わたしたちの春がくる 二人きりの花見をしてから一年後、再来の機会は訪れる。都市圏近郊の某河川敷、その堤防沿いに百はくだらない本数の桜が立ち並んでいる。咲き誇った花々の下には屋台が出回り、休日なのもあって大変な賑わいを見せていた。
「耀さん耀さん! すごいです! 満開の大盛況です!」
玲の見えないしっぽがぶんぶんと振り回されている。目一杯に見開いた紫苑の瞳はきらきらと、薄淡の桜花と屋台の行列を忙しなく右往左往。繋いだ左手を離してしまえば、何処へなりとも駆け出してしまいそうで言わずもがなに苦笑がこぼれる。
「前見てないと転ぶよ。随分と大はしゃぎしちゃってまあ」
「だってわくわくしませんか? 去年は結局……わっ!」
いきなり何もないところで玲がつんのめり、ぐらついた重心はリードを引っ張る要領でこちらに引き戻す。
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