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    seekfreezestar

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    成人済み同居片想いハルスグがキタカミに帰省する話


    前編後編まとめる時に改訂の予定

    #ハルスグ
    #pkmn腐
    Pokémon Red

    キャラメルリボンの麦わら帽子(前編) ベッドの下の、化粧箱。
     後ろ目を配り、誰にも見られていないことを改めて確認して、そぅ、と蓋を上げる。
     見る度に、幾度も恋を自覚した。少し日焼けた、麦わら帽子は包装紙に包まれて、キタカミの照りを覚えている。このリボンは、スグリが居なくなった朝を知っている。彼を遠くに慕いながら、彼がいなくなったキタカミを駆け回った、あの明るくて、さびしさを、この麦わらは全部知っている。
     だから、閉じ込めた。誰にもバレないように、奪われないように。
     自己嫌悪の隣にある、手のひらにずっといてほしい、歪な形の宝物。僕にとっての恋は、スグリへの思慕は、ずっとそうだった。誰も受け付けたくない、秘密の部屋。

    「おーい、そろそろ出発すんべ?」
    「ごめん、今行く」
     階下からの声にさっと箱を閉めて、丁寧にリボンを結びなおす。ベッドの下の定位置に置いて、あとは周りの荷物を片っ端から抱えて階段を降りる。
    「おまたせー!」
    「にへへ、今回も荷沢山だな」
    「んふふ、今回は特別使用。ジェンガ入れてみた。遭難したら燃やそーね!」
    「野焼きは法律でだめって決まってっからな?」
     玄関でつま先を合わせる、この時間のドキドキは、結構好き。一緒に住んでるのに、待ち合わせしているみたいだ。スグリはいつものウエストポーチに無地のキャリーバッグ一個。僕が靴を履くと、大の男二人にマンションのここはぎゅうぎゅうになる。ガスの確認、戸締りの確認を2人で指差し確認し、スグリのインプレッサに荷物と自分たちを詰め込んだ。助手席も気に入っている。ここからだとスグリの喉仏がよく見えるのと、僕の車の運転は壊滅的なもので、飲み物を調達だとか、出先の情報調べるとかは僕の出番になり、なんだかとってもニコイチ感がするのだ。仕事だと基本逆だから、なんだかバランスが整う気がする。
    「楽しみだね、空港でなに食べよっか」
    「んだば、軽いものがいいな。はっきり言うねーちゃんが居ねぇから、ばーちゃん多分容赦ねぇよ」
    「実質3日分ぐらいだもんねご飯……」
     シートベルトを深く刺すと、金属部分が夏を吸って暖かかった。スグリがすぐさま窓を数cm開けて、風が車内をはしゃぐ。
     久々のキタカミ旅行。しかもスグリの家のお泊り。楽しみで仕方がない。
     大丈夫。恋心はベッドの下に仕舞ってきた。心臓の軋む音を追いやるように、いつもの呪文を心に唱える。
     みないふりをしていれば、きっと、持ってても許される。
     
    「夏だなー僕、夏が一番好き」
     君と出会った季節だ。
     快晴の青が、果てしなく広がっている。
     

     レンタカーの独特な匂いに、ラジオの独特な陽気な声と混じって、黄昏は甘い匂いを発し始める。横に微かに零れる寝息に合わせて、ほのかに冷房を弱めた。
     ハルトが助手席にいると、陽だまりの中にいるように、満たされる。日頃はどこにいくにしてもポケモンっこの力を借りるけれど、旅行となれば殊更、俺たちは運転を選んだ。
     補っている、と思えるから。噛み合ってやっと、この人の人生にいると思える。
     こんな人生がずっと続けばいい。続けることがミッション。そう思って何年が経っただろう。時の流れが残酷なこと、何度でもわかってきたのに。
     ハルトはすくすく成長した。指の節や顔つきから、重ねた月日を覚えさせられる。後ろから見える肩甲骨の筋も、輪郭の曲線も、まばたき1つだって、ふにゃふにゃしていた子供時代から脱却して、精悍な色気を覚えてしまったみたいだった。声なんて特に、ずっと、低く柔らかく、伸びやかになって、名前を呼ばれるだけで、丁寧に手招きされているような、ハルトの特別な宝物になったような、そんな気分にさせられる。
     当たり前の仕草に、生来のやさしさとカリスマが、滲み出てくるようになった。俺が見つけた唯一無二は、もう、誰にでもわかる。
     ハルトが欲しい、どこにでもそんな人は居た。見合いは、付き合っている人は?噂話や、真っ向からの相談に、笑って、でも内心は耳をふさぎ続けてきた。
     今はのらりくらり交わしていても、いつか毒牙にかかってしまったら?騙されて、責任を取らされて、それでもハルトは笑うんだろう。
     俺が赦さないだけで。
     ちくちくと胸に降り積もる、うらぶれた感情を恋だと認めるのには、月日がかかった。恋だったらうしなえる。そう信じて、なんとかこの劇薬を飲み込んだ。
     ただし。
     何もなく諦められるほどの、激情ではない自覚があった。このひと夏だけ、あなたと出逢ったキタカミで、足掻かせてもらう。
     ハルトから好きって言わせる。
     無謀だとわかっている。すでにハルトには好きな人がいる。麦わら帽子の君、と内心呼んでいる。あんな風に、隠れて、愛おしそうに、見つめる感情を恋と呼ばずに、俺は居られない。でも彼女は、ハルトの前に姿を現さない。ハルトも一言も話さない。
     納得をさせてくれ。ゼンリョクで足掻くから、きちんと砕いてくれ。あの頃の俺たちみたいに。
     キタカミはつくづく僻地だ。なんもないし、うらぶれた農耕地にしても、世界を見晴らしたら、有象無象に消えちまう。それでも特別たらしめるのは、因果がありすぎるのだと思う。
     道はある意味、見慣れた様相を呈してきた。黒黒しい針葉樹林が並び、時折廃農地のレンガが崩れ、他に背の高いものは殆ど無い。ただただ草原が掃き吹かしている真ん中に、だだっ広いアスファルトが乾いたクッキーみたいにひび割れている。バスでよく見た、スイリョクへの道に車は入り始めた。

     

     キタカミは、不思議と懐かしい心地がする。
     潤い、茹だった大地を拭き上げた風は、忘れたかのように冷たい陰に潜り、終いにはスグリの家へ辿り着いて、縁側で涼む僕のもとへ、醤油や砂糖の匂いを従えてくる。
     たらふく食べた自分には、目を瞑っても再生できた。リビングの黒い長机に並べられた、スイカ、ちらし寿司に、煮しめ、山菜の天ぷらに和菓子といった、この地域の贅沢なものに、俺たち向けのがっつりしたナポリタンやカツレツ、フライドポテト。スグリの家に泊まるようになってから、こちらの風味が分かるようになった。あれにはほんのり味噌が入っている。醤油ベースの味付け、酢飯の癖と食べやすさ、みりんの溶け込むような芳醇な甘み。おばあさんが拵えた手の込んだ料理やオードブルは、「いただきます」をしたら、1日中テレビを見たりダラダラしながらつまんで良いとのことで、決して絶えることがない。これが盆というやつらしい。ハルトが来たから最近はちょっと前倒しだべな、とスグリが話していた。僕達が去るころに親戚がやってきて、本格的な宴会になるのだそうだ。
    「はると、どっちがいい?俺どっちでもいいー」
    「お、うれし〜い。ならこっち」
     スグリの片手に抱えられた、2つの缶のうち、1つをもらい、軽く音を立てあった。サイコソーダと、ミックスオレ。おつかれさま、と口にして、各々プルタブを開けた。
     風呂上がりの、肌の端々から熱が去っていく感覚と、首筋を覆うタオルのあたたかさ。これが今ここで一番しっくりくる格好な気がする。ずっと昔からこうだったような、この錯覚にずっと、ぐっすり眠っていたくなるような。
    「……よく寝てる」
     スグリは横に座って、僕の膝上を覗き込む。
    「うん。楽しかったんだね」
     口が開きっぱなし。大の字で眠るオーガポンは、本当にただの子供みたいだ。
     本日の主役ともいえるスイカ割りの役目を終えて、お風呂に浸かれば、大満足。昔の僕たちもこんなんだったんだろうな、なんて。頭を撫でてやりながら考える。
     無垢に祝われることしか知らないような、そんな寝息が聞こえる。
     漠然とした沈黙は、きっと、スグリと月日への感慨深さを共有している。敢えてその話はしなかった。今、この場が忘却した、この子の長い孤独については、僕たちだけが、わかっていればいいことだ。
     あくびが一つ、場に残る。
    「テレビ台の組み立て、手伝ってくれてありがと」
    「ううん。一人じゃ大変だったでしょ、居てよかった」
    「助かった。じーちゃんも最近足腰キてるし、キタカミさ居るうちは、俺ができることしてやりて」
    「うん。そだね」
     月日が経つことが、残酷だとわかり始めてきた。老体にはこの家にたどり着くまでの坂が苦しくなるだとか、大人は子供みたいに身勝手にはなれないだとか。
     留め続けられるものなど本当に僅かで、良いものも悪いものも、移り変わりを愛するしかない。
    「……僕、家具の組み立て好きだな。色んな形のパーツが組み合って、立ち上がっていく工程が好き。パルデアに来てなかったら大工さんになってたかも」
    「……にへへ、そしたら最初の相棒がドッコラーになる?」
    「えー、『こんじょう』でジム全抜きしたーい!少年漫画じゃん」
    「にへ、やっぱチャンピオンになってるべ」
    「へはは、そうかも」 
     上背のある草がそよそよとそよぎ、心地よい無言が、同じように心臓に触れる。喧騒が少し遠い。テレビでは野球部の先輩が活躍しているんだっけか。ラッパと僅かな歓声が、こちらへと漏れ出ている。
     
      あー、永遠って、こんな形をしてたらいいなぁ。
    「……何度でも、チャンピオンになるよ、ハルトは」
     ばちり、と目が合った。お互いの髪が、未だ、滴っている。
    「ーーそうして、俺とまた、出逢ってほしい」
     諦めにしてはあまりにも甘やかな、濁流に呑まれる。名前をつけても、形を与えても、壊れてしまう、乱れてしまう、柔らかな、感情。
    「……次は一緒に、冒険もしようね」
     嗚呼、僕は何度でも、君を追って、追い越して、追われる。
     そうやって恋をするんだろうな。なんだか泣き出しそうになって、自分の服を握った。
     もう寝よ。拗ねたような小さな声が、口から滑り出ていた。
     
     

     ふたり布団を並べて潜り込むだけで、そこはもう秘密基地のようなものだ。ただの僕たちを包む、繭となる。
     深い、夜の匂いがする。しばらくのおしゃべりの後だった。
    「……スグリ、もう寝た?」
     返事はない。
     そっと彼の領域へ、手を潜らせた。極めて密やかに、心地の良い毛布を味わいながら、眠る彼の指を探り当てる。手のひらを滑って、指と指の間を、捕まえる。
     バレないようにゆったりと、繋ぐ。
     温かさに、目を瞑る。隣の寝息と、扇風機の鈍い唸りが、夏の夜の、澄み渡った暗がりをよぎっていく。布団の身軽さに、身を委ね、心の内に、静かに唱えた。
     今だけは、沢山、心臓が動いていい。
    「……僕ね、好きって言葉が怖かった。
     『好き』は才能だって、大人たちは教えてくれた。
     そうだよね、ポケモンが好きで、バトルに夢中で、人と向き合うのが嬉しくて、いつの間にかチャンピオンになってた。それを才能と呼ばなくて、なんて呼ぶんだろう。
    ……でも好きって、感情で、姿形がないでしょう。触ることも、見ることも、できないものを、どう守ったらいいかなんて、誰も教えてくれない。いつもぼくの賞味期限を教えられた気持ちだった。
    …………いつか、好きがなくなったら、どうしようって、ずっと思ってた」

     

    朝霞を夜明けが裂いて、世界に茫漠な白い光と、鋭い草影をもたらしていた。しんとした湿気が肺の底を満たしている。耳に静かに染まる冷たさは、昼に向かうにつれ熱くなっていくと知っている。どこか期待に溢れるから、いつも朝は早く起きて、その力を帯びていたい。
    「じゃ、ご武運を〜」
     通話を切ると訪れる無音に、ほっとした感覚がする。
     頼られるのは好きだ。リーグに人が居なくなって困るのも同情する。なのに、口から出る声はどうも白々しい。気遣いを重ねるほど、焦りに似たなにかが逸るのを、自らで窘めて、叱って、その癖、攻撃めいたそれがますます牙を剥いた。
     前髪を無造作に掻き上げる。
     自分の愚かさはわかっている。あと僅か、もう少しだけ、あのやさしい場所で、スグリの隣で眠っていたかっただけ。
     息を吐いた。ともっこ公園のベンチに腰掛けて、背伸びをすると、より遠くまで見通せる気がする。
     淡く眩む丘に、点々とした林檎の赤が灯り、その狭間より、ゆっくりと歩く人の影が見えた。
    「……おはよ」
     え、と声を出したつもりだった。歩き方から、スグリなのは、わかっていた。
    ーーゆらり、とキャラメル色のリボンが揺れる。
    「これ、ねーちゃんのお古」
     唾を握る指が、震えた。
    「へ、んかな……?」
     立ち尽くしていた。虫ポケモンの鳴き声が遠く、透き通るように世界へ及んでゆく。
     呼吸の仕方を忘れて、ただぼん!と顔が赤くなる音が爆ぜた。
     あの帽子は、ぼくの馬鹿げた、独善的な、我儘、恋、願望、そのものだ。スグリの頭上にリボンが揺れる。頬を赤らめて、ぼくの目を見つめる。それは、擬似的に、恋が叶った、叶ってしまった瞬間を、見てしまえるようで。脳が、くらくらと酩酊する。



     もしかしたら、効果、抜群?弱点さ、入った?
     真っ赤な顔で固まった相手に、どうしたらいいかわからなくなる。狼狽える気持ちと、俺なんかが立ち入るべきじゃない場所に立ってしまった不安と、やっぱり特別な相手なんだなと冷たい分析が、ごちゃ混ぜになる。
    「ご、ごめん、やっぱ、やめる」
     瞬時に、手首を掴まれた。鋭い視線と、はっきりした手つきに驚く間もなく、は、と指先は弱々しく、和らいでいった。
    「へ、変じゃ、ないよ……」
     泣きじゃくったような声だった。揺らいだ瞳孔が、俺に縋りついている。
     何故ハルトが、そんな、そんな顔をするのか。
    「……ごめん、まだ、そのままで居て」
     自分の服で顔を拭ったハルトが、ぶっきらぼうに言った。
     
     ………代わりでもいい。
     
     そう思っていた。
     一番側にいるのは俺だから。届かないならさびしさも苦痛も、俺がわかってやれる。
     そう、すれば、この気持ちは満たされる。
     …………代わりでもいい?
     だったら。この感情は何だ?
     ぞっとする嫉妬が、腹の底を這いずる。冷たい血潮が、自分の中に流れている。
     過去の穴蔵に、望んで突き落とされるような、心地だ。
    「……ハルトの、すきな人?」
    「え」
    「似た……麦わら、よく見てるよな。思い出の品?」
     ハルトの瞳が、揺れた。
    「………………」
     指を絡ませた。約束をする時の、いつもの行い。
    「話せんでも、いいよ。でも、今だけは、俺のことさ見てて」
    「スグリ、」
     この感情を言葉にできなくて、せめて、指先へ唇を僅かに、掠めさせた。
     ずっときみが好きだ。我儘だって、わかっているよ。
     倫理でも法的拘束力でもなんでもいい。ただ、どうか、俺以外の1番を、作らない約束をしてほしいんだ。



     わやじゃ!やっちまった!やっちまったべ!!!
     枕をぼすぼすと叩く。子供の頃からのそれは毛玉だらけでぼそぼそとして、頼りない凹凸を描くだけだ。こいつが一番落ち着くのだ。早く布団を上げなきゃいけないのに、いったい何をやっているのだろう。
     ともっ子公園の沈黙は、ハルトに贈ったカジッチュがこん、と俺にやってきて、壊してくれた。「……ぼうだん?」とハルトとふたりで笑った。俺は水あめボムでもアシッドボムでもないよ。
     空気が抜けて、どのボール技にならなってみたいか選手権が始まった。しばらくしてオーガポンを連れたばーちゃんが、遠くから朝ごはんに呼んだ。
     問題はそこからだ。あんなぎこちない朝食は、初めてだった。そわそわして、夢見心地で、兎角ハルトが気になって仕方がなくて、引っ掛けて落とした箸もおたまも遠い出来事に思えて。気持ちばかりがハルトに巻きついている。同時に、どこかハルトには、届かないものがある気がして、肌の内側が、悶えたくなる。   
     一度封さえ解いてしまえば、恋とは呆気なくそこにあるものだ。
     むしろコルクを強く締めすぎてきたせいで、反動までもが激しくなっている。恥ずかしくてたまらないのに、くすぐったくて、嬉しい自分を隠せない。
    「うう、うぅ……でも、」
     手のひらを額に当てる。ぎざぎざと前髪が触れる。
    「あんな、あんな期待、させる顔……」  
     触れた指先はしん、と冷えきり、反面真っ赤な耳は、熱がじわりと広がったようだった。自分の唇に触れる。
     そう、こんな感じだった。
     鏡に自分が映る。
     少し開いた唇は、微かに震え、とめどめのない混乱と、高揚が混ざった、みたいな、揺れた瞳孔、に見えた。
     ……ハルトには『本物』が居るのに……。こんなの、悪趣味なのに。浮かれ上がる気持ちは、曖昧に揺れている。
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