Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    chinotto

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    chinotto

    ☆quiet follow

    エースが薔薇の迷路で監督生をさがす話。

    第63条執行中ハートの女王の法律・第63条
    『法廷で女王を激怒させた者は、トランプ兵に追われて迷路を走り回らなければならない』

    通称『右往左往の刑』と呼ばれるそれは、実際はめったに執行されることがない。そう聞いていたはずがしかし、今まさに、エースの目の前にあった。そして、彼は監督生を探して薔薇の迷路をひた走っていた。

    今日は、しばらくぶりの何でもない日のお茶会だった。それを聞きつけた学園長が、見学者を入れたい、と言い出したのは数日前。なんだか偉い学外出資者が来るそうで、グレートセブンと名高いハートの女王の法律に則った寮の行事を見せたいとかなんとか。それならば、と、お茶会の後に模擬裁判も開かれることになったのだった。
    青空の下で盛大に開かれたお茶会は、見学者たちにも好評で、そこまでは、よかった。しかし、その後、事件は模擬裁判中に起こった。かいつまんで言えば、眠りネズミを追いかけたグリムが法廷に乱入し、裁判をめちゃくちゃにしてしまったのだ。当然のごとく、リドルは激怒し、グリムにあの首輪をはめたわけだが、問題はそこが法廷であった、ということ。ゆえに、グリム、そしてその半身たる監督生に対して、ハートの女王の法律・第63条が執行されることになった。

    トランプ兵の一人として、エースは迷路を右へ左へ走っていた。「グリムをみつけた。追いかけてる」とデュースからメッセージがあったのはついさっきだ。広く複雑な女王の庭で、既にトランプ兵たちも散り散りになり、しかし、そこかしこの角で寮服の切れ端が視界の隅に踊り、芝生を踏む足音が聞こえる。
    見上げた空は青く、薔薇は美しく咲き誇っている。スマホもつながるから、デュースたちと連絡だってとれる。勝手知ったるこの庭は、たとえ『右往左往の刑』のルートであろうと、どこにどう通じてどう変化するか、すべて頭に入っている。それなのに、エースはひどく不安だった。自分は追いかける側のはずが、ややもすると何かから逃げているのは自分の方であるような気がしてくる。たぶんそれは、エースがリドルの夢でのことを思い出すからにほかならなかった。

    圧倒的な力の女王の暴走になすすべもなく、先輩やデュースたちとも離れ離れになって、逃げ回るしかなかったあのとき。足手まといで逃される側になったことに一瞬でもほっとしてしまった自分。悔しくて情けなくて、そんな土壇場で発現した魔法に戸惑って。でも、あんなギリギリでエースが勝負に出られたのは、監督生が、エースを信じて、その震える手を握ってくれたからだった。

    たとえ監督生がほかの寮生にみつかって追いかけられたって、別にひどいことをされるわけじゃない。でも、エースは一刻も早く監督生を見つけ出したかった。迷路に足を踏み入れたときの少し不安気な監督生の顔がちらつくから。グリムとはぐれて一人でいるなら心細いはずだから。悪夢の世界でエースを見失わずにいてくれた監督生に借りを返したいから。……それに、だって、異世界から迷い込んだ監督生を、入学式翌日のあの朝、あのメインストリートで見出したのは、エースなんだから。だから、真っ先に、エースが監督生を見つけるべきなのだ。だれよりも、はやく。

    角を曲がると、薔薇の垣根が閉まりかけているところだった。その先に、見覚えのあるシルエットの端っこを認めて、エースはそこに滑り込む。
    少し絡まった薔薇のつるを払い除けながら進むと、よく知る瞳がエースを捕らえた。安心したように細められたそれにニヤリと返してやれば、次の瞬間、監督生は弾かれたように走り出す。その背中を、エースは迷わず追いかける。
    そう、刑はまだ、執行中だ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    chinotto

    DONEマブたちがラビフェスに行ってしまっておいてけぼりのエースの話(エー監というよりは、エースがマブに思ってること、みたいな話です)
    おいてけぼりアリスうさぎの衣装に身を包んで笑ってポーズをとる友人たちの写真にハートをひとつ送ると、エースはスマホを雑に放った。
    ここはハーツラビュル寮の一室、1年生の4人部屋。バスケ部の練習試合から帰ったエースは、自身のベッドに仰向けに寝転んでいた。
    いつもなら翌日が休みなことにワクワクしているはずの土曜の夕方、今のエースの気分を表すならば、つまんない、の一言に尽きた。なぜって、いつもいっしょのマブたちが、おでかけしてしまったから……エースだけをおいてけぼりにして。
    デュースの故郷の時計の街で開かれるホワイトラビット・フェス。週末を使って彼が帰省することは、エースだって前から知っていた。でも、監督生たちもいっしょに遊びに行くなんて、聞いてない。決して、自分もあの衣装が着たかったわけじゃないし、お祭りといっても小さな街のそれにそこまで行ってみたかったわけじゃない。そもそも、エースは今日の練習試合に準レギュラーでベンチ入りが決まっていたから、誘ってもらっても結局は行けなかった。
    1512

    chinotto

    PASTR6ハトルル展示作品。
    いなくなった監督生をエースが探して見つける話。

    エースのボイスキャストを務めてくださってる山下誠一郎さんが歌う「夜に駆ける」を聞いてからずっと書いてみたかったお話です。あまり詰められてないので、雰囲気で読んでください。
    駆け抜けて夜を選んで嫌な予感がしたんだ。
    思えばそれはとてもささいなことで、いつものように別れ際にした交わした「バイバイ」のあとに「またあしたね」の言葉がなかった、ただそれだけだった。
    部活が終わった後の帰り道、ふとそれに気がついたオレが、オンボロ寮に足を向けかけたまさにそのとき、スマホが鳴った。ディスプレイに表示される監督生の名前を確認して出てみると相手はグリムで、「昼寝から起きたら子分が見当たらないんだゾ。おまえといっしょじゃないのか」と言う。「違う」と答えて電話を切ると、オレはとっさに走り出していた。


    入学式の翌日、メインストリートにグリムと佇む監督生を見たとき、どうしても目が離せなくなった。そのまなざしが、あまりにもさみしそうだったから。気がついたら、声をかけてしまっていたんだ。入学式で騒ぎを起こした得体の知れないやつになんか、絶対に関わるつもりなんてなかったのに。なにも考えずに話しかけてしまったものだから、思いつくままにからかってバカにして、我ながら最悪な態度だったな、と今になって思う。それでも、その後のいろいろをグリムやデュースも含めていっしょに乗り越えて、いつのまにかなかよくなっていた。
    2697