まだ暑さの残る九月。蝉が鳴く季節は過ぎ去ったというのに、今日も茹でるような暑苦しさだった。異常気象が続く今年は朝から日差しが強く照りつけており、気温は軽く三十度を超えている。
電気代を節約するため冷房をつけずに過ごしていたのだが、そろそろ限界かもしれない。扇風機だけでは耐えきれない暑さである。
せめてもと窓を開けてみたのだが、生暖かい空気が流れ込んでくるだけで涼しくはならなかった。むしろ風がない分蒸し暑い気がする。
「………神社に行こう」
何故、そう思ったのだろうか。ただ単にこの暑さに耐えきれなくなっただけなのかもしれないし、何か別の理由があったのかもしれない。
しかし今となってはその答えなどどうでも良かった。とにかく今は神社に行きたい気分なのだ。
財布と携帯を持って玄関に向かう。靴を履いて扉を開けると、むわっとした熱気と共に太陽の光が飛び込んできた。眩しさで思わず目を細める。
「暑い…」
だがもう引き返すわけにはいかない。意を決して一歩踏み出すと、オレは家を出た。
◆
それから神社に辿り着くまでの記憶は、あまり覚えていない。
ただひたすら、汗まみれになりながら歩いていたことだけは確かだ。全身から滝のように流れる汗が止まらず、シャツや下着が肌に張り付いて気持ち悪かったことだけが記憶に残っている。
ようやく辿り着いた頃にはすっかり息が上がり、足取りも覚束なくなっていた。
「つ、着いた………」
鳥居の前で立ち止まり呼吸を整える。そして大きく深呼吸をした。
老朽してボロボロになった木造建築特有の匂いが鼻腔を刺激する。どこか懐かしいような落ち着く香りだった。
ゆっくりと石段を上り境内に入る。賽銭箱の前に立つと、持っていた小銭を投げ入れて手を合わせた。
(………咲希が、健康に過ごせますように)
思いついたのは妹のことだった。昔は体が弱くて入院生活を繰り返していたが、今はとても元気になっている。幼なじみ達と組んでいるバンド活動も順調だと聞いた。
…だがやはり心配なものは心配だ。願わくばこのままずっと病気知らずで過ごして欲しいと思う。もちろんこれは兄として当然の願いだ。
「……よし」
いつまでも妹のことを考えていても仕方ない。次は自分自身について祈ろう。
オレ自身については特に何も思い浮かばなかった。強いて言うなら、これからもショーを続けられるよう見守っていてくれることを祈るくらいだろうか。まぁ神様相手に見守られているというのもおかしな話ではあるが。参拝を終えたオレは再び拝殿の前に立つ。そしてもう一度頭を下げたあと、踵を返そうとした時だった。
「やぁ、お客さんとは珍しいねぇ」