前前前世から愛をこめて……むかしむかし、この世界は七人の神さまがそれぞれの国を治めていました。ある時、その中の一人が一つの罪を犯しました。それは、七人の神さまの生みの親である最高神の王の逆鱗に触れたのです。正しいことと悪いことの区別がつかない神さまが反省するには、どうすればいいか。最高神は考えました。そして、正邪を司る神さまに、最も恐ろしい罰を与えました。他の六人の神を地上に堕すこと。それは、神ではなく人間になるということ。残酷なことに、罪を犯した一人だけ神さまのままだったのです。
『さて、これは果たして正しいことか。悪いことか。お前に理解出来るか?ーーー正邪。あやつらは、転生を繰り返すごとに[[rb:カリスマ>神の力]]が薄まる。転生が終わったとき、完全に人間へ生まれ変わるのだ。そして、いつかお前を認識することも出来なくなる。それが罪を犯したお前への罰だ』
『何を言っている……最高神、何故我を罰せぬ?』
『罰だとも。死を繰り返せば繰り返すほど、力が弱まるといっただろう?ならば、父から我が子達に逃れられない死という[[rb:運命>プレゼント]]を贈ろう。安心しなさい。殺人、自殺、事故、溺死、焼死ーーー[[rb:神の世>ここ]]とは違って人間の世には、様々な死が蔓延しているのだから』
ーーーなぜ最高神が怒って呆れているのか、正邪と呼ばれた神さまは理解できませんでした。それでも、地上へ散らばって堕ちた仲間の行方が気になって、彼は自らの意思で神さまの世界から人間の世界へ下りました。そして、彼は無意識に性を司る神さまの元へ向かいました。
「……これは、何百年もずっと同じ男を思い続けた、ある神さまのお話です」
幕間【神だって恋に落ちる】
彼とは、ずいぶんと年の離れた兄弟であった。彼は、原初から存在している。生殖行為や性というのは、人間や神からは切り離すことの出来ないものだからだ。それゆえに、兄弟の中で一番年上だった。一方、自分といえば最近生まれたばかりだった。彼からしてみれば、赤子のようなものだ。久しぶりに生まれた神ということで、兄弟は皆可愛がってくれたけれど、特に可愛がってくれた。どこに行くのも一緒がよくて、必死に彼の後をついて行った。周りの兄弟たちは、微笑ましい光景だとかで見守ってくれたので好き勝手に出来た。自分たちの中で、誰よりも寛大である彼は忙しくても決して自分を拒むことはなかった。
ーーー兄弟だが、自分が初めて恋心を抱いた相手だった。神だって、恋に落ちるのだ。
「なぜこばむ、せい。われは、ほんきだぞ」
「ふふ、[[rb:愛>う]]いやつめ。だが、[[rb:これ>・・]]だけは許せぬ、許せ正邪よ」
「きょーだいでけっこんするのは、ほかのかみもヤってる。もんだいない」
「こら」
中指で額を強く弾かれる。痛い。見かけは、人間の赤子と変わらないのに。彼は自分が可愛くないのか。うっすらと赤くなっているであろう額を優しく擦る。
「いたいけなこどもに、ひどいことをする」
「中身は百を超えているではないか。お前が本当に年相応な幼子であれば、結婚を迫るわけなかろう」
「なぜ?いるぞ。ここに」
「……はぁ全く、誰に似たのだか」
「どうやったら、あきらめてくれる?せいだって、ヤりたいだろ」
「人聞きの悪い……いくら、性を司る者だからと言って誰でもいいわけなかろう」
ああ、今日も駄目だった。彼とのやりとりは何百回も続いている。一度も、彼に勝てない。
こんなにもすきなのに。
むすぅと頬を膨らますと、そっぽを向いてしまう。
その姿を見て、彼は何かを思ったのか。ーーーいつもと違う提案をしてきた。
「ーーーそうさな。それほど我を好いているのであれば、もう少し正邪が成長したら暁には、体を重ねるくらいは譲歩してやろう」
「……こころは、くれないのか」
「なんだ?体だけでなく我の心までも求めるのか。幼い癖に、なんとも強欲な男だーーー良い、気に入った。さすが我の弟だ」
機嫌が良くなった彼は、ひょいと太ももへ乗せてくれた。赤くなっていた額も、彼が手でなぞると赤みと痛みが引いてゆく。
「……では、一つ約束をしよう。もし、お前がそれを守れたら、体だけでなく心もーーー我を全てお前へくれてやろう」
「ほんとうか?なにをまもればいい?かんたんなのか?むずかしいのか?」
「ふむ。この約束は、容易とも複雑とも取れるだろうな」
「?なんだそれ」
笑いながら、彼は愛しそうに髪や耳へ口付けを落とした。後ろを振り返ると、笑いながら彼は頭を撫でてくれた。気持ちいい。
「お前が守るべき約束はーーーーーーー」