らうたき春とモラトリアム 稼げるわけではないが、掛け持ちにはちょうどいい。そんな噂を丸呑みに応募した図書館のアルバイトは、最低賃金ギリギリであることを除けばおおよそ"あたり"だった。
貸出は殆ど機械化されている上、夏休みに入ってしまえば参考書持参の高校生ばかり。座っているだけで時給が出るのにどこの棟よりもクーラーが効いているときた。紹介してきた姉貴分にすら似合わないと笑われたこの薄給バイトをセキは存外気に入っていた。
「お疲れ様です」
「おー、」
これでもう少し時給が良ければと罰当たりなことを考えていると、隣の席にリュックサックが置かれた。どこをどう歩いてきたのか、真っ赤な顔を必死に団扇で扇ぐテルにセキは無言でボディシートを差し出す。極寒マイナス二七三度、ぜったいれいどのハッカ臭がした。
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