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    chinotto

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    chinotto

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    R6ハトルル展示作品。
    いなくなった監督生をエースが探して見つける話。

    エースのボイスキャストを務めてくださってる山下誠一郎さんが歌う「夜に駆ける」を聞いてからずっと書いてみたかったお話です。あまり詰められてないので、雰囲気で読んでください。

    駆け抜けて夜を選んで嫌な予感がしたんだ。
    思えばそれはとてもささいなことで、いつものように別れ際にした交わした「バイバイ」のあとに「またあしたね」の言葉がなかった、ただそれだけだった。
    部活が終わった後の帰り道、ふとそれに気がついたオレが、オンボロ寮に足を向けかけたまさにそのとき、スマホが鳴った。ディスプレイに表示される監督生の名前を確認して出てみると相手はグリムで、「昼寝から起きたら子分が見当たらないんだゾ。おまえといっしょじゃないのか」と言う。「違う」と答えて電話を切ると、オレはとっさに走り出していた。


    入学式の翌日、メインストリートにグリムと佇む監督生を見たとき、どうしても目が離せなくなった。そのまなざしが、あまりにもさみしそうだったから。気がついたら、声をかけてしまっていたんだ。入学式で騒ぎを起こした得体の知れないやつになんか、絶対に関わるつもりなんてなかったのに。なにも考えずに話しかけてしまったものだから、思いつくままにからかってバカにして、我ながら最悪な態度だったな、と今になって思う。それでも、その後のいろいろをグリムやデュースも含めていっしょに乗り越えて、いつのまにかなかよくなっていた。

    監督生は、ふいに遠くをみつめているときがあった。それは、教室で周りがみんな騒いでるときだったり、何でもない日のお茶会に呼ばれているときだったり、オンボロ寮でグリムをひざにのせているときだったり、いろいろだった。きっと帰るべき元の世界のことを考えてるんだろうな、と検討はついていたけど、オレはそれがいつもおもしろくなかった。そういうときのあいつの顔はどこか大人びていて、ふと目をそらしたら消えそうで、いつもより少しだけキレイに見える気がして、だから、オレはそれがキライだった。そして、そのたびに、からかったり、驚かせたりして、オレの方を向かせるようにしていた。

    この学園でのオレの毎日にはずっと監督生がいて、それはあいつも同じはずで。タルトづくり、はじめてのお茶会。マジフト大会。中間試験からのイソギンチャクと海への冒険。ホリデーだって、突然のSOSにスカラビア寮の砂漠まで飛んでいった。オーディションとオンボロ寮の合宿、そしてVDCの本番。いつだって、あいつはオレたちといっしょにいて、いや、オレがとなりにいたくて。楽しそうなことには当然のように誘って、面倒ごとにも巻き込んだり巻き込まれたりして。気がつけば、ずっととなりにいたいと思うようになっていたし、できる限り笑っていてほしいと思うようになっていた。


    中庭、図書館、オレたちの教室。考えつく限り校舎内を走り回って、特別教室棟の奥に揺れる立入禁止の鎖が切れているのをみつけた。たしか、その先には老朽化したバルコニーがあって、近く改修工事をするから近づかないように、とクルーウェル先生が言っていたことをオレは思い出した。その先に進むと、案の定、さがしていたやつがいた。
    「やっと、みつけた」
    暮れなずむ夕日を背に、監督生は振り返ってオレを見た。
    「あーあ、みつかっちゃった。……今日はまだもう少しだけ、ひとりでいたいんだけど、見逃してくれない?」
    そんなことを言う監督生は、オレのキライなあの目をしていた。だからオレは「やだね」と軽く拒否して監督生に近づいた。
    「グリムがオンボロ寮で腹すかして待ってんだから、早く帰んないとあいつ暴れてるかもしんねーぜ。だいたい、オレだって暇じゃないんだから、ほら、さっさと帰んぞ」
    オレは監督生を連れ帰ろうとその腕をつかもうとしたが、あいつはその手を振り払った。予想外の明確な拒絶に唖然として、オレは思わず固まった。少しの沈黙の後、監督生は言った。
    「エースにはわかんないよ」
    ああそうだ、オレにはわからない。たったひとりちがう世界に放り出されたさみしさも、自分がこれからどうななるのかわからない不安も。それでも、今、監督生もオレもここにいて、グリムもデュースも、同級生もセンパイたちも、みんな監督生の傍にいて、この学園で、いっしょにいろんなことを積み重ねてきたはずなのに。オレは、オレが思いつく限りのもので、こいつをこの世界につなぎとめたいと思っているのに。それなのに……なんで、届かないんだろ。
    「……もうやだ。おまえ、オレのことなんだと思ってんの」
    知らないうちにオレの目からは涙がこぼれていて、そのことに自分が一番驚いていた。ぼやんりにじんだ先に見える監督生は、一瞬驚いたように目を見張り、ゆるやかに微笑んだ。
    「エースでも、そんなこと、言うんだね」
    今日初めて笑ったその顔は、びっくりするほど悲しそうだった。
    と、そのとき、鈍い音がして、目の前の監督生の体がむこう側に傾いた。それは、あいつが背をもたせていたバルコニーの柵が折れる音で。日の落ちきった薄闇の中を傾いでいく監督生に、オレは必死で手をのばした。

    おまえが何であっても、オレたちは……オレは、傍にいてやるから。
    終わりになんてさせてやるかよ、ふざけんな。

    勢いのまま、オレは渾身の風魔法を放った。投げ出された身体は、一瞬、宙を舞ったかと思うと、ごうっという音とともにもみくちゃにされて、気がついたときには、オレは監督生を抱きしめてりんごの木の上にひっかかっていた。
    自分もこいつも無事だったことにほっとしていると、腕の中の監督生が震えていることに気がついた。どうやら声を殺して泣いているようだった。それは、今の落下が怖かった、だけじゃ、たぶんないはずで、だから、オレはなにも言わずに、しばらくそのままでいた。

    「おーい、監督生! エース!」
    監督生が落ち着いたのをみはからって木から降りたタイミングで、グリムとデュースの声がした。見れば、ふたりが手を振りながらこちらに走ってきていた。
    「エース、今日のことは……」
    そう言いかけた監督生の唇にオレは右手の人差し指をあてその先を制する。いつものようにニヤリと笑ってやれば、監督生は、次の瞬間、泣きそうな顔でくしゃっと笑った。それは、今日オレが初めて見た監督生のうれしそうな顔だった。
    「さあて、じゃ、帰りますかね」
    そう言って、オレは監督生の手を握る。
    たとえ、この世界がこいつのいるべき場所でなかろうと、こいつ自身が何であろうと、こいつが選んでくれるなら、望んでくれるなら、オレは二度とこの手を離してなんかやらない。
    監督生がためらいがちに握り返してきたその手にオレは応えるように指を絡める。すっかり暗くなった夜の中、オレたちは、親愛なるマブたちのもとへと駆け出した。
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    chinotto

    DONEマブたちがラビフェスに行ってしまっておいてけぼりのエースの話(エー監というよりは、エースがマブに思ってること、みたいな話です)
    おいてけぼりアリスうさぎの衣装に身を包んで笑ってポーズをとる友人たちの写真にハートをひとつ送ると、エースはスマホを雑に放った。
    ここはハーツラビュル寮の一室、1年生の4人部屋。バスケ部の練習試合から帰ったエースは、自身のベッドに仰向けに寝転んでいた。
    いつもなら翌日が休みなことにワクワクしているはずの土曜の夕方、今のエースの気分を表すならば、つまんない、の一言に尽きた。なぜって、いつもいっしょのマブたちが、おでかけしてしまったから……エースだけをおいてけぼりにして。
    デュースの故郷の時計の街で開かれるホワイトラビット・フェス。週末を使って彼が帰省することは、エースだって前から知っていた。でも、監督生たちもいっしょに遊びに行くなんて、聞いてない。決して、自分もあの衣装が着たかったわけじゃないし、お祭りといっても小さな街のそれにそこまで行ってみたかったわけじゃない。そもそも、エースは今日の練習試合に準レギュラーでベンチ入りが決まっていたから、誘ってもらっても結局は行けなかった。
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    chinotto

    PASTR6ハトルル展示作品。
    いなくなった監督生をエースが探して見つける話。

    エースのボイスキャストを務めてくださってる山下誠一郎さんが歌う「夜に駆ける」を聞いてからずっと書いてみたかったお話です。あまり詰められてないので、雰囲気で読んでください。
    駆け抜けて夜を選んで嫌な予感がしたんだ。
    思えばそれはとてもささいなことで、いつものように別れ際にした交わした「バイバイ」のあとに「またあしたね」の言葉がなかった、ただそれだけだった。
    部活が終わった後の帰り道、ふとそれに気がついたオレが、オンボロ寮に足を向けかけたまさにそのとき、スマホが鳴った。ディスプレイに表示される監督生の名前を確認して出てみると相手はグリムで、「昼寝から起きたら子分が見当たらないんだゾ。おまえといっしょじゃないのか」と言う。「違う」と答えて電話を切ると、オレはとっさに走り出していた。


    入学式の翌日、メインストリートにグリムと佇む監督生を見たとき、どうしても目が離せなくなった。そのまなざしが、あまりにもさみしそうだったから。気がついたら、声をかけてしまっていたんだ。入学式で騒ぎを起こした得体の知れないやつになんか、絶対に関わるつもりなんてなかったのに。なにも考えずに話しかけてしまったものだから、思いつくままにからかってバカにして、我ながら最悪な態度だったな、と今になって思う。それでも、その後のいろいろをグリムやデュースも含めていっしょに乗り越えて、いつのまにかなかよくなっていた。
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