理不尽　前略、藤原忍はシャピロの教官用執務室の前で硬直していた。
　呼び出されるのはいつものことで、入室後に行われる予定の長い説教を恐れている訳ではない。ドアノブに手を掛けられない理由は他にある。それが——

「…は…ぁ、…！　うぅ……ぁ…っ」

　この声だ。
　紛れもなく自分の上官の声だと分かるのだが、発せられるものは普段の尊大さとはかけ離れている。
　苦しそうとも切なそうとも取れるような、吐息混じりの声。聞く者が聞けば、艶かしさが——いや。忍は何度目かの想像を首を振ることで打ち消した。
　しかも、問題なのはこれだけではなかった。

「シャピロ、もっと息を吐いて力を抜け。怪我したくねぇだろ」
「はぁっ……貴様が…下手なだけだろう…！」

Fly me to the sky with you.　数ヶ月前のこと。忍は葉月博士の執務室に呼び出された。葉月の仕事部屋が長官室からここへ変わってからは初めてだ。
　そう広くない上に、忍に縁のない物ばかり並べられた本棚に囲まれた部屋は、長官室とは別の緊張感があった。

「急ですまない、藤原」

　居心地の悪さから視線の行き場さえ落ち着かない忍を前に、「楽にしてくれ」と葉月が促す。忍は頷くだけ頷いたが、この空間で、神経質な程かっちりとスーツを着込んだ男に言われたのでは気分はあまり変わらなかった。

「で、長官……あぁ、いや、もう違うんだっけか」
　以前、長官と呼び始めた時もこんな調子だった。新しい長官が就任する予定で、葉月は職を外れたばかりだ。ようやく“葉月長官”にも慣れたと言うのに。

我很久没有在这个酒吧见到过他了，今晚这一面是三个月来的头一回。他一如既往的不修边幅，破烂的颈环挂在脖子上，大概只需要一只手就能掰断。

香槟杯伶仃细脚，他用三根手指捏着，像要即将掐死一朵郁金香的冷血杀手。酒保穿庸常而正统的西装马甲，为他的人质注射新鲜的血液，黄色，浑浊。

我知道那将会作为罪证留在他的指尖，但我不介意成为共犯。他最好用受害者的生命浓缩液在我的脊背上作画，警察会在他即将射精的时候破门而入，用枪口对准他情潮浓艳的脸，大声宣布逮捕这个正在高潮的、鲜廉寡耻的男人。破烂的汽车旅馆是一座坟茔，无数孤魂野鬼在这一刻落荒而逃，经过我们的房间门口时顺便向内窥探，窥探一个谋杀香槟杯的罪犯。

我看不见这一切，但是他可以。他会告诉我的，因为他非常害怕，又不能躲进警察的怀里，只能惊慌失措地抱住我，再流下一些咸涩的眼泪。