マイ・フェア・レディ(沙羅シャピ) 来月、私の誕生日なんだ。
訓練の合間、僅かな逢瀬の中で沙羅が不意に呟いた。
忘れているはずが無い。無いのだが、シャピロにはそう言われる心当たりがあった。
この時期になると、春に入ったばかりの訓練生の気が緩み、大小様々な問題を起こし始める。シャピロから見れば少年兵に毛が生えた程度の若輩者が、訓練をサボろうが校内で喧嘩をしようが知ったことではないのだが、監督する立場としてそうも言っていられない。
その上、日々の演習プログラムに上から押し付けられた書類仕事が積み上げられていく——要するに、まともに時間が取れないのだ。沙羅と過ごす時間どころか、睡眠時間すら危うい。
それでも恋人の誕生日を祝う時間を設けないことは、彼の中であり得ないことだった。
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