キャラメルリボンの麦わら帽子(前編) ベッドの下の、化粧箱。
後ろ目を配り、誰にも見られていないことを改めて確認して、そぅ、と蓋を上げる。
見る度に、幾度も恋を自覚した。少し日焼けた、麦わら帽子は包装紙に包まれて、キタカミの照りを覚えている。このリボンは、スグリが居なくなった朝を知っている。彼を遠くに慕いながら、彼がいなくなったキタカミを駆け回った、あの明るくて、さびしさを、この麦わらは全部知っている。
だから、閉じ込めた。誰にもバレないように、奪われないように。
自己嫌悪の隣にある、手のひらにずっといてほしい、歪な形の宝物。僕にとっての恋は、スグリへの思慕は、ずっとそうだった。誰も受け付けたくない、秘密の部屋。
「おーい、そろそろ出発すんべ?」
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