香 朝の清涼な空気を優しく彩る豊潤な香気に誘われて、冠星は目を覚ました。枕元の脇机を見やれば、花瓶に活けられた水仙が白く朝日に透けていた。
宵はよく四季折々の花を見つけては寝込む冠星のためにと摘んでくる。以前はそのために池に落ちるわ木からも落ちるわで散々に叱ったものだが、今となってはそんなこともなくなり、肺に障るからと滅多に香を焚かない寝室にも、いつも柔らかな花の香りが漂っていた。
朝晩の花冷えでここのところ芳しくなかった調子も落ち着いたようで、昨夜までの息苦しさは消えており、冠星はひとつ大きく息を吸い込むと寝台から起き上がる。
先に身支度まで終えていた宵がそれに気づき、「おはようございます」と笑顔を向けた。
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