好きだと叫びたいケイトレ※ケイトレ
1年で付き合い出して2年で破局して3年でよりを戻すケイトレ
1年→勝手気ままにやってた時代。
2年→圧政の始まりと共に終焉。
3年→タイミングをはかってる
トレイ・クローバーとケイト・ダイヤモンドは付き合っていた。
1年生の夏、星送りの願い星の下で俺が告白した。
いつも一緒にいてとても居心地が良くて離し難く思ったからだ。友達という繋がりよりももっと強い繋がりが欲しくなったからだ。
顔を真っ赤にしてたどたどしく、かつ真摯に告白した俺に対してトレイは何度も今までここまで近い友人がいなかったから友愛を勘違いしているだけだとわりと酷いこと言った。
脈なしなのだからそこで諦めれば良かったのに俺も俺でムキになってトレイに告白し続けた。トレイもトレイで勘違いと主張し続けた。だが、結局は俺が放った「俺のこと嫌いなの?」に陥落した。
普通から外れることを恐れているフシのあったトレイも俺のことを憎からず思ってくれていたようで、「嫌いじゃない」を告げたあとしばらく黙り、やがて真っ赤になって「俺も好きだ」と告げた。そのトレイの可愛い姿は今でも脳裏に焼き付いている。俺だけの大切な記憶だ。
その日から俺たちは恋人となり、翌日から俺はトレイにベッタリであった。トレイは文句も言わなかったし周囲も気にすることもなかった。付き合う前からベッタリという距離感だったので周囲もトレイも距離感がバグっていた結果だ。
学校でも寮でもベッタリくっついて、休日にはふたりで街でデートしたりとプラトニックでありながらも順風満帆な恋人生活を送っていた。
そんなトレイとの恋人生活はあるひとりの登場によって脆くも崩れ去った。
そう。リドル・ローズハートの登場だ。
2年に上がってしばらくかわいい顔をした悪魔が革命を起こしてハーツラビュルは阿鼻叫喚の様相となった。
火曜日にハンバーグを食べるなというひどく横暴な法律が絶対視され、それを破ったものは首をはねられるのだ。それまでの寮生活では個々人の裁量に委ねられゆるくしか守られてなかったそれが寮の規範となったのだ。混乱するなと言われる方が難しい。
そしてその渦中、それもど真ん中にトレイが巻き込まれてしまった。生贄たる副寮長という役職につかせられてしまったのだ。
しかも寮長直々のご指名でだ。
トレイにはとてつもない量の仕事が降り掛かった。寮改変に対する申請書の作成、寮長変更に伴う雑務、それから寮長の仕事の肩代りだった。
一応言っておくとトレイはそれらをリドルくんに押し付けられたわけではない。リドルくんは真面目なのでそれらのことは自分でしようとしていた。ただ、入学1週間の新入生にはわからないことが多すぎたし、それらをリドルくんに教えてやろうという上級生が皆無だったためにトレイが間に立ち引き継ぎをしたのだ。
トレイが上級生から指導を受け、できるようになったらリドルくんへ引き継ぎするという二度手間な状況だった。
そんな面倒なことをしないで直接リドルくんへ教えてあげるように言えばいいのになんて思うかもしれないが、リドルくんは就任の時点で敵を作りすぎていたためにそれは難しかった。彼は上級生のほとんどに嫌われている。そしてそれも微塵も理解していないために改善の余地はなかった。
トレイが自ら彼の幼馴染のために動いているように俺も俺で恋人のために動くこととした。トレイの負担を少しでも減らそうと手伝うことになり、3人でなんとか寮運営を行うこととなった。
俺やトレイは休みもなく、ただただ流されるままに日々を送った。リドルくんのハートの女王の法律に則ったというとんでも要望を受け入れ、寮生に伝え、彼らの反発を抑えてルールとして定着させる。そんな日々だ。
俺らの努力は秘密裏に行われ、決して表に取り沙汰されることはない。それは完璧を求めるリドルくんに配慮した結果だ。
だからリドルくんは何も知らない。
「君たちが付き合ってるというのは本当かい?」
「本当だよ」
「…そういうの良くないんじゃないかい?」
純然たる気持ちで聞いたリドルくんに対して俺は笑って答えた。それからいかにトレイくんが可愛いのかなんて冗談めかして続けようと口を開いたところにその言葉が投げつけられた。
「え?」
「僕たちは寮生の規範にならないといけないのだからそういったものにうつつを抜かすのは良くないと思うよ」
俺たちがどういう気持ちで付き合っているのかも、リドルくんのためにどれだけの時間を犠牲にしてきていたのかも彼は何も知らない。
何も知らないからこそ彼はこんなことが言えてしまうのだ。
無知で横暴な王様だ。
「君たちの問題だから口を突っ込みたくはないが、他の寮生に悪影響を与えないようにした方がいいのではないかと思うよ」
トレイの顔は真っ青だ。
見ていられないほど怯えて、それから俺を途方にくれた顔をして見た。トレイは何も口にしなかったがその表情で彼の心境がいやというほどわかった。
そしてこれからなにをしようとしているのかも。
「ははは、リドル!こんなのケイトの冗談だよ」
「そうなのかい?」
「ああ、こいつはそういう冗談を言うんだ」
「そうか。では、噂は嘘なんだね」
「ああ」
「君たちに恥をかかせるなんて」
「いいんだよ。それくらい気にしてないさ。言いたいやつには言わせておけ」
「…そ、そうそう!実害はないんだから」
「そうかい…君たちがいいなら…」
わかったよ引き止めてごめんねと言って彼はそのままマントを翻して去っていった。嵐のようだなとぼんやり思う。
リドルくんの姿が完全に見えなくなったところで真っ青な顔のままトレイはこちらを見た。
その震える手をそっと取って頷く。
わかってるよ。王様に言われたからそうするしかない。非常に受け入れがたいがこれはトレイの心の安寧のためには必要なことだと思った。
それでも心の底ではひどく不快だった。
「ケイト」
「うん」
「ケイト……別れよう…」
「うん…」
「ごめん」
「うん」
ごめんなを繰り返すトレイ。それに何にも言えずにただわかったとしか頷くことはできなかった。
そうして俺は一番大切なものを手放すことになった。