おいてけぼりアリスうさぎの衣装に身を包んで笑ってポーズをとる友人たちの写真にハートをひとつ送ると、エースはスマホを雑に放った。
ここはハーツラビュル寮の一室、1年生の4人部屋。バスケ部の練習試合から帰ったエースは、自身のベッドに仰向けに寝転んでいた。
いつもなら翌日が休みなことにワクワクしているはずの土曜の夕方、今のエースの気分を表すならば、つまんない、の一言に尽きた。なぜって、いつもいっしょのマブたちが、おでかけしてしまったから……エースだけをおいてけぼりにして。
デュースの故郷の時計の街で開かれるホワイトラビット・フェス。週末を使って彼が帰省することは、エースだって前から知っていた。でも、監督生たちもいっしょに遊びに行くなんて、聞いてない。決して、自分もあの衣装が着たかったわけじゃないし、お祭りといっても小さな街のそれにそこまで行ってみたかったわけじゃない。そもそも、エースは今日の練習試合に準レギュラーでベンチ入りが決まっていたから、誘ってもらっても結局は行けなかった。
「……それでも、何も言わずに行こうとすることないじゃんか」
思わず漏れたつぶやきは、いつもはにぎやかな4人部屋の静寂に吸い込まれた。
――オレってあいつらにとって、なんなんだろ。
まだ雑用係だった監督生とグリムに最初に声をかけたのはエースだ。たしかに、それは親切心や仲よくなろうと思ってのことではなく、からかってやろうといういたずら心からだったけれど。それでも、監督生たちにとって、この学校で最初の友だちは絶対にエースなわけで。にもかかわらず、なぜ、行くとなったときにエースも誘おう、の一言がないのか。少なくとも、伝えようとは思わないのか。デュースもデュースだ。みんなで行くなら、なぜそうなったときに自分にも声をかけないのか。みんな、マブだなんていうのに薄情じゃない? とエースは思っていた。
――もしかして、オレがいなくてもあいつらは平気なのかな。
なぜかこんなときにエースが思い出したのは、あのハロウィンの夜のことだった。目が覚めたら、デュースはとなりのベッドから消えていて、心配で走った先のオンボロ寮のどこを探しても、監督生もグリムもいなかった。結局は、マレウス先輩たちの迷惑な思いつきで、みんなは無事で、最後にはゴーストたちと真夜中のパーティーとなったわけだけど。でも、エースはのんきに踊って楽しむ気になんてすぐにはなれなかった。監督生もグリムもデュースも、残された方がどれだけ心配したか、まったくわかっていなかった。……あのときから、彼らにいなくなられるのが、自分は少しこわいのかもしれない、とそこまで考えて、なんだそれ、とエースは思わず首を振った。
さっき放ったスマホを手に取り、エースは件の写真をもう一度見つめた。ハートの女王の配下として有名な白ウサギの像が彼らの後ろに映り込んでいる。
伝説の白ウサギは、かの女の子に追いかけられていることを最後まで理解していなかった。もしかしたらそういうことなのかもしれない。おいていかれたことがないから、その気持ちがわからない。さがされていることすら、知らない。いつだって、さがすのは、追いかけるのは。ずっとそうしてさまよい続けた果てに、女の子は、みんなの目の前に飛び出して、言いたいことを言い、いろんな者の怒りを買って、ようやく、追いかけられる方になる。
――だったら。上等じゃん、オレのこと無視できないくらいに、おまえらの心をかき乱してやんよ。
と、スマホがメッセージの受信を告げる。「もうすぐ帰る」という監督生からのそれに、エースはにっこり微笑んだ。
「さあて、それじゃ、お出迎えしてやりますか」