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    なかりせ

    パラライ/スパドクKシリーズ/そのほかいろいろ置き場

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    なかりせ

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    ベレス×シャミア お互い恋を自覚する一歩手前のバレンタインデーの話。
    お互いを出来る同僚と思いつつ徐々に距離が近づく空気感が好きです。

    #FE3H
    #シャミア=ネーヴラント
    shamir-nevland.
    #ベレス=アイスナー
    velez-eisner.
    #レスシャミ
    #FE風花雪月
    feWindAndSnow

    手繰りよせる心「はあい、じゃあこれアンナさんからのオマケ!」

    馴染みの商人から手渡された小袋をつまみ上げ、シャミアは怪訝な顔をした。手のひらに収まるほどのサイズで、植物の種を小分けにする様な布袋だが、それにしてはやけにきめが細かく小綺麗な布が使われている。
    布には小さく赤い薔薇の刺繍がされ、贈り物として仕立てられているように見えた。袋の中から微かにする香りは甘いが、果実とも違う嗅ぎ慣れないものが混じっている。
    職業柄、僅かな時間で危険物かそうでないかを判断する。シャミアはアンナに問うた。

    「なんだ、これは」
    「アドラステアから到着したばかりのお菓子よ。今帝都では焼き菓子よりも断然人気らしいの」
    「悪いが甘いものは好かないんだ。誰か他の奴に譲ってやってくれ。食べ物に目が無い生徒となんていくらでもいるだろう」
    「ああもう違うのよシャミア、ただの甘味じゃないの。ううん、とっても美味しいのは確かよ。でもそれだけじゃないの、今帝都の女性たちはこれを手に、街に森に甘い吐息をたちこめさせているのよ」
    「なんだ、それは。毒霧の類いか?」
    「ちょっともう物騒だわ。情報通のシャミアさんにも、まだアンナさんが勝てる部分があったってわけね」

    アンナは得意げに微笑んだ。
    定期的にフォドラの行商めぐりをしているアンナは、帝都や同盟での流行り物を持ち帰っては学生たちに広めているようだった。囲われた土地で日々を過ごす若者たちにとっては、馴染み深い故郷・あるいは異国の憧れをもたらしてくれる存在であるに違いない。
    シャミアといえば、そういった世情を知るのはあくまでも隠密業務の遂行として必要であるからで、自らが楽しみ憧れる対象ではなかった。宰相の動向や貴族たちの健康状態、酒場での流言飛語は頭にしっかり入っているが、町娘たちの服装や流行歌など、すこしも知らない。

    「このお菓子はとても繊細で、暖かいところに置いておくと溶けて味が落ちてしまうの。氷や飴みたいにね。それを恋心になぞらえて、あなたが私の心を蕩かしてしまうのです…って、意中の相手にプレゼントするのが流行っているのよ」
    「それはなんとも、歌劇団のお膝元らしいな」

    流行りをまとい自分たちのものとするのはいつだって若者で、こと少女たちはその才能に長けている。かわいらしく着飾った彼女達が可憐な小袋を渡す様が、最近の帝都のあちこちで見られるのだという。

    「ロマンチックでしょう?寒さがいっちばん厳しいこの時期に温かな恋の炎…ま、日持ちしないのが欠点ね。帝国の行商人から買ったのは良いけど、今日中に売り切らないと味が落ちてしまうらしいの」
    「なるほどね、在庫一掃の手伝いというわけだ」
    「そう。寒いせいかしら…今日はあんまり生徒たちが降りてこなくって!学校に戻ったら宣伝して貰えないかしら」

    シャミアはようやく意図が飲み込め苦笑した。いつでも頭の中でそろばんを弾いているような女だ、何か裏があると思ったが。

    「分かったよ。あんたには世話になっているからな。菓子が好きそうな奴と行きあったら伝えておく」

    ******

    (贈り物、ねえ…帝都じゃ菓子ひとつにも大仰な文句を付けるんだな)

    氷や飴のように溶けてしまう、と聞くと懐にしまう気にもなれず、シャミアは小袋をむんずと掴んで歩く。
    城下町の階段を上り、釣り池へと脚を向ける。太陽が傾き始めた今頃なら、食堂には遅めの昼食を取っている生徒がいるだろう。その中に馴染みの顔がいればそいつに渡してしまえば良い。
    シャミアは教師ではない。あくまでも傭兵としてセイロス教団に肩入れしている立場のため生徒を教えることは仕事に含まれないが、稽古を付けて欲しいと頼まれれば拒むこともまたしなかった。

    (…レオニーやカスパルは何でも食うだろ、クロードは…案外大量にもらっていて飽き飽きしてるかもな)

    脳裏に浮かぶ何人かを数えつつ、池を通り過ぎて食堂へ通じる階段へ脚を掛けたところだった。

    「あっ……シャミア」

    そう此方を呼びながら温室から出てきたのはベレスだった。最近教師として士官学校に加わった人間で、シャミアもレアの命を受けて何度か実地訓練に同行したこともある。
    髪は独特の暗褐色、闇に溶ける夜霧の色。長い毛先を無造作に揺らして彼女は歩いてきた。吐く息は白い。

    「よう先生。授業か?」
    「こんにちはシャミア、今日は休日で…そうだ、これ知ってる?」

    彼女――ベレスがごそごそと服を探り差し出したのは、シャミアが持っているのとそっくりな小袋だった。こちらには青い薔薇の刺繍があり、お揃いの色をした華奢なリボンもかかっている。

    「アンナの店で配ってるやつじゃないか?最近流行っている菓子らしいな」
    「そうなんだ…今、この持ち主を探してるんだ」
    「持ち主?なんだ先生、また落とし物めぐりか」
    「そう、私の部屋の前に落ちていて」
    「あんたの部屋?」

    思わず眉を上げた。
    彼女曰く、今朝は休日だからすこし遅めに起き、外へ出たところ部屋の前にある木箱へちんまりと乗っていたという。

    「薬草かと思ったけど、中から甘い匂いがして袋の飾りも凝っているし…多分誰かへの贈り物を置き忘れてるんじゃないかって。近くの部屋の生徒に聞いたんだが心当たりがないようで、ちょっと困っていたんだ」

    困っている、と言う割にベレスは眉を下げるでも無く、淡々と状況を述べている用に見える。この数ヶ月観察した限り、努めてというよりは生来感情が顔に出ないタイプのようであった。
    だからこそ、言葉の意味を正確には測りかねた。

    「先生…自慢じゃなくそう言ってるんだな?」
    「? そうだけど………」

    シャミアのわざと含みを持たせた物言いに、ベレスは首を傾げた。手の中の小袋を見つめしばしの逡巡の後、確かめるようにひとつひとつゆっくりとした返答があった。

    「私宛て、ってことかな? …なら変だよ、誕生日はとっくに過ぎたし、第一、学級の生徒なら宛名を書くだろう」
    「いや、どうだろうな…あんたの学級とも限らない」
    「なにか知ってそうだねシャミア、相手を探したいんだ。手がかりになりそうなら何でも教えて欲しい」
    「……この菓子を渡すってのは、そいつに惚れてると伝えることになるらしい」
    「えっ」

    聞いた途端、ベレスの声がわずかに上擦った。表情を見れば信じられないと言うように目を瞬かせ、シャミアと小袋を交互に見つめている。

    「そんなに特別なお菓子なの」
    「さあな。食ったことがないが、単なる売り文句じゃないのか。だが、色恋が付くなら帝都の乙女たちが飛びつくんだろうな」
    「…さすが、シャミアは情報収集ならお手の物なんだね」
    「あんた、私を街の早耳屋かなんかと間違えてるんじゃないか。アンナだよ、あいつが商人づてに持ち込んできたんだ」
    「アンナは何でも持っているね。へえ、心を伝えるための菓子か…素敵だね」
    「意外だな、あんたこういうの好きなのか」
    「こういうの?」
    「愛だの恋だの、物語みたいなやつさ。戦いには全く邪魔だろう」
    「好き…好きなのかな……今まで自分の身の周りに無かったけど、士官学校に来たら生徒たちからそういう話を聞かせてくれて、最近気になるんだ」
    「そうなのか」

    仕事の話以外は早めに切り上げる性質だが、思わぬ言葉が出てきてつい先を促してしまった。てっきり、ベレスは他人の惚れた腫れたなど興味が無く、淡々と間を割っていくような振る舞いをすると思っていたのだ。

    「うん、仲が良ければふたりでどこかに出かけたと報告してくれたり……その反対に、身分が違いすぎるから叶わないかもしれないって、苦しい気持ちを打明けにくる子もいる。恋って…自分の思うようにはいかないんだね」

    ベレスは目を伏せた。心なしか、先ほどまでより声を落としている。
    他の教師より随分若い分、ベレスは生徒たちに師というより従姉妹のように慕われているとは思っていたが、そんなに個人の事情に踏み込んだ相談もされているとは意外だった。

    「けれど、困ったな。相手が分からないままだと、貰ったお礼も返事もできない」
    「心当たりは無いのか。男女関係なく、随分と好かれているじゃないか」
    「そう、見えるんだね…自分ではあまり実感が無いけど」

    なんら不思議なことでは無いだろうに、シャミアは心の内で呟く。
    彼女は一見何を考えているのか分からないような木訥とした雰囲気で、はじめは自分と同じく、単独行動向きのいち傭兵なのだと思っていた。
    ところが、シャミアが同行した戦闘ではそうした印象とうってかわって、訓練では生徒の能力を測りながら的確な指示を出す一方、盗賊討伐など実地では危険が生徒の身に及ばないよう第一線へ切り込んでいく。
    強く、聡く、生徒を手厚く守りながら戦局を動かしていく。優れた戦士かつ軍師という噂は他の学級にも広まっているだろう。

    「自覚が無いのか?食堂で、よく生徒に囲まれて何か教えてたりするじゃないか」
    「あれは訓練で試した兵法を聞かれて…よく見てるね、シャミア」
    「……食事を取りに行ったときに偶然な」

    (…私とは違った生き方だな)
    活発な議論を生徒たちと交わす姿を遠巻きに見たとき、そうちらっと思ったことが蘇る。若い生徒から慕われ、そのうちの幾人からか憧れの混じった思いを抱くのも何ら珍しいことでは無いのかもしれない。

    初めは自分と同じ、森や夜闇の中で仕事をこなすヤツかと思っていたのに、日なたで生徒に囲まれる姿が随分と似合っている。

    「帝都じゃ、女から男へ渡すようだがな。あんたはそこらの男よりずっと戦果を上げている。食えるなら貰っておくに越したこと無いだろう」
    「私ひとりの戦果じゃないよ。生徒たちが成長してくれているおかげだし…シャミアは、一人で何でもこなせて、すごいよ」
    「群れて戦うのが向いてないだけだ。あんたと違って」

    食事を終えたのか、ぱたぱたと生徒が階段を降りて二人の後ろを通り過ぎていった。気づけば長く立ち話を続けている。身体も冷えてきた。
    ベレスは生徒の姿を目で追い、改めて小袋を持ち上げてしげしげと見る。この様子だと、本当に贈り主を確かめるまで大聖堂じゅうを探し回るような気がしてしまう。
    シャミアは話を戻すために口を開いた。

    「…その贈り主さ、わざわざあんたに見つからないよう置いていったんだ、はなから身分を明かすつもりが無いんだろう。隠したままで本人が満足なら、ただ受けとっておいたらどうだ」
    「そう……名前が分からなくても、贈り物に気持ちが詰まってるってことだね」
    「あんまり握るなよ、それ、飴みたいに溶けるらしいぞ。自分の心を溶かしてしまう相手へ、渡すものらしいからな」
    「それも、アンナの受け売り?」
    「当然だ。私からそんな歌物語みたいな文句出るはずないだろ」
    「そうかな。素敵な言い方じゃない」

    ベレスの目元がふと緩んだ、様に見えた。口角がわずかに上がり、冗談に笑んだのだと、一呼吸遅れて気がついた。

    (笑うんだな、こいつ)

    その意外性に、僅かながら心を動かされた。手に残る、刺繍の入った袋の感触を確かめる。

    「じゃあ、これも一緒にしてくれ」

    小袋を前へ放った。ベレスはこともなげに胸の前でキャッチして、袋とシャミアを見比べる。

    「やる。私もアンナからもらったんだが、食わないからな」
    「えっ、アンナから告白されたの?」
    「ばか、売れ残りを押しつけられたんだよ」
    「…誰かにあげないの?」
    「宛てがないからな、だから先生にやるよ」

    食事の足しにとシャミアが生徒に渡したら、これはただの食べ物だ。だが、生徒に対面するかのように、主が不明の贈り物にまで真面目に接するベレスなら、嬉しそうに食べてくれるだろうし、きっとその方がこの菓子も報われる。
    そう思ったが、理由として口に出さなかった。自分らしくない、菓子に心を砕くなんて。

    ベレスはしかし、すぐには頷かなかった。此方へ近寄ると手を取られる。反射で身体に力が入ったシャミアは、何をすると言うつもりでベレスの顔を見上げた。
    宝石のような蒼い瞳が此方を見据えている。見慣れた真顔だが、戦闘の時とまた違う、血の通った顔に見えるのは、先ほどの表情の変化を知ったからだろうか。

    「…私にくれたってことにしていいかな」
    「余り物だって言っただろ、特に深い意味は無いさ」
    「余りだから貰うんじゃ、なんだか菓子が可哀想だよ。シャミア、ねえ、いい?」

    もとよりそんな考えで渡したつもりだったのだが、なにか、シャミアが考えているより真剣に捉えている節がある。
    手袋越しにベレスの手のひらがあり、指先を包まれている。コイツにも体温があるんだなと、当然のことを今更認識する。

    「……それは、なにか違いがあるのか、先生」
    「全然違う。だって、想いを伝える菓子なんでしょう。…シャミアから貰えるなんて、特別だから」

    たかが菓子じゃないかとすげなく躱すか、あるいは、私で口説き文句の練習か、とでも冗談を返せただろうに。
    二の句が継げなかったのは、柄にも無く心の内で狼狽えてしまったからだろうか。こいつの言葉は計算が含まれているのか、全く分からない。
    しばし間が空いた。シャミアの無言をどう捉えたのか、ベレスが瞬きをひとつして続けた。

    「あの、滅多に無いって意味だよ。あなたが贈り物している姿なんて見ないから」
    「あ、ああ…分かってるよ、他人に礼なんて金以外でしないからな」
    「ふふ、シャミアらしいね」
    「……とにかく、好きに受けとってくれよ。あと、利き手を触るのは非常時以外勘弁してくれ」
    「あ、すまない」

    やんわりと腕を引きベレスの手を離させた。指先に体温が残っている気がするのは、恋物語にあてられたせいか。いや、長く外に居て身体が冷えたせいだ。
    ベレスは満足げに頷くと、シャミアの渡した方の袋を開けた。手を入れ取り出したのは、黒っぽいコインのような形をした菓子だった。クッキーより艶やかで、冬の鈍い陽光を受けて柔らかく光っている。香ばしいような甘い香りが鼻をくすぐる。立ち上る白い息と対照的な姿に、ベレスが目を見張る。

    「綺麗だね。そういえばこのお菓子、なんていう名前なのかな」
    「ああ……そういえば聞きそびれたな。最近作られたものらしいが」
    「よかったらシャミアも味見しない?」
    「私が食べたら意味が無いだろう、あんたにやったんだよ」
    「ひとつくらいならいいじゃない。ちょうどテフ茶を買って、香り高いうちに早く飲んでしまおうと思っていたんだ。付き合ってよ」
    「…まあいいか。元から食堂でスープでももらおうと思ってたところだ、温かい茶くらい飲まなきゃ割に合わないさ」
    「シャミアの手、冷えてたよ」
    「誰かさんが贈り物を自慢してくれたせいだろ」

    ベレスは元来た道へ踵を返すと自室へと向かいはじめた。シャミアも苦笑しながらその横へ付いていく。
    冷え冷えとした曇天の中、ガルグマクの岩肌には未だ緑は見えない。その中でも、人々に贈られた刺繍の花が一番に春を手繰り寄せるのだろう。


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    なかりせ

    DONE一人一人称、K富の人間が書きましたが恋愛描写なし、診療所メンツとほのぼのが主です。
    ちょっと怪談チックなお話が書きたくてタグをお借りします。季節外れですが夏のお話です。恐怖・暴力描写はありません。
    一人先生は幽霊や魂をどのように切り分けて接することができるのだろう……。引っ張られそうになった時に踏みとどまれるのは、帰る場所・呼ぶ人がいるからってことが書きたかった。
    炎と息吹―200X年 8月XX日 
    とても暑い日だった。オレはたまたま行きあった患者を治療し、病院から帰るところだった。

    ***

    「では、また後日伺いますので」

    一人は一礼して病室を出る。踏みしめるリノリウムの床はひんやりとした空気を抱えており、外のじりじりとした熱射もここまでは届かない。夏の長い日がようやく傾きだし、まだ暑さが残っているだろうビル街を歩くと思うと憂鬱であったが、目の前で倒れた急病人を助けられたことで一人の心は風が通り抜けるようにすっきりとしていた。

    N県からふたつほど県境を越えたところにあるこの都市に来たのは、以前手当をした患者の経過を見るためであった。その用事を終えたときはまだ昼前であったが、帰路に着こうと大通りに出たところで急病人に行きあったのだった。
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