わんにゃん🩸俺は猫である。名前はまだない。
気が付いたらこのダンボール箱に犬と一緒に捨てられていた。捨てられていた、が正しいのかも分からないがとにかく二匹で野ざらしの状態だった。
犬は黒く長いフサフサした尻尾を振って俺の体にべったりくっついている。暑苦しいが寂しいのだそうだ。だが腹も減ってきたし、そろそろ箱から出て食い物でも探しに行かねばなるまい。野生を忘れたお犬様にはこの世を生きるのは難しいだろう。世話が焼けるが俺が鼠でも捕って来てやろうと箱から頭を出した時だ。
頭上から人間の声がした。
「あれ?お兄さんが二人寝てると思ったんだけど、耳と尻尾があるな、犬と猫?呪霊?ぽくはないけど……なんだこいつら」
箱を覗き込むのは明るい髪色の少年だった。不躾な眼差しに俺は犬を背後に守りつつ威嚇してやる。
やめろ、手を伸ばすな!頭を撫でるな!噛み付くぞ!
俺が懸命に威嚇するが、犬と俺の腹が同時に空腹を訴えるように鳴った。
少年は破顔して、ウチくる?と笑ったのだ。
少年の家は独りで住むには少々大きいように感じる。犬は室内に入った途端くるくると部屋中を歩いて回っている。俺たちはボロのTシャツ1枚しか身につけて居らず汚れていた為、少年がまずは風呂だと犬に叫んでいた。犬は呼ばれたのが嬉しいのかちぎれんばかりに尻尾を振って少年の元へ。俺は濡れたくないので少年の手から逃げ回る。
「全く言う事聞けって、スッキリすっから」
結局少年に捕まり、抵抗するも怪力なのか逃げることも叶わず、2匹でシャワーと風呂に入れられ、交互にドライヤーとか言ううるさいものを当てられた。犬は長い毛並みがフサフサのツヤツヤになった。俺たちは来ていたTシャツを捨てられ、とりあえず少年のスウェット?なるものを着せられている。犬は体が温まったのか眠そうにしているが、俺も犬も数日飯を食っていない。
「おい」
「お、喋った」
「少しは喋れるぞ、こいつも俺も腹が減ってる飯をくれるんじゃないのか」
「そうだったな!ピザ頼んだんだ、ピザ好き?そろそろ来るよ」
しばらくすると玄関のベルが鳴り少年がいい匂いのする箱を抱えて部屋に戻ってきた。
犬は鼻をくんくんさせて涎を零さんばかりにしている。少年が待てをするのに、聞き分けよくお座りしているが俺は少々懐疑的だ。毒でも入っていないだろうか。
犬は行儀よく、少年に言われるがまま皿に乗ったピザにぱくついている。俺はしばらく犬と少年が食っているのを眺めていた。
「冷めねえうちに食いな?何も入ってねえよ?ほら、な?犬も美味いって」
俺は渋々ピザに手を伸ばす。味見をするようにひと口食べ、気が付いたら完食していた。体が温まって腹も膨れると途端に眠気が襲ってくる。犬は少年の膝を枕に眠ってしまった。俺は二人から距離を置き、部屋の隅で丸くなる。体を縮めるとすぐに睡魔が来る。眠りに落ちる寸前、少年が呟いた。
「本当そっくりなんだよな……なんでだろ」
ふかふかした肌触りに目を覚ますと毛布に包まれていた。たくさん眠ったようで体が軽い。少年は眠る前とは違う服を着ている。外の匂いがするのでどこかへ行っていたようだ。
「一応、犬と猫だしさ、首輪付けない?嫌ならいいけど……ウチに居るだろ?飯も寝床もあるしさ、犬は気に入ったみたいだけど、どうかな?」
「俺はお前のものにはならないぞ!だが犬が心配だから犬に着いててやるんだ」
「そ?じゃあ一緒にいてやって。俺悠仁、お前たちは?」
「名前など無い」
「じゃあ名前付けよう、お前アニキぽいからアニキ、犬はオニイチャンだな!」
「兄貴とお兄ちゃん?兄弟の呼び名だろ」
「いいじゃん、決まり!これからよろしくな」
犬はお兄ちゃんと呼ばれ嬉しそうに尻尾振って尖った耳を寝かせた。犬も少し喋れるようで、ゆうじゆうじと少年の名を呼んでいる。俺は飯が食えるならしょうがない、少年と犬の世話を焼いてやるかと思うことにした。こうして俺達の共同生活が始まった。