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    なかりせ

    パラライ/スパドクKシリーズ/そのほかいろいろ置き場

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    なかりせ

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    一人一人称、K富の人間が書きましたが恋愛描写なし、診療所メンツとほのぼのが主です。
    ちょっと怪談チックなお話が書きたくてタグをお借りします。季節外れですが夏のお話です。恐怖・暴力描写はありません。
    一人先生は幽霊や魂をどのように切り分けて接することができるのだろう……。引っ張られそうになった時に踏みとどまれるのは、帰る場所・呼ぶ人がいるからってことが書きたかった。

    #小説
    novel
    #K富怪異ワンウィークドロライ
    #K2
    #K富

    炎と息吹―200X年 8月XX日 
    とても暑い日だった。オレはたまたま行きあった患者を治療し、病院から帰るところだった。

    ***

    「では、また後日伺いますので」

    一人は一礼して病室を出る。踏みしめるリノリウムの床はひんやりとした空気を抱えており、外のじりじりとした熱射もここまでは届かない。夏の長い日がようやく傾きだし、まだ暑さが残っているだろうビル街を歩くと思うと憂鬱であったが、目の前で倒れた急病人を助けられたことで一人の心は風が通り抜けるようにすっきりとしていた。

    N県からふたつほど県境を越えたところにあるこの都市に来たのは、以前手当をした患者の経過を見るためであった。その用事を終えたときはまだ昼前であったが、帰路に着こうと大通りに出たところで急病人に行きあったのだった。
    近くの通行人から悲鳴が上がったのに気づいた一人は反射的に駆けだした。信号待ちの間に女性が倒れ込んだようで、横たわらせて応急処置と状態の確認を行い、単なる熱中症ではなく臓器に何らかの疾患があると判断し、すぐさま近場の病院へ搬送を依頼した。彼も同行し、検査で確かめた上で主導して緊急手術を行った…という経緯を担当医には話したところであった。

    手術自体は複雑な処置はなく3時間程度で済んだが、そのまま放置しては命にも関わる病状であった。症例を当たれば疾患の進行が早いタイプで、1ヶ月でも遅れていれば他の臓器にも影響が出ているかもしれなく、「まさに幸運に行きあったと伝えておきましょう」と担当医師が一人へ握手を求めるのも頷けることだったのだ。

    普段からこの疾患について勉強している医師であれば、一人以外でも同様の処置は出来ただろう。だが、たまたま一人の前で女性は倒れ、たまたま病院へと速やかに搬送できた。目の前で救える命とその手段があるのなら、この手を伸ばすことは何ら厭わない。

    (患者が、今日中に誰かと連絡がつけば言うこともないのだが)

    手術前に家族と連絡が取れないか、スタッフに連絡先が分かる手荷物の確認を依頼していたが、身分証で分かる本人の名前と住所以外は血縁者などの確認が取れなかった。
    唯一それらしいと差し出された手帳の折り返しには、あどけない顔で笑う少女の写真が挟まれていた。歳は小学校高学年くらいだろうか。娘か妹か、いずれにしろ大事な身内であることは想像がつく。

    写真に重なるように、一人の脳裏にも同じ年頃の少年の顔が浮かんだ。聡く熱意をもって医学の技術を学んでいる一也のきらきらした瞳、そしてその姿を見守り、時に兄代わりとして手助けをしてくれる青年の、丁寧な手技。富永は、一人にとって同じ診療所の同僚、それ以上の信頼を寄せるに値する男だ。朝ふたりは診療所の外までわざわざ出て「暑いから気をつけて」と一人を送り出してくれた。

    予定より遅くなってしまったが、土産を買う時間くらいはあるだろうか。そんなことを考えながら出口へ急ぐべく病院のエントランスを横切る。
    とそこへ、

    「待って、先生」

    子どもの声で引き留められ、一人は振り返った。
    150cmほどの、Tシャツにジーンズ姿の少女が、こちらを真っ直ぐ見ていた。ピンク色のショルダーバッグを肩掛けにしストラップをギュッと両手で握っている。患者が持っていた手帳の写真と、目の前の子どもの顔が重なる。少々緊張した面持ちで、少女は続けた。

    「先生でしょう、私のお母さん手術したの」
    「……さっき救急車で運ばれてきた女性かな」

    少女は頷く。高い位置で結われたポニーテールが遅れてぴょこんと揺れた。一人は膝を屈め目線を合わせると、大人にするようにゆっくりと病状説明を始めた。

    「君のお母さんは歩道で倒れてね。すぐ近くに居た私が応急手当をしたんだが、内臓にある病状が出ていて、すぐに摘出…取り除いた方が良いことに気づいたんだ。それでこの病院に運んで、さっき手術をしたんだよ」
    「お母さん……生きてる?」
    「生きてるよ。まだ眠っているけれど、しばらくしたら目が覚める。経過が良ければ数日中には退院できるはずだよ」
    「……そう」
    「君は、ひとりで病院に来たのかな。他に大人の人は?」

    少女は答えず、ストラップを握る手をますます強めた。無理もない、母親に命の危機が迫り緊急手術をしたのだ。平静に会話を出来る子どもなどそうそういないだろう。手術中に連絡がつき、いてもたってもいられず1人で駆けだしてきたのかもしれない。
    (だとすれば病状説明のためにスタッフから共有があるはずだが…)

    「……後ろの廊下を歩いて行くと、お母さんが寝ている病室があるよ。看護師さんに聞いても良いし、私が案内しても、」
    「いい、です。ひとりで、行けるから」
    「そうか」
    「あの……これ。お母さんを助けてくれたから」

    少女はバッグをまさぐると瓶を取り出し一人へ差し出した。薄水色で、途中が細くくびれている。昔ながらのラムネ瓶だ。
    一人は患者からの心付けは丁重に断っている。村人からの畑で取れた作物のお裾分けならまだしも、元々付き合いのない患者となれば、それが診察や手術の善し悪しに関わったと思われてはならないからだ。誰しも平等に、そのとき最善とされた医療を受ける権利は守られなければならない。
    だが少女が少ない小遣いで買っただろう飲み物にまで、そのルールを課して撥ねのけることは一人には出来なかった。ここで精一杯のお礼を受けとって、何の不利益となるだろうか。

    「ありがとう。私は別の病院の者で、もう戻らなくてはならないから帰ってからいただくよ」

    一人が受けとるとそれは今し方冷蔵庫から取り出したかのようにキンと冷えていた。施設内の売店で買ったのだろうか。
    受けとると少女はホッとしたように息をつき、空いた手のひらをヒラヒラと振った。ぎこちなく笑った表情はやはり、写真の顔とそっくりだった。

    一人もつられて手を振る。マントを翻し出口へ歩いて行くさなか、少女の声が背中へ投げかけられていた。

    「帰りに飲んでね。とっても冷たくて、おいしいから」

    ******

    一人は帰路を辿っていた。両脇を中低層のビルが立ち並ぶ路地を歩きながら、額を流れる汗を拭う。じっとりとした暑さが身体にまとわりつき、マントはとうに脱いで脇へ抱えている。

    おかしい。と口に出さず思う。

    大通りから病院まで、救急車に同乗した際は10分程度のはずだった。時間だけでなく、感覚として何回角を曲がったかまで記憶していたため、道を大きく外れているとは考えにくい。自分の脚であればもうとっくに駅へ着いているはずだ。
    だがどうだろう、その倍の時間を歩いているはずが一向に駅が見えてこない。駅どころか、元の大通りにまで戻れないのだ。

    更に奇妙なのは、病院を出てからこれまで誰ともすれ違わなかったことだ。住んでいる村であれば、林の中をくぐっていく中で一人きりというのはなんら不思議なことではないが、ここは地域を代表する都市だ。暑さのせいで誰も出てこないのかもしれないが、バイクやトラックが自分を追い越していくことすらないのは、日中として不自然だ。

    頭の中で疑問符をいくつも浮かべながら、しかし一人は脚を前に進めていた。進んでいけばいつか辿り着くといった毅然とした方針で動いているのではなく、勝手に腿が動くような、不思議な感覚が身体を操っているようだ。身体は消耗していく上に頭は重く、風景や手に持ったマントの重さを、一枚カーテンが掛けられたような曖昧な感覚でしか捉えることが出来ない。それでも、一人は冷静に今の自分の状況を分析しようと試みていた。

    (暑さのせいで脱水が起きている……そのせいで意識が不安定になっているんだ…日陰か、自販機でもあればそこで休めるのだが……)

    意志とは関係なく動く身体に、まとまらない思考。真上から刺さるような日光が、体力も意識もじりじりと奪っていく。
    とにかく、水分が欲しい。半日で終わる用事だと思っていたため水筒も持ち歩いていないことが失敗だった。ほんの少しでも構わない、何か、冷たい飲み物を。

    『――とっても冷たくて、おいしいから』

    少女の声が不意に一人の耳に蘇った。鈴を転がすようなあどけない声に引っ張られるように、白衣の内にしまったガラス瓶を思い出す。そうだ、あれを飲めばいい。
    取り出してみれば、ラムネはひんやりと冷えており、手のひらの熱を奪う。まるで今冷蔵庫から取り出したかのように。しゅわしゅわと気泡が立ち、表面には滴が伝っている。
    一人の視線は瓶に釘付けになった。気泡が弾ける音の他には何も聞こえず、清涼感を感じさせる薄水色のガラスが、此方の姿を鈍く反射している。
    乾いてひりついた喉に、冷たく甘い液体が通り過ぎる瞬間を夢想する。身体に沁みわたり、どれだけ心地良いだろうか。初めからこうしていればよかったのだ。これさえ飲めば、おれは、

    数十分炎天下で持ち歩いていたはずなのになぜキンと冷えているのか、そのときの一人は疑問に思わなかった。疑うよりも強く、目の前の水分を求める欲求の方が身体を支配していた。それすらも、自らの意志ではない何かが一人を唆しているかのようで、しかしそれが心地良かったのだ。

    蓋を捻り、入り口をふさいでいたガラス玉を押し込む。炭酸が吹き出す音を聞きながら、一人は瓶を持ち上げ口を付けようとした。
    欲求に突き動かされ操られるように動く一人は、しかし、すんでの所で動きを止めた。

    何かが、誰かが、自分を呼んでいる。

    首の後ろを撫でるように、風が通り過ぎていく感覚があった。植物の青い香りが鼻につく。冴え冴えとした薫風は、故郷の村を吹き渡るそれと同じだ。風は一人の身体に纏わり付く熱気を削ぎ落とし、ほんの少し彼の思考に冷静さが戻ってきたような気がした。

    ――K!早く帰ってきてくださいね!

    その途端、霞がかった思考を晴らすような、通り良い声が呼び起こされた。
    ああ、と声を漏らす。富永の声だ。目を閉じて、その朗らかな顔を思い出す。

    「Kぇ、帰ったらスイカですよ!」
    「今日薬を渡しに行くおうちがね、一也くんもいるからって準備してくれてるんですよ、スイカ!冷やしておきますから夕飯のあといただきましょう」
    「僕じゃ抱えられないほど大きいんですって。そんなの見たことないから楽しみだなあ」

    今日の行きがけに、診療所の玄関で交わした短い会話が蘇る。ほんの数時間前のことなのに随分と遠い記憶のように思えた。無邪気に顔を綻ばせる一也の頭にぽんと手を置く富永は、一人を見上げて、今度は少し唇を引き結んで言った。

    「だから、気をつけて。帰ってきてくださいね」

    心配ない、すぐに済む用事だからと、一人が答えたとき、確か風が通り抜けたのだ。早朝の薄明るい風景の中、木々が心地よさそうに揺れていた。同じ日だというのに、あれほど清涼な風が吹いていたのだ。
    ざわざわと揺れていた草木の香りを思い起こす度、身体と頭にこもった熱気がゆっくりと振りはらわれていく。シャワーを浴びて汗を流していくかのように、自分に付いた良くないものを落としていくかのように。

    (帰ろう)

    ゆっくりと開けた瞳には、いつもの冷静な光が宿っていた。草薫る風が吹く、あの場所へ帰らなければ。だんだんと思考がクリアになっていくのを感じて、ようやく一人は自分自身が身体に還ってきたような気がしてきた。

    ラムネの冷たさのおかげで気持ちが切り替わった。そう思い一人はようやく飲もうと握っていた瓶を持ち上げ、驚愕した。
    先ほどまで持っていたはずの薄水色のガラス瓶は影も形もなく、握り込んだ手の中にはざりざりとした砂のような感触があった。おそるおそる手を開くと、そこにあったのは煤けたガラスの破片だった。熱を持ち、真っ黒に灼けたようなその破片の山は、どう見ても今までそこにあったものではない。

    息を呑んで手のひらを見詰める一人の耳に、何か聞こえてきた。人など周りにはいないはずなのに、まるで耳元で囁かれているような距離から、低く恨めしい声が、こう言った。

    「どうして……飲んでくれないの……いっしょに来てほしかったのに、おかあさんのかわりに、どうして……」


    *********



    「…そこでまた風が吹いてな、手の中の破片は吹き飛んでなくなってしまった。
    「……それで?」
    「すると体調も格段に良くなって、帰ることが出来た」
    「……つまり?」
    「オレは飲み物どころか食品ですらないものを、ラムネだと思い込んで持ち歩いていたんだな」
    「………最後の声は?」
    「それは分からんが……後になって手術した女性に経過を聞きに行ってな。
     彼女によると手帳の写真は確かに娘さんだったが、1年前に火事で亡くなっていたんだそうだ。だからあの日、オレが会った子が娘さんだとするとおかしい事になる」
    「…っひええ……なァんスかそれは……ガチで怪談じゃないッスかぁ~~!!!」
    「そう言ったはずだが」

    診療所の食堂で、龍太郎は自分の身体を強く抱きしめると情けない声を上げた。その向かいに座る一人は涼しい顔をして麦茶がなみなみと入ったコップを手に取ると大きく呷る。

    「なんでそんなガチなやつ話しちゃうんスかK先生は!実体験ってところがめっちゃ恐い!!」
    「高品先生でしょうが、『夏だしなんか怪談しましょうよ~』って言い出したの」

    青い顔をぶんぶんと振る龍太郎を、その右隣に座っている麻上は呆れた表情で見ながら煎餅をかじっている。夕食後の雑談の時間に、ヒマだからと話を振ったのは確かに龍太郎であり、真っ先に一人へ求めたのも龍太郎だった。まさか、これほどまでに怖がるとは。

    「確かに言いましたけどぉ!せっかく自然豊かな村だから、木の陰が妖怪に見えた~とか誰もいないのに診療所の電気が付いてた~とか、そういう噂話系のを予想してたんスよ……」
    「初めに話すには少々問題があっただろうか」
    「先生気にしないでくださいよ。私も前の勤務先でちょっと聞いたことあるし」
    「えっ嘘、麻上さんも?!」
    「K先生ほどじゃないけど、もう亡くなったはずの患者さんと病棟ですれ違ったとか、病室の電気を消しても必ず木曜日の夜には付くとか」
    「ひえ……」
    「幽霊だとしたって業務に差し障るだけ~って看護師長なんかはスルーしてたけど、でも、恐いとは別に気になりますよねそういう、人の残り香って言うか」

    言いながら麻上は、テーブルの中央に置かれたスイカの一片を手に取った。丁寧に種を爪楊枝で取りながら続ける。

    「その後の帰り道は問題なかったんですか?」
    「ああ、角を曲がったら元の通りに出てな。30分もしないうちに帰りの電車に乗れた」
    「不思議ですねえ、ラムネのこともそうですけど、帰り道が分からなくなるなんて先生らしくない」
    「熱中症のせいだと思うんだがな」

    何気なく返しながらも、しかしそれだけではないだろうと一人は心の内で呟いていた。そのときは疑問に思わなかったが、あの時の太陽は真上に位置していた。手術を終え、担当医と引き継ぎをしたときには既に16時を回っていたにも関わらず、だ。日が暮れるにはまだ時間があったはずだが、少なくとも西日でなくてはおかしい。
    後日、手術した女性を見舞った際に、今度は徒歩で駅から病院まで歩いたが迷いもせずあっさりと辿り着くことが出来た。つまり、何かしらの原因があって、道のりも時間も歪められていたのだと考えられる。
    それが一人の体調不良による精神状態によるのか、それとも……

    「うう、こええ~、もしラムネ飲んでたらどうなってたんスかね」
    「それは分からんな、現にオレは飲まずに帰ってきていることだし、まずあのやりとりからして実際にあったか、自分自身ですら怪しい」
    「でもでもぉ、もしラムネ?を渡したのが娘さんだったとしたら、きっとなんか意図があって先生に話しかけてきたんスよね? うーん……」

    血色が戻ってきた龍太郎は、身体を抱くのをやめたかと思えば今度は腕組みをして考えこんでいる。イシさんが切ったスイカに手を付けずとは、食欲旺盛な彼にとっては随分と珍しいことだ。

    代わりに一人は自分の分にかじりつく。ほてった身体を冷ましてくれる果実の味に、ふと当時の記憶を重ねた。

    村に帰り着く頃にはもう夜が更けていた。夕食に間に合わなかったな、と診療所へ続く小道を歩きながら考えていたのだが、食堂では富永も一也も帰りを待っていてくれたのだった。本当に一也が抱えられないほどの大きなスイカを見せられて、何日も食べ続けたことを思い出す。
    若い記憶だ。青く、瑞々しく、あの頃の身体に沁みわたった、確かな幸福だった。幼い一也に知識を与え、富永と共に研鑽を積んだ時間が、形を変えても今も自分を満たしている。
    ぱっと龍太郎が顔を上げた。一人と目が合うと、診療の際、自信が無いときにするように眉根を寄せ、もごもごと口元を動かしてから彼は呟いた。

    「……会いたかったんじゃないスかね」
    「何?」
    「娘さんはもう亡くなってたんですよね?それでお母さんも急病で命が危なかったと。そしたら…会えるって思っちゃったのかも」
    「ええ?それってお母さんを連れて行っちゃうって事ですか?」
    「それは幽霊っぽさありますけど…わかんないッスけど、それをK先生が邪魔したって思ったんじゃないスか……?」
    「やつあたりっぽいなあ。先生はたまたま手当てしただけなのに」
    「うーん…それに、ラムネくれたのが不思議ッスよねぇ…」

    龍太郎は首を捻りながら麻上と会話を続けている。
    一人は何も口出ししなかった。死者と語ることは出来ない。そして生きている人間を助けない理由はない。それだけを信条に、これまでもこれからも医師として進んでいくと決めているからだ。だが、想像できる龍太郎も、医者としてまた間違いではないと思いたい。

    「じゃあ次は私が話してもいいですか?総合病院の集中治療室に勤めてる友達から聞いた話なんですけど…」
    「うわあまたガチっぽいじゃないすか!寝られなくなりますよオレぇ!」

    身を乗り出して語り始めた麻上に、龍太郎は再び顔を青ざめさせた。診療所の今年の夏も、また賑やかに過ぎていくのだろう。
    一人は口元を緩めながら、窓の外、林を吹き渡っていく夜風に思いを馳せた。


    END
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    DONE一人一人称、K富の人間が書きましたが恋愛描写なし、診療所メンツとほのぼのが主です。
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    一人先生は幽霊や魂をどのように切り分けて接することができるのだろう……。引っ張られそうになった時に踏みとどまれるのは、帰る場所・呼ぶ人がいるからってことが書きたかった。
    炎と息吹―200X年 8月XX日 
    とても暑い日だった。オレはたまたま行きあった患者を治療し、病院から帰るところだった。

    ***

    「では、また後日伺いますので」

    一人は一礼して病室を出る。踏みしめるリノリウムの床はひんやりとした空気を抱えており、外のじりじりとした熱射もここまでは届かない。夏の長い日がようやく傾きだし、まだ暑さが残っているだろうビル街を歩くと思うと憂鬱であったが、目の前で倒れた急病人を助けられたことで一人の心は風が通り抜けるようにすっきりとしていた。

    N県からふたつほど県境を越えたところにあるこの都市に来たのは、以前手当をした患者の経過を見るためであった。その用事を終えたときはまだ昼前であったが、帰路に着こうと大通りに出たところで急病人に行きあったのだった。
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