「では肥前くん、用意は良いかね?」
柔らかな問いかけに幼子は頭の上にちょこんと乗った三角の耳を揺らして、大きく首を縦に振った。
「まずはこの粉を混ぜてみよう」
「おさとう?」
「舐めたことはないが甘くはないと思うよ」
「おしお?」
「ううん……これは右から重曹、クエン酸、片栗粉というものでそれぞれ異なる役割があるのだけれど聞くかね」
「いらない」
良く言えば整理された、有り体に言えばろくに使われた形跡のない台所。作業台に届くようにと黄色い本体に白い水玉が描かれた踏み台に乗った肥前は首を横に振った。
ボウルの中へばさばさと無造作に入れられていく白い粉を眺めるその頭の上では、黒い耳が小刻みに揺れている。どこかそっけない言葉とは裏腹に興味を引かれていることは左右に揺れる耳と同色の尾から察することが出来るだろう。
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