理不尽 前略、藤原忍はシャピロの教官用執務室の前で硬直していた。
呼び出されるのはいつものことで、入室後に行われる予定の長い説教を恐れている訳ではない。ドアノブに手を掛けられない理由は他にある。それが——
「…は…ぁ、…! うぅ……ぁ…っ」
この声だ。
紛れもなく自分の上官の声だと分かるのだが、発せられるものは普段の尊大さとはかけ離れている。
苦しそうとも切なそうとも取れるような、吐息混じりの声。聞く者が聞けば、艶かしさが——いや。忍は何度目かの想像を首を振ることで打ち消した。
しかも、問題なのはこれだけではなかった。
「シャピロ、もっと息を吐いて力を抜け。怪我したくねぇだろ」
「はぁっ……貴様が…下手なだけだろう…!」
1999