thinking of you カーテンの隙間から溢れる光を感じて、仙道は目を覚ました。ぼんやりした頭で時計を見れば、時刻はとうに朝と呼ばれる時間を過ぎていた。もう昼前だというのに、部屋はしんと静まり返り、寒々しい空気に包まれている。
仙道は蹴飛ばしていたらしい布団と毛布を引っ張り上げると、自分の耳元まで覆った。足の先が冷え切っていて、毛布の中で身震いをする。
一人のベッドは、こんなにも冷たいものだったろうか。
昨夜はあんなに熱かったのに、と仙道はもう一度微睡みながら、眠りに落ちるまでは確かに隣にいた恋人───牧の感触を思い出す。
イイ所を的確になぞる長い指。際どい部位まで舐め上げてくる器用な舌。肌に跡が残るほど強く腰を掴む大きな掌。離したくない、好きだと雄弁に語る焼け付くような瞳。最奥まで突き上げてくる、快楽に浮かされた息遣い。いやらしい言葉を散々聞かされて、いやらしい言葉も散々言わされた気がする。
それらの記憶が脳裏に蘇った仙道の頬に、じわじわと熱がこもり始める。何度体を重ねようと、情事後の気恥ずかしさだけは慣れそうにない。
昨夜溶けるほど睦み合った牧の温もりは、既にない。おそらくロードワークに出ているのだろう。寝入っている仙道を起こさぬよう、そっと出て行った牧の姿を想像して、仙道は目を閉じたまま密やかに笑った。
ああ、今すぐに抱きしめたいし、抱きしめられたい。
牧さんの肌で、この冷え切った体を暖めてほしい。そばにいても離れていても、考えてしまうのはただ一人。それはきっと、幸せなんだろう。
独りきりのベッドはやはり冷たくて、毛布の中に頭まで潜り込む。そのままうつらうつらとしていると、玄関が開く音が静かな部屋に響いた。堂々とした足音とともに、「まだ起きてねえのか」と少し呆れた、だけど甘くて優しくて柔らかい声が振って来る。
起きれなかったのは半分あんたのせいですよ、と言ったら彼はどんな顔をするだろう。「すまん」と謝られるか、「オレのせいだな」と開き直られるか。どちらにしても、仙道が求める温もりはすぐに与えられるだろう。
寒々しいだけだった仙道の部屋が、愛で満たされるまで、あと少しの話である。