終着点はまだ先和菓子屋を二人で後にして、未だに月島は混乱していた。前を歩く男の後姿には現実味が無く、白昼夢や幻なのではないかと思ってしまう。ふいに道のへこみに足を取られ態勢を崩しそうになると、体を支えるように腕を掴まれた。
「大丈夫か、月島」
腕に柔く食い込む掌の硬さと確かな体温を身を持って感じた途端、小樽の海で死んだはずの鶴見と目の前の男の存在が結び付いてしまった。心配そうに覗き込んで来た鶴見の顔をジイっと見つめ、あの頃から皺は増えていたが帽子の下に見える印象的な額の傷と瞳はそのままであった。あの鶴見篤四郎で間違いないのだと確認するなり月島は殴り掛かった。振りかぶった右手にしっかりと肉と骨の手応えを感じ、目の前に踞る男が亡霊や幻覚の類では無いと漸く納得した。
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