苦節十年純米大吟醸1
「言うて先輩、先輩の恋愛が不毛なんは今に始まったことじゃないですやん」
「ウーッ火の玉ストレートが効く!」
「誰が藤川球児や!」
わたしはこの可愛くない後輩の、可愛くないところが好きだ。いくら高校で名を轟かせたバレーボーラーでも関西のヒーローの得意技は知っているところ。わたしの不毛な恋愛にキッチリ突っ込んでくれるところ。
「苦節十年の先輩にはこれやな」
「うちの生酒じゃん」
「酒蔵見学で良うして貰ったからな。恩は返すで。奢りや」
わたしはこの到底可愛いとは言えない後輩の、ある種人生に対して誠実なところを尊敬している。高校二年で将来を決めた上、店をやれているのはその結実だ。誠実な商売でなければ、いくら後輩であっても北くんは米を卸さない。
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