Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kamliner

    @kamliner

    ワンクッション置きたいやつや、載せたやつの倉庫代わりに投稿します。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 🐘
    POIPOI 30

    kamliner

    ☆quiet follow

    ケーキバースのような話、亮シャピですが潜在的にシャピロ総受けです

    ビーストバース 今から約四十年前。世界には性別・人種・国籍などとは別に、新たに人々を区分する概念が生まれた。当初、個人の性格や才能と思われていたそれは次第にまとまった特性となり、極めて少ない割合で偶発的に産まれる者として認知された。
     彼らの特性は多少の個人差はあれど、主に「並外れた身体能力」「視覚・聴覚・嗅覚の発達」「異常に高い闘争心」そして、「生存への強い執着」——野生動物そのものの性質を以て彼らは『先天野性化症ビースト』と呼ばれるようになった。
     当然の如く、能力に秀でた彼らを利用しようと各軍隊や警察機関が動いたが、その大半は実現していない。
     闘争心を持て余し、不自由を極端に嫌う彼らを統率することが出来なかったのだ。
     ただ一つの機関を除いて。

    「ようこそ、獣戦基地へ」
     配属されたばかりの若き衛兵の前に、軍服姿の男が立つ。冷厳さを纏った低い声。服についた章飾や立ち振る舞いから階級が高いことが察せられ、無意識のうちに衛兵の背筋が伸びた。
    「シャピロ・キーツ少佐、この基地に所属する獣戦機隊の指揮官——俗称では〝調教師〟だ」
    「はっ…! 俺——あ、いや、自分は……」
    「必要無い。貴様のことは事前に来た書類で把握している」
     失敗した、と衛兵は心の中で呟いた。ぴんと伸びた背の内側が急激に冷えていくのが分かる。目の前に立つ男——シャピロの腰にぶら下げられた物騒な電気鞭が目に止まり、うっかり反応が遅れてしまった。その上、冷めた声がぴしゃりと被せられれば、もはや口を閉ざすしか無い。
     配属早々出鼻を挫かれ、無言で打ちのめされていると、それに気付いたらしいシャピロが再び口を開いた。
    「……気を悪くしないでくれ。あまり情を抱かないよう、こういう振る舞いが癖になっているだけだ」
     薄いブラウンのアイシャドウに彩られた目元が、僅かに細められる。その声は先程とは違った人間的な温度を帯びており、幾分か新人の緊張を解くことが出来たようだ。
    「あ…いえ、こちらこそ、すみません」
    「先に施設を案内したい。構わないか?」
    「はい。よろしくお願いします」
    「こちらだ」

     ヒールが鳴らす高い足音を追って、獣戦基地と呼ばれる施設の奥へと足を踏み入れる。厳重な扉を複数くぐり、進めば進むほど他の軍事施設とは別種の物々しさが感じられた。
     黙ってシャピロについて行くと、急に開けた場所に出た。鉄の床に鉄の壁、それは今までの通路と変わらずではあったが、至る所にあるセンサーやカメラに常に監視されており、独特の緊張感がある。
     その視線のほとんどが、厚い電動扉で隔離された複数の個室に向けられていた。この中に居るのがビーストと呼ばれる者だ。ごくり、と衛兵の喉が下りる。

    「……まるで監獄のよう、だろう?」
     嗤うようなシャピロの声が横から聞こえ、びくりとする。脳裏によぎった無礼な感想を咎められこそしなかったが、思考を完全に読まれたようでばつが悪い。
    「見ての通り、ここは基本的に機械で管理されている。万が一、ビーストが脱走したとしてもすぐに鎮圧できるようにな」
     シャピロに言われ、改めて周囲を見渡して気が付いた。遥か上部の強化ガラス越しに研究員が数人見える以外、近くに人の姿が見当たらない。
    「ここには人間の警備員などは居ないんですか?」
    「あぁ。常駐の必要は無いからだ。気になるか?」
    「いえ…! その、任務は歩哨と聞いていたので……自分は何をすれば?」
    「……やれやれ、上の説明不足だな」
     シャピロが露骨に溜息を漏らす。
    「お前の任務は〝私〟の護衛だ」
    「キーツ、少佐の……?」
     端的に説明を行いながら、シャピロの片手が電動扉横のキーパッドを叩き開錠を促した。

    「キーツ少佐 危険では……」
    「だから、その為にお前が居るんだ」
     中に居るであろうビーストの危険性は誰もが知るもので、シャピロの行動に動揺した衛兵が声を上げたが、当のシャピロは涼しい顔で平然と言い放った。
    「何かあれば、私が殺される前にビーストを撃つのがお前の役目だ。ただし、止めるとなれば急所を狙え。奴らはアドレナリンが常人よりも多量に出る、多少の傷では威嚇にもならん」
     淡々と説明するシャピロは、やはり何の恐れもなく開いた扉の向こうへ歩みを進める。
     彼が行ってしまう以上、護衛を言い付けられた自分が入らない訳にはいかない。腰につけられたホルダーから銃を外しながら、意を決して足を踏み入れた。

    「亮」
     入った先は本当に独房のように簡素な部屋だ。シャピロが名前を呼ぶと、床で座禅を組んでいた(ビーストが取るには意外な行動だと思ったが、シャピロが無反応な辺りいつもこうなのだろう)男が徐に立ち上がった。
    「作戦の概要を伝える。来い」
     短い命令に、亮と呼ばれた男は意外にも素直に従いシャピロに歩み寄る。二人が並び立つと、背丈は同程度でも細身のシャピロに比べ亮の体格が良いのが目立った。
     しかし、見ていればその距離は話をするにしては異様に近く、ついに鼻先が触れそうな程になり銃を握る衛兵の手に力がこもる。
    「キーツ少佐…!」
    「構うな。これでいい」
     衛兵を制するシャピロの首筋に、亮の顔が近づく。何をしているのか分からなかったが、どうやら匂いを確かめているらしい。ビーストの習性なのか、シャピロは亮の好きにさせたまま微動だにしなかった。

    「……その男は何だ?」
    「新人だ。挨拶がしたいか?」
    「いいや」
     一瞬、新顔を警戒する素振りを見せた亮は、あっさりと興味を失くしたように視線を外す。
     衛兵として大した脅威ではないと認識されたのは悔しいが、多少ほっとしたのも本心だ。改めて、野生動物と檻の中に居るも同然だと実感せざるを得ない。

    「次の任務は敵に囚われた要人の保護だ。生身での対人戦闘を想定し、お前が先導して他のメンバーを選出しろ」
    「……報酬は?」
     亮の返答を想定していたかのように、少し間を置いてシャピロが細い腕を彼の首に回した。愛玩するような手つきで相手の髪を梳きながら引き寄せ、そして。

    「……ん」
     二人の唇が重なり合う。それを合図にするように、亮の太い腕もシャピロの腰に絡められる。唖然とする衛兵の目の前で。
     ちゅ、ちゅ、と濡れた音がするかと思えば、舌が絡められているのが分かった。ビーストに至近距離まで近付く者が居るのも信じられないのに、まるで恋人同士のように絡み合い互いを貪る。
     目のやり場に困った衛兵が視線を逸らせば、部屋の隅のカメラと視線がかち合った。そういえば、と思い出す。
     自分が見ているどころか、この部屋は監視されている。
     どれほどの人数がモニターしているのかは想像でしかなかったが、一人や二人ではないだろう。にも関わらず、ビーストとの痴態を見せることに何の抵抗も無いシャピロを前に、衛兵はただ呆然と立ち尽くした。

    「ん…ぅ……んッ…!」
     亮と口づけを交わし、鼻にかかったような声を漏らしていたシャピロが、不意に身体を強張らせた。
    「っ、キーツ少佐」
     重ねられた唇の隙間から赤い物が見える。咄嗟に衛兵が銃を構えた。
     シャピロは取り乱す様子も無く、衛兵を制しながらゆっくりと亮から離れた。口端についた血を指先で拭い、まっすぐに亮を見据える。
     亮は名残惜しむように唇を舐め、ふっと笑った。
    「これがご褒美か」
    「残りは作戦の成功報酬だ」
    「分かったよ、教官殿」
     短い会話であっさりと亮はシャピロの側を離れ、再び壁際へ戻っていく。その間も、銃を突きつけたままであるにも関わらず、一度も衛兵のことを気にする様子は無かった。
    「もういいぞ、新人」
     踵を返すシャピロに促され、衛兵は躊躇しつつも足早にこの独房のような個室を出て、ようやく銃を下ろすことが出来た。

    「あのっ…少佐、傷は…!」
    「気にするな。舌を軽く噛まれた、いつものことだ」
     再びドアロックを閉め、中央部へ戻る。意に介さず、淡々とした説明に衛兵はまだ狼狽していた。
     怪我をさせてしまったら自分にも責任が及ぶかも知れないとも思ったが、それ以上に先程の光景が頭から離れなかった。混乱の最中、心臓がバクバクと大きな音を立て続けているのを、今更ながら自覚する。
    「あれは…何だったんですか? いつもって……」
    「……なるほど、先に説明した方が良さそうだ」
     戸惑う衛兵とは対照的に冷静なシャピロは、やや思考する素振りを見せた後で、やはり淡泊な様子で話を続けた。
     その声は低く落ち着いており、どこか退廃的な甘さを持って衛兵の耳に届いた。

    「これは一般には知らされていないことだが……ビーストには〝対〟になる人間が存在する」
    「対…?」
    「捕食する側と、される側という意味だ」
     言葉の意味を理解するよりも早く、シャピロは自らの襟元に手をかけた。ネクタイを解き、シャツの前面を開ける。長い指によって紡がれるそれはこちら側を誘うようにも見え、衛兵はごくりと生唾を飲んだ。
     しかし、その直後に視界に飛び込んできたものを見て目を見張った。

    「驚いたか? 俺は奴らの〝餌〟だ。餌となる人間の体液——汗や血、唾液はビーストにとって甘美な蜜となる、らしい」
     痛々しい噛み跡。キスマーク。その他にも細かな傷や、行為の痕跡がシャピロの首筋や胸元に残されていた。衛兵の青ざめていた顔が、僅かに赤く染まる。
    「俺は、俺の身体で奴らを操ることが出来る…先程のようにな。だから〝調教師〟が務まるんだ」
     シャピロの言っていることは衛兵には理解できなかった。理屈は分かっても、それを平然と受け入れ、殺される危険性も理解しながら自らの身体を捧げ続ける男の心理など、分かるはずも無い。
     どうかしている。混乱が衛兵の頭を何度も揺さぶる。
     しかし、話すシャピロの口ぶりは穏やかで、傷つけられた身体も白い肌に赤が映えるように扇情的にさえ見えた。彼の肌に咲いた〝花弁〟は行為の激しさを物語る。
     妖しげな男の放つ色気は、ビーストの手で損なわれようとすることで、却って一層際立つように危険で背徳的なものとなっていた。
     衛兵は、またひとつ生唾を飲み込んだ。
    「餌って…そんな人間が居るなんて…」
    「餌となる人間の大半は、認知される前にビーストが起こした犯罪に巻き込まれる。俺はただ生き延びているだけだ。人道に反する手法を軍が公にすることもあるまい。だが、目の前で起きていたことが事実だ」
     シャピロがそう言うなら、そうなのだろう。ガンと頭を殴られたような衝撃を受け、目眩が止まらない。思わず目元を覆った。

    「…顔色が悪い。今日はもうここまででいい、帰って休息を取れ」
    「で…でも……」
    「命令だ」
    「は、はい! 失礼します!」
     言葉を遮って被せられれば、それ以上話すことは出来なかった。事実、ビーストの檻にまた入らなくて良くなったのは幸運だ。
     先程二人で歩いた通路を、一人足早に去っていく。
     若き衛兵の脳裏には、どうしてもシャピロの傷だらけの肌が——ビーストの手で蹂躙され、尚も高潔さを保つ男の姿が忘れられなかった。



    「新人はどうだった?」
    「素質はあります。訓練すればいずれ使い物になるでしょうな。本人が自覚すればですが」
     様子を訊ねた科学主任の葉月の前に、報告書を突き出す。葉月はそれを受け取りながら溜息を吐き、気難しそうに目頭を押さえた。
    「すまない、キーツ少佐。君の身を危険に晒すことでしか、ビーストを制御できんとは…」
     葉月の声には嘘ではない痛悔が滲む。ビースト研究の第一人者であり日頃感情を出さないこの男がそうまで言うのだから、余程悔やまれているのだろう。シャピロはその心理も理解した上で、しかし気遣うつもりは微塵も無く、鼻先を鳴らして笑った。

    「いいえ。これでも、私は気に入っていますよ。奴らのことも…自分の役目も」

     シャピロの嗤う顔はどこか妖しく、ぞっとする程美麗で——ギラギラとした、命を賭した者の美しさだった。シャピロはそのまま振り返り、葉月の反応を待たなかった。
     葉月はふうと再び溜息をつき、手元の報告書に目を通す。そこにはシャピロの神経質なまでに丁寧な文字が並んでいた。

     新人歩哨兵 及び
     新獣戦機隊候補生
     スライ・ダンパー

     《ビースト》の発現を認める
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🇪✝✝ℹ❤💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works