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    ゆゆゆ

    @scrmyum

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    ゆゆゆ

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    最終話後の鶴月。モブが沢山喋ります。

    きっと骨の髄まで甘い町の和菓子屋のお嬢さん曰く。

    月に一度、必ず甘物を買いに来る爺さんがいるらしい。一人分の団子や大福、おはぎ、落雁なんでも種類は問わず、ただ毎月こんにちはと訪れては少し悩んで、これをひとつとだけ告げて注文するそうだ。
    何度も来るもんだから、一度お嬢さんが甘い物がお好きなのですねと話しかけてみたら、その爺さんええとてもと言うのに顔はちっとも好きそうでなくて、でも大切に菓子を抱えて帰る姿が寂しくて不思議だったんだと言っていた。
    砂糖がなかなか手に入らなくなって、店を締めていた時も店先に現れるというんだからもう執念だね。うちの母ちゃんだってそこまでじゃ無いよ。
    ん?どんな男か?老いぼれじゃあない。身丈は高くないがシャンとした…昔の戦争帰りの爺さんかもしれんな。ただ俺が見かけた事が無いんだから、この町の人間でもない。隣の山ばっかの村から来てんのかねえ。

    旦那、なんだいそんな顔して。アンタも甘いもんが食べたくなったのか?


    「ああ、是非。その和菓子屋まで案内してもらえるかな?」

    ----------


    甘い物はさほど好きと言う訳では無かった。幼い頃は口にする機会が無かったし、若い頃も積極的に手を出す事は無かった。
    あの人の後ろをついて回るようになった頃に、ようやく甘い物の味をしっかりと味わい、甘さにも違いがある事を知った。そして使いを頼まれた時に喜んでもらいたくて彼の好みを必死に覚えた。

    生活ががらりと変わり、がむしゃらに働く日々にもいつしか慣れ、少し落ち着いた頃にふと強烈な甘味が恋しくなった。思い出すのは舌の上に広がる脳を揺さぶるような甘い味。
    たまらずふらっと町に買いに出て、帰ってきてから手元に4つの大福がある事に気がついた。
    来客があれば客に1つか2つ出しあの人が1つ、その後にあの人と俺で1つか半分ずつを分ける。誰も来なければ半分ずつ、それでも余れば誰かにが習慣だった。
    ひとりの間食の数ではないし、昔を思い出してしまってはすぐに食べる気持ちにもなれなかった。
    これは所謂供え物になるのだろうか。普通ならば仏壇に供えるのが正しいのだろう。仏壇はおろか遺影に位牌と線香の用意もここには無いが、それでもあの人を想えば弔いになるだろうか。供養は去った人の為であるが、残された人の為でもあるのだと教えて貰ったのはいつだったか。いつか忘れる為の準備だと。
    誰も答えてはくれるはずもなく、買ってきた大福をそのままにしておく訳にもいかず、心の中でどうぞと唱えてから無理をして腹に納めたのが最初だった。
    一年も続ければ次第に惰性になってしまったように思う。それでも月に一度は甘味を買わずには、食べずにはいられなかった。
    あの人への想いを昇華させるはずだったのに、口にする度に共に食べた甘い味と苦い記憶が蘇り、記憶が強固になっていく。そう思ってもやめられなかった。

    退役後、老いた身体で縁もゆかりも無い土地に住むようになってからもそれは続いた。
    毎月徒歩で隣町の和菓子屋まで行き、ひとつ買って蜻蛉返りする。近所にも甘味を置いている店があるにはあるが肥えてしまった舌には物足りなかった。

    気に入りの店は注文してしまうととても静かだ。以前気を遣って店の人が話し掛けてくれたが上手く返せず、それからは必要最低限の会話だけになってしまった。それでも毎度快く迎えてくれ、送り出してくれるいい店で気に入っていた。

    「こんにちは、」
    「いらっしゃいませ」

    いつもの声で迎えられる。今日はどんな品揃えだろうかと暖簾をくぐり、一歩踏み出した所ですぐ後ろに人の気配を感じて横に避ける。繁盛して何よりだと振り返ると後ろの男が暖簾をくぐった所だった。

    「御免ください」
    「いらっしゃいませ、あら。初めましてのお客様ですね」

    良く知った静かな店が急に騒がしく感じる。嗄れても聞き覚えのある声。秋も終わりなのに額に汗が滲む程、心臓が煩い。

    「ええ、こちらの菓子がとても美味しいと紹介してもらいまして」
    「まあ嬉しいですわ。最近ようやっと良い砂糖が入るようになったので全部お勧めですよ。今日はもう種類がないのだけど、お好みの品はございますか?」

    ああ、俺この男の好みを良く知っている。脳を揺さぶるあの強烈な甘味。この和菓子屋が炊く餡子はきっと好みだろう。
    菓子を眺める目線がこちらを向いて射抜いた。

    「お勧めは?」
    「、…」

    自分を慰める為に食っていた甘味は正しい弔いの方法では無かったけれど、確かに今日までを生きる救いではあった。いつも選択を間違っていた俺は、最後まで間違いを選ぶのだろう。

    「すべてを」





    あそこの和菓子屋の常連爺さん最近見掛けなくなったんだってよ。いや、隣村の奴の話だと家は間抜けの殻だったらしい。甘味巡りの旅にでも出たのかね。


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    正しく役目を全うし退役後一人で暮らしている時も、鶴の月命日に甘い物を買っては自分で食べていた月と
    月の顔を見に向かう途中の町で面白い情報を聞いた鶴。
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