暗闇の中、2人の男の息遣いだけが朧げに響いていた。1人はもう動けないようで、地面に伏して虚な目をしていた。
「……見事、だ」
呼吸も細くなっている。もう死ぬ。
ふと、この男のことを考えた。任務のためだけに生まれ、自由に生きることもないまま、苦しんで死んでいく。本人は、そんな自分の人生に疑問を持つことも、抗うこともしない。そもそも、そのような感情を持つことすらないように設計されている。彼もまた、オオガミの犠牲者の1人なのかもしれない。
――途端に、トドメを刺すのが嫌になった。相手に情を持つな、と何度もこの男に言われた。とことん甘いと自覚はしている。彼は戦士として死にたがっている。なのに、まだ助かると判断したら、その身体を抱え上げてしまっていた。力の抜けた男の身体は、疲労が濃く残る手脚には些か堪えた。一歩踏み締めるたび、指に、服に、生暖かいものが滲んでいくのがわかる。なんとか車まで辿り着き、汚れるのも構わず男の身体を詰め込んだ。これ以上怪我をしないように、後部座席ではなく助手席に座らせ、ぐらりと倒れそうになるのをシートベルトで固定する。頭はどうしても安定しないから、自分の肩に凭れかけさせた。
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