それは偶然の出来事だった。
ヒースクリフから、自分の代わりに本を返してきてほしいと頼まれ、シノは図書室を訪れていた。なんでも、どうしても外せない個人レッスンが入ってしまったらしい。Domなのだから、頼み事の一つや二つ、もっと気軽にすればいいのに。こんな小さな頼み事すら滅多にしようとしない己の主人に、シノはいつも通り小さな不満を抱きつつ、ヒースクリフから預かった本を司書へと手渡した。
シノは典型的な読書嫌いで、活字を見るとすぐに眠くなってしまう。当然、図書室に縁などなく、訪れるのは合併前の校内見学ぶりだった。司書がバーコードを読み取るのを待つ間、室内をぐるりと見渡すが、やっぱりシノの好奇心をくすぐるようなものは存在しない。
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