みえるもの「…ねぇ」
くい、と上着を引かれる感触。足を止め、どうした、と言葉にはせず目をやれば、火車切の指が庭先の塀を指し示す。
「あれ、斬らなくていいの…?」
「あれはまだいい」
「…ふーん」
伸びていた指が丸まり、肘のあたりの布地を摘まんでいた手が、するりと離れていく。
「…おまえにはあれが何に見える」
「え?」
「何に見える」
「…鳥っぽい、何か…。…幽霊、じゃないけど、いい感じもしない…」
「そうか」
随分よく見えている、と内心で感心しながら、ひょいと背中に垂れたフードを摘まみ、その頭へとかぶせてやる。
「うわ…っ、なに」
「…見えすぎるのも困りものだな」
わたわたとフードを上げようとする手を制し、被っていろ、と言葉を落とす。
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