はじめてをきみにただ、唇を合わせただけだ。
それだけのはずが不自然なほど息が上がる。鼓動が痛いほど早鐘を打つ。
逃げ出したいほど落ち着かないのに、永遠にこのままでいたいくらいの充足感があった。
きっと唇を合わせながら、魂ごと重ねて確かめあったからなのだろう。
そう理解しながらも、ただそれだけと自分に言い聞かせなければ、どうにかなりそうだった。
自分がどんな顔をしているかなどまるでわからなかったし、気にする余裕もなかった。
ただ、彼の姿だけは石になるまで忘れない。金の縁取りから零れそうな涙が宝石より輝いて見えたことも、春の花みたいに染まった頬も、唇が離れてすぐ恥ずかしそうに引き結んだ口元も、繋いだ手の温度まで。
綺麗だな、と口づけの余韻のままシノはヒースクリフを眺めていた。
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