美味なるものよ、何処へ 肺が痛むほどに走るという経験は、何度も繰り返したがあまりにも久方ぶりすぎた。振る腕は徐々に下がり、脚は少しずつもつれ始める。それでも、その動きを止めるわけにはいかない。後ろから追いかけてくる"何か"から逃げ切るまでは、この腕と脚を止めることはできないのだ。
その日はいつも通り、なんの変哲もない日であった。定時に上がれたから、商店街で揚げたてのコロッケを買い、好意でオマケしてもらった野菜や肉を抱えながら帰路についていた。家で待つ、愛しい愛しい養い子と、その実父のことを想いながらご機嫌に夕暮れの道を歩いていたのだ。あまりにもいつも通りだった。だからかもしれない、そんなつもりはなかったが油断していたようだった。
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