼」
    三井が言い終わる前に雷と拳骨が炸裂し、二人は頭を押さえて床に崩れ落ちた。
    「いい加減恥を知らんか!バツとして残りのボール磨きはお前ら二人でやれ!」
    かくして。皆がウォームアップを始める中、二人は正座で粛々としてボール磨きをする羽目となった。
    「くそ、くそ、てめーのせいで…」
    花道が恨み節をぶつけてくる。流川はギロッと睨み返した。逃げ回る花道を追っかけるのが楽しくてつい忘れていたが、本来迷惑をかけられているのは流川の方なのだ。
    「るせー、酔っぱらい」
    「まだ言うか!」
    「オレに言いてー事があるなら、直接言え。夜中に押しかけてくんな、メーワク」
    「はぁあ?誰もテメーんちなんか行ってねーよ‼」
    「どーせバスケで勝てねーから嫌がらせしにきたんだろ、くだんねー奴」
    「何だともっかい言ってみろ‼」
    花道が流川の襟首を掴んだ瞬間、赤木の罵声が飛んできた。
    「止めんか!それ以上やると体育館から放り出すぞ」
    「だって、ゴリ…ルカワの奴が」
    「こいつが毎晩夜中に押しかけてくるんス」
    驚きと非難の視線が花道に集中する。皆の顔には、ついにやったか…と書いてあった。流川の言葉を疑うものはいない、日頃の行いの結果である。
    「ちっ、ちがうぞ!オレはそんなことしてねー!」
    「した。夜中に酔っ払ってオレんちのチャイム連打していった」
    皆の目線がさらに冷ややかになった。
    「あ、そりゃ桜木が悪いわ」
    「うむ。このみみっちい嫌がらせ、いかにも桜木らしい」
    「ひでー!だから違うんだって!」
    そんな中木暮だけが、真剣に流川に聞き返した。
    「それは何時くらいだ?桜木にアリバイがあるかもしれないだろ」
    「夜中の二時頃す」
    「…え、そんな遅く?それって本当に桜木か?」
    「ス。夜なのに、すげー目立つ赤頭が、家の前にずっと立ってた」
    木暮の表情が、次第に焦りから訝しげなものへと変わる。
    「昨夜はずっと雨だったのに、傘も差さずにずっと?」
    「うす。ずっと俯いてて顔は見えなかったけど、ぜってーあいつ。あと、酔っ払ったみてーに身体がゆらゆら揺れてたス」
    流川が不審者の仕草を真似してみせると、体育館は重苦しい沈黙に包まれた。
    「それ…もしかして首吊むぐっ…」
    「黙ってろ桑田」
    顔を引きつらせた三井が、桑田の口を塞いだ。どー考えても、それは、花道じゃないのは明らかで。なんなら生きている人間かさえも怪しい。
    「そういえば、服が…血が滴ったみたいな赤茶色」
    「もういいもういいよ流川!わかったからわかったから!」
    「あ、あれ…花道?」
    木暮の制止とリョータの声に、ようやく皆が我に返る。花道は、いつの間にか体育館の反対側に蹲って、耳をふさいでいた。
    「知らねー知らねーオレは知らねー」
    「そ、そうだな桜木!安心しろお前じゃない、大丈夫だ!な、赤木…ボール磨きは今日はもういいだろ、な!」
    「お、おう。さあ練習に戻るぞ。流川も混ざれ」
    「クッソ花道がバカやらかした話と思ってたのに!油断した‼」
    全員動揺を隠しながら、練習は再開されたが、その日は全員動きが固く、花道に至っては全ての動きが空回りする有様で散々なものとなった。



    深夜二時、流川はまた目が覚めた。
    ピンポーン
    どこかで、チャイムが鳴る。流川は起き上がる気になれず、布団の中で目をつぶった。
    ピンポーン
    流川は目を閉じたまま、不完全燃焼に終わった今日の練習を振り返りを始めた。筈が、何故か逃げ回る花道が頭の中に湧いて出てきた。
    邪魔すんなどあほう。
    だが思い返せばこちらも不完全燃焼だったのである。もう、あとちょっとで、押さえつけて噛みつけたのに。
    こうなったらリベンジだ。頭の中に浮かぶ花道も、憎たらしいほど素早く逃げ回る。懸命に追いかけ追いかけ、ついに押さえこむことに成功する。高らかにラッパが鳴り響き、おめでとうおめでとうチームの皆が拍手で祝福をする。
    いつの間にか沈み込んでいた夢の中、流川はがぶがぶと心ゆくまで花道の項に噛みついた。
    穏やかな寝息を立てながら、流川は満足気にくふと笑った。



    朝。芍薬の花は一輪も落ちていなかった。
    その代わり、玄関脇の鉢植えのカサブランカが剄られ落ちていて、見送りに出てきた母が悲痛な叫びを上げた。



    その日、ボール磨きの間も練習中も、花道は流川に突っかかってくるどころか、近づきすらしなかった。不自然なほど、流川から顔を背ける花道に、ひどく苛つく。
    だが、流川が近づこうとすると花道は敏感に察して逃げてしまう。諍いがない部活は全てがスムーズに進み快適だった。なのに、流川自身が驚くくらい、フラストレーションが溜まった。



    また、夜中に目が覚めた。
    時計を見る、やはり深夜二時だった。
    やけにのどが渇いた。身体中がパサパサに乾いているような錯覚に襲われた流川は、部屋を出て階段を降りた。
    階段を降りてすぐがリビングで、右手側にはダイニングとキッチンがある。キッチンへと足を向けたその時だった。
    ピンポーン
    チャイムが鳴った。
    流川は振り返る。階段を降りてキッチンの反対側左手奥、開けっ放しのリビングのドアの向こうに玄関が見える。今、ドアの向こうに、あの赤頭がいる。
    ピンポーン
    誘われるように、流川は玄関に向かっていた。
    ピンポーン
    冷えた廊下に裸足の足の裏がペタペタと張り付く、まるでこの家が引き止めているかのように。
    ピンポーンピンポーン
    だが、流川は躊躇いなく玄関まで進み、三和土に降り、ドアノブに手をかけた。
    ふいに、男が顔を上げ、にやりと嗤った。
    「……どあほうじゃねーじゃねーか」
    赤い頭は、花道の鮮やかで生き生きとした赤色とは違う、どす黒い色。よく見れば頭がぱっくり割れていて、髪の間から滲み出る血がこびりつき固まっていた。
    ゆらゆら揺れている身体は、つま先しか地面についていなかった。一方で頭は不自然なほど動かない、まるで宙に固定されているように。
    腐敗した首とやけに綺麗な胴体が言葉通り首の皮一枚だけで繋がっていて、ぶら下がる身体は重力に従いぷらぷらと不安定に揺れていた。
    だらんと舌を垂らした生気のないにやけ顔は、花道のハツラツとした笑顔とは似ても似つかない。
    なんだ……つまらん。
    流川はドアノブから手を離した。
    そしてさっさとキッチンへ戻って水を飲み、あくびをしながら部屋へ戻った。気が抜けたら眠気が戻ってきた。
    布団に入ってぬくぬくとしたところで、夜中の訪問者が花道じゃなかったことに、落胆している事に驚く。何故。あんなに花道が夜遊びをしていることに、バスケを蔑ろにしていることに憤っていたくせに。
    なぜ。
    なぜ、夜中に、わざわざ、花道が来たんじゃないとわかって、がっかりしているんだろう。
    まさか自分は…花道が会いに来たのが嬉しかった?真夜中なのに会いに来てくれたことを喜んでいた?
    そんな筈、あるはずない。理由がない。
    そんな、わけ………ぐるぐる考えているうちに、流川の意識は霞み始めた。逆らわず、眠りに身体を委ねる。
    うとうとと眠りの際でゆらめき落ちかけながら、ふと流川は思った。どうして、ドアの向こうにいた筈の男の顔が、姿が、笑ったのが、わかったのだろう……?



    翌朝の土曜日。流川はいつもより早く目覚めた。寒かった、布団の中なのに指先が冷えて痺れている。まるで真冬の朝のようだった。
    これではとても眠れそうにない、諦めて流川は冬眠明けのクマのようにのそのそ這い出した。きっと動けば暖かくなる、朝練に行こう。そうと決めたら流川の行動は早い。
    着替えて降りれば、母が目を丸くしていた。
    「え、どうしたの⁉今日は試合じゃなかったわよね」
    「うん、朝練」
    「なら良かった。待ってなさい、急いでお弁当作っちゃうから」
    うんと頷き、流川は自分でご飯をよそって冷蔵庫からおかずを出して食べ始めた。母が急いで作ってくれた熱い味噌汁が、臓腑に染み渡る。
    今日は雨が激しい、レインコートをきっちり着込みフードを目深に下ろし、自転車を押して門を出る。今日は芍薬も、玄関周りの花も、落ちていなかった。
    自転車を漕ぎ始める。
    何故か首筋がちくりと痛んで、流川は無意識に何度も首をさすっていた。



    雨は想像より酷く、震えながら部室で着替える。走って体育館に向かうと、ダムダムとボールの跳ねる音がした。先客がいる。
    覗き込むと、花道だった。ドリブル練習をするその手元を見て、おや、と思う。見慣れない真新しいボールだった。バスケ部の備品じゃない、屋内屋外兼用の練習用、だぶん花道のマイボールだ。いつも部室のを勝手に拝借していたくせに、どういう風の吹き回しだろうか。
    壁際に目をやれば、これまた新しいボールバッグがあり、予備のボールが覗いている。全部で4つのボールを、一体いつの間に買ったんだろうか。
    花道はそれはそれは上機嫌だった。鼻歌など歌いながら、両手で同時にドリブルをしている。
    「フフン天才はこんな事もできる〜〜〜」
    どあほう、口を挟みたいが昨日の様子からして、近づけば逃げてしまうだろう。だから流川はじっとこらえて、花道の練習を邪魔しないよう見守っていた。
    「のわぁ!」
    調子に乗ったせいかリズムが狂い、花道の手元からボールが飛び出した。
    「くそ言うこと聞かねーボールどもめ。まあいい、まだ2つあるもんねー、くひひ」
    花道はバッグから残りのボールを出して、嬉しそうにドリブルを再開する。
    跳ねたボールは2つとも、壁に跳ね返って流川の方へ転がってきた。拾い上げる。どちらもマジックで、でかでかと落書きがしてあった。
    次は退場せずにダンク決めろよ‼
    オレのバイト代無駄にすんなリバウンド王!
    それぞれ別の筆跡である。こんなことをしそうな心当たりはひとつしかない。
    「なるほど、あいつらか」
    その時、花道がくんくんと動物のように鼻をひくつかせた。辺りを嗅ぎながら振り返った。
    「あ―――――っ!ルカワ‼このドロボー!」
    花道がものすごい勢いで駆けてきて、ボールをひったくると、タオルで流川の触ったところを拭いた。
    「あの連中に買ってもらったのか」
    花道はフフンと得意げに胸を反らし、わざとらしくボールをチラつかせた。なんだかんだ言って自慢したいらしい。
    外で使ったらしい痕跡があるものの、キレイに手入れされている。よっぽど大事にしているのだろう。
    「テメーにボール自慢されてムカついたって言ったら、買ってくれたんだよ」
    「ボール自慢?」
    心当たりが全くない。花道はチッと舌打ちして、横を向く。
    「てめー…部活前にオレに聞こえるように厭味ったらしく、マイボールをひけらかしてくれやがっただろーが!悪かったな!ボール買う金なくてよ‼」
    その言葉で、流川は佐々岡にボールを勧めたときのことを思い出した。別に花道に向かって話したつもりはなかったし、貧乏を当てこすったつもりもない。
    だが弁解するより早く、花道はキラキラした目でボールたちを抱きしめた。
    「でも…これさえあれば、オレだって家でもどこでも練習できる!鬼に金棒だ!」
    流川は目を細めた。昔…小1の時のクリスマスを両親がビデオに残していた、初めて手にしたマイボールにはしゃく自分も、こんな顔幸せそうなをしていた。
    花道が持っているボールには、流川の野郎に負けんなよ!の文字。誰だこれ書いたの。
    「どあほう…その文字が擦り切れるぐれー練習しろよ」
    「たりめーだ!」
    きっと、口だけではないだろう。入部して2週間で体育館シューズを履き潰した男だ。
    何故だろうか、花道を見ているとひどくドキドキする。身体が熱い。自分の言葉が花道を動かした事実に、興奮している。
    「おい」
    何か、花道に向かって言いたかった。しかし言葉が見つからない。代わりにうなじを噛もうと思った。だが…ぐるりと視界が回るほどの激しいめまいに襲われ、流川はその場に崩れ落ちる。
    「えあ、おい‼」
    花道が震える流川の額に手を当て、叫んだ。
    「てめー熱があんじゃねーか‼何やってんだこのバカ野郎‼」



    流川は花道によって保健室に担ぎ込まれた。
    「首のリンパ節がだいぶ腫れてる、風邪だと思うけど、熱が下がらないなら病院行きなさい」
    養護教諭が家に連絡したので、結局授業に出ることなく迎えの車で家に帰った。
    母の小言を聞きながら薬を飲み、温かくして布団に入ると、あっという間に眠りについた。


    首が痛い。痛い。
    生理的な不快感に、深い深い眠りから引き戻される。
    誰かが、首を触っている。ナメクジが這うようなぬるっとした、血濡れの、冷たい手が、首に絡みついて、熱を奪われる。ああ、首が、腐り落ちてゆく。
    首を明後日の方向に、強引に捻られる、痛い、苦しい、首が、捩じ切られる。



    流川は目を開けた。
    体中汗びっしょりで、頭がガンガン痛んだ。覚えていないが、ひどく不快な夢を見た気がする。タオルで汗を拭い、枕元のスポーツドリンクを飲むと人心地がついた。
    その時ふと、窓の外に気配を感じる。時計の針は1時前だった、夜ではなく真っ昼間である。
    立ち上がってカーテンを開け見下ろすと、門の前に赤頭がいた。ガラス越しに声が聞こえる。
    「悪霊退散!悪霊退散ッ!はらったまぁきよったまぁ!どーまん!せーまん!」
    花道だった。
    ひたすら意味不明なことをわめきながら、一升瓶の中身を道路や門扉や塀、とにかく目に付くもの全てにぶちまけている。
    流川はカラリと窓を開けた。酒の匂いが、二階の窓辺まで漂ってきていた。
    「何やってんだ、どあほう」
    「ふぬっ!ルカワ‼」
    花道がこちらを見上げて何やら喚いていたが、流川は聞いていなかった。弾かれたように部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。ひどく胸が沸き立って、身体を急かす。早く、早く、つんのめるように勢いよくドアを開け放つ。キャッと可愛らしい悲鳴が聞こえた。
    「る、流川くん!」
    ドアの前にいたのは、花道ではなく頬を染めた赤木晴子だった。花道は門の外で、一升瓶をを抱え立ち尽くしている。
    「こ、こんにちは。急にごめんなさい!彩子さんから頼まれて…これ、お弁当箱……部室に忘れてたから」
    「…どーも」
    拍子抜けしつつも受け取ると、晴子は心配そうに流川を見上げる。
    「熱出たって聞いたけど、大丈夫?」
    「ん、まぁまぁ…」
    「ハルコさん!用が済んだらこんな化け物屋敷さっさと退散しましょう‼」
    一升瓶を武器のように構えた花道が、ビクついた顔で玄関までやってきた。
    「何が化け物屋敷だ」
    「ごめんなさい流川くん、病気なのに引き止めて…あっそうだ!」
    晴子が声を上げ、急いで胸ポケットから何かを出した。
    「これ…桜木くんから、流川くんにお見舞いですって」
    手のひらに載せたそれは、お守りだった。
    「ああああ!そ、それはハルコさんのために」
    ピンときた。きっとこれは花道が晴子のため渡したものだ。お守り袋に病気平癒とあるから、晴子が勘違いしたに違いない。
    花道が晴子に片想いしていることはもちろん気付いている。知らないのは当の晴子くらいだ。
    膨らみかけた期待が、一瞬でしぼんだ。
    「別にいらねー、あんたが持っとけば」
    突き返すと、花道が険しい顔をした。だが様子がおかしい。
    いつものように、ハルコさんの気遣いを!とか喚かないで、ぎっと流川の首元にガンつけている。いったい何が見えてるんだこいつ。
    「すみません、ハルコさん」
    花道は晴子の手からお守り袋を取り上げると、紐を伸ばして。
    ゆっくりと流川の首にかけた。
    その瞬間、フッと首筋に絡みく何かが切れたような、首が軽くなったような、不思議な感覚がした。
    「てめーにやる。めちゃくちゃ効くお守りだから、身体が良くなるまでずっと下げてろ」
    「…わかった」
    いやに真剣な花道の顔に、流川は素直に頷いていた。実際、首の痛みや焼け付くような熱が、すぅ〜っと引いたように思える。流石病気平癒のお守り、効果抜群だ。
    「じゃーな、行きましょうハルコさん」
    「ええ、それじゃ流川くん、お大事にね」
    花道が、晴子を急かして背中を向ける。そのうなじを見て、流川は大事なことを思い出した。
    「おいっ、どあほう‼」
    いきなり怒鳴ったので、二人はびっくりして振り返る。
    「…夜中来てたの、てめーじゃなかった。勘違いして、悪かった」
    花道はポカンとして流川を見、それから一瞬顔を輝かせ、真っ赤になってわたわたと手足をバタつかせた。
    「あ、あ、あ、あ当たり前だろーが馬鹿!そんなオバケと天才を一緒にすんな‼」
    「てめーじゃねーんだ、濡れ衣を着せっぱなしにはしねー」
    「なんだとう!」
    「ふふ、誤解が解けて良かったね、桜木くん」
    「ハイ♡」
    晴子相手に鼻の下を伸ばす花道を見ていたら、もうひとつ忘れていたことを思い出した。
    流川は油断しきった花道に飛びかかり。
    「隙あり」
    「ぎゃぁああああああああ!」
    無防備な襟足に噛みついたのだった。



    その夜、流川は夢もみず朝までぐっすりと熟睡した。
    幸い翌朝には熱は下がり、首の腫れも消え、身体はすっかり回復した。
    流川の家の花は一本も枯れていなかった。そして、その日以降流川が夜中に目覚めることも、花が落ちることもなくなった。
    その代わり。
    「あーッルカワ‼」
    「今日もかよ」
    公園でマイボールを抱えた花道と遭遇することが増えた。
    「体育館でやれよ」
    「イヤだ!久々に晴れたんだ、てめーこそ体育館行け‼」
    今日も朝露に濡れたリングの下で、盛大な殴り合いが始まる。
    決勝リーグの日はもうすぐそこまで迫っていた。



    流川の家の花が腐り落ちることはなくなった。
    だが。
    流川の家の3件先の家の前には、剄られ腐り落ちた薔薇の花が転がっていた。
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