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    o_juju_Pd3fJ

    @o_juju_Pd3fJ

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    o_juju_Pd3fJ

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    ついの棲家⑤リビングで二人、悠仁が作った焼きそばを食べていた。脹相は時折悠仁が氷を入れたビニール袋にタオルを巻いた氷嚢を左頬に当てている。脹相はぽつりと呟く。

    「美味い」
    「焼きそばはやっぱりこのメーカーだよな。麦茶も飲めよ」

    悠仁はポットから脹相のコップに麦茶を注ぐ。

    「悠仁……」
    「なぁに?」
    「ありがとう……」
    「まだ脹相助けてねえから」
    「そうだな……」

    二人は昼食を食べ終わると再び脹相の部屋へ移動した。脹相は押し入れからダンボールに仕舞われた資料を取り出してくる。脹相が悠仁に見せてくれたのは家系図と古い新聞のコピーだった。脹相は静かに口を開く。

    「まずはこの家の怪異から話そうか……
    この家では時折女の泣き声が聞こえる。啜り泣く声、何か話している声を聞く者もいる。あとは土を掘るような音が聞こえる。これは特に夜中だな。俺はどちらも聞こえるし、弟達も聞こえる。おそらく母も聞こえていたと思う。……多分、家系的に霊感のようなものがあるのか、この家じゃなくても俺達兄弟は幽霊を見たりすることがあって、最初は特に何とも思わなかった。」
    「女の人はなんて言ってるの」
    「返して、と。やめて、返して、許して、終わりにして。そのような言葉を聞いたな。」

    脹相は眉を寄せて眉間を指で抑えた。傷が泣く。

    「ごめん、話すの辛い?ゆっくりでいいよ」
    「すまん、……それで、悠仁が来て俺に傷があると言っただろう。俺が高校生の時、叔母さんに勧められて初めて蔵の中を整理したんだが、何かに触ったのが原因か声の主の女が見えるようになった。」
    「え?」
    「その女の鼻上に傷があるんだ。」
    「え?どこに居んの?」

    脹相は自分の仕事部屋の本棚がある角を指さす。

    「え!マジで」
    「今は見えない、本棚を置いたからな。それから怪異の原因を探ってみようと色々調べたんだ。女は俺達の先祖にあたる人物かもしれない、と。着物を着ているから明治時代かそれ以前。ただおかしい部分があって。この家は明治後期のものだが女は上半身しか見えないんだ」
    「半分埋まってるの」
    「埋まっている、というか、地面が違う場所にある感じかもしれん。この家の前の造りに準じた存在じゃないのかと考えた」
    「でも、江戸時代でも地主なら土間じゃない限りその高さにはならねえんじゃ?」
    「そうだな、土間や、牢屋みたいな場所じゃなければな」
    「…………」
    「明治時代初期、江戸時代あたりの家系図で変わった所が無いか見ると、ある時期から子供が多産になっている時期があった。」
    「ああ本当だ、兄弟多いな」
    「この直前がこの家が丁度建て変わる時と一致するだろ。だがこれだけじゃ女に何があったのかは分からなかったから、今度はこの時期に、この周辺で何か出来事が無かったを新聞を遡って調べてみた。」

    脹相は今度は新聞のコピーを出してくる。昔の文章だが、火災があったことが読み取れた。

    「加茂家が火災にあっている。原因は放火で、当時の長男の男が犯人だ。一緒に妹にあたる女性と老夫婦が焼死したとある。」
    「この人とこの人かな」

    悠仁は家系図を指差す。

    「おそらく、声の女はその妹ではないかと……問題なのはその後で、この家に関する新聞記事を探すと男女の兄弟心中が二件あった。」
    「んえ!?」
    「……嫌な予感がして、檀家の寺も調べたんだ、水子が多いんだ、昔は今より死産が多いと言っても、異様だ。」
    「土を掘る音って……」
    「埋まっているかもしれん」
    「うわあ」
    「江戸時代までのことは分からない、元々そういう家なのか、だが時代を遡っても近親相姦は無い家だ、突然そういった気配がして来たのが建て替えのあたりだ。土を掘る音、水子、泣く妹、牢屋、兄の放火……」
    「……じゃあさ、その女の人を供養したらいいんじゃないの」
    「……多分、問題はそっちじゃないんだ」
    「なに」
    「呪いだ」

    脹相は二件の兄弟心中の記事を指差す。

    「兄の呪いだ。近親間で好意を持つ、挙句育たない子供が出来る、双方が同意なら子供は諦めても心中までしなくていいだろう?何故一番始めのこの兄は心中したんだ、妹を閉じ込めて無理やり……」
    「やめて、終わりにして、許して……か、返しては赤ちゃんのこと?」
    「酷い話だ……」
    「多産は妹側の呪い?産んであげたかったんだな」
    「産んでも殺されたか、そもそも死産か……幼い時、母さんになんで何人も弟を産むのか聞いたことがある」
    「なんて言ってた?」
    「胎に入ったらどんな子でも産んであげたい、と……母さんも何となく分かってたくさん産んだのかもしれないな」

    悠仁は脹相の話を自分の中で一旦整理した。例えば、悠仁か脹相がこの家で結婚し相手と家庭を持てば子沢山になるのだろうか。兄の呪いは男兄弟だから無効だとして。
    悠仁はそこまで考えてそもそも自分は脹相に好意を持っていたことを思い出す。これは、もしかしたら兄の呪いなのではないだろうか。いや、そもそも……。

    「俺達は男兄弟だろ?誰かがこの家で家庭を持たない限り多産は無いし、同性兄弟だから例え好意を持っても子供は出来ないし、兄貴達の帰省を止めることは無いんじゃねえの?」
    「記録に残っているのは男女の心中だろう?同性間の姦通までは分からない。男兄弟側が女姉妹に好意を抱いてしまえば、時代が時代だから多分社会的にも腕力的にも敵わない。相手に拒否し続けられれば無理心中をする者も居たかもしれないな。
    俺はそれが怖いんだ。弟達にはそんな呪いとは関係のない所で普通に幸せになってほしい。それは悠仁、お前もだぞ」

    脹相は悠仁を真っ直ぐに見つめてハッキリと言った。この家から出て行くんだと。

    じゃあ、なんで、なんで傷が泣くんだよ……
    まるで助けてって言ってるみたいじゃんか……
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