境界 夜、もうじき日付が変わろうかという頃。亮は自主的な鍛錬を終え、共同シャワールームの使用時間ギリギリに滑り込んだ。
誰に命じられた訳でもなく余分なトレーニングに励む姿を、他の訓練生からは稀有な目で見られてはいたが、寮長には評価が悪くないだけに多少遅くなっても小言を言われずに済む。
とはいえ、そう遅くまでは使えない。手早く汗を流し、まだ乾ききらない髪もそのままに自室に戻った。
亮が部屋の前に立った時、ふと中に人の気配を感じた。相部屋なのだから、そのこと自体は不思議ではない。
しかし、人一倍鋭敏な感覚が、日頃感じているものとは別種のものが混じっていることを察知していた。
(またか———)
無意識のうちに顔が険しくなるが、このまま廊下に立ち続けている訳にもいかない。誰かに見つかった時、何をしているか問われると面倒だ。
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