バン漆アンソロジーサンプル「流れ星」まるで、夜空を駆ける一筋の流れ星のようだと思った。
一見すると豪奢で、しかし細部をよく見ると安っぽい造りの洋室。部屋の真ん中にどかんと存在するダブルベッドに腰を掛けて所在なさげにキョロキョロと辺りを見渡す。ここは所謂、ラブホテルの一室である。扉を一枚隔てた浴室の向こうから聞こえてくる水音に耳をそばだてながら、何でこんなことになってしまったのだろうと考えた。
時は少し遡り、数時間前。俺は夜の繁華街を一人でブラブラと歩いていた。本当は大学の友達と飲みに行く予定だったのだが、急遽予定が入ったとドタキャンされたのだ。詳しい理由は聞かなかったが、恐らく最近出来た彼女と会うのだろう。俺との約束の方を優先しろよ、なんて子供じみた怒りは特に湧かなかったが、もう少し早く連絡してくれれば、待ち合わせ場所まで来て途方に暮れることもなかったのにと思ってしまった。
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