Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    kimuranatsuno

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    kimuranatsuno

    ☆quiet follow

    8話と9話の予告を見た書きなぐり。スミイサ+サタケでスミス(不在)以外みんなかわいそうな9割9分妄想話。
    このあと「聞いてくれてありがとうございました」って言うイサミのこと結局抱きしめちゃうサタケ隊長がいます

    【スミイサ+サタケ】Hero is ☓☓☓☓ 扉を三回叩く音が聞こえたので、イサミはベッドに寝転んだまま返事をした。起き上がることすらしなかったのは、相手の予想ができたからだ。イサミの部屋は空母内に特別に与えられた個室であり、訪ねてくる人物は限られていた。自衛隊の顔なじみであるヒビキとミユ、ホノカに、そして最近ではルルも。しかし部屋に入ってきたのは、イサミの予想外の人物だった。
    「隊ちょ……いや、サタケ二佐」
    「二人きりで話すのはひさしぶりだな、アオ三尉。あぁ、座ったままで構わない」
     サタケはそう言うが、上下関係が明確な組織の中で、それが許されるはずもない。イサミは重たい体をのろのろと起こすと、立ち上がって姿勢を正した。それを見届けて、サタケはすぐに話を切り出す。
    「ブレイバーンに乗り続けてくれるか?」
    「……当然です」
     そんなことをわざわざ確認しに来たんですか。口には出さないまでも、そのときのイサミの顔は、とうてい上官に向けていいものではなかった。しかしサタケは動じない。イサミが自衛官としての習性を忘れても、サタケはどこまでも二佐だった。「了解だ。アオ三尉」と、まっすぐな瞳で言って、そして右手を差し出す。
    「私達は、君の決断と勇気を誇りに思う。人類の未来を、どうかよろしく頼む」
     拒む権利なんてイサミには無い。握手も、そのほかの重圧もだ。イサミがほとんど儀礼的に右手を持ち上げると、サタケはそれを力強く握った。
     力と体温を通して、サタケからの敬意が伝わってくる。それでも今のイサミには、そんなものなんの価値もなかった。サタケもおそらくそれを理解している。だから、ずいぶんあっさりと手は離れた。
    「さて、と──」
     くだけた口調で少々わざとらしく空気を変えたサタケは、イサミに構わずベッドに腰掛けた。さっきまでのかしこまった態度は消えている。しゃんと伸びていた背筋だって、リラックスするように少しまるい。
    「ここからは雑談だ」
    「……え?」
    「座れよ」
     命令とは違うやわらかなトーンで言われて、イサミは操られるようにふらふらとベッドに腰掛ける。あいだにちょうど誰かがひとりいるような距離感でふたりは並び、サタケは赤いジャケットのポケットから缶コーヒーを取り出した。左右から一本ずつ、ブラックとカフェオレだった。
     半ば強制的にブラックをイサミに握らせると、サタケはカフェオレのプルタブを上げた。イサミもブラックを開けて一口飲む。安っぽくはあるけれど、あたたかな苦みは心身に沁みた。かしこまった賛辞や握手より、よっぽどだ。
    「総司令に、俺の様子を探りに行くよう言われたんですか」
    「それもあるが、メインはブレイバーンに乗る意思の確認だ。イサミ、おまえ本当に大丈夫か」
    「大丈夫です乗ります。メシもちゃんと食ってます」
    「でも眠れてないだろ」
    「それは……はい」
     「ひどい顔だぞ」と、サタケが苦笑して言うからには、よっぽどなのだろう。そういえば、普段なら笑い飛ばすヒビキも、ぐいぐい突っ込んでくるミユも、この顔を見て押し黙っていた。ホノカは泣き出しそうだったし、ルルは……──
    「コーヒーじゃなくて酒にすべきだったな」
    「隊長、飲めないじゃないですか」
     自然とそう口からこぼれて、イサミはハッとした。しかしサタケは気にしていないらしい。「好きに呼べばいい」と、微笑みながら言う。それを聞いて、張り詰めていたイサミの表情が若干ゆるんだ。
    「みんなに心配……かけてるんですね。俺は」
    「ブレイバーンにもな」
    「はは……」
     力のない笑い声のあと、イサミは沈黙してしまった。
     「アイツはどうでもいい」とか、そういう軽口が返ってくると思ったが、そうではなかった。ほぐれた緊張がふたたび戻ってしまったのをサタケは察し、どうしたものかとカフェオレをすすりながら思案する。このじゃじゃ馬は、不安や不満を簡単に吐露したりしない。だからこそ、あの男はあんなこと……ボクシングをしたし、サタケも協力を惜しまなかった。
     ルイス・スミスはもういない。
    「吐き出したいことがあるなら、今のうちに言ってくれ」
     結局、命令ではなく、誘導尋問も出来ず、お願いするしかない。「互いに忙しい身だしな」。そうやって急かしたりもする。イサミとは、今まで築いてきた信頼関係がある。だからそれだけで十分だとサタケは思っていた。
     ありとあらゆるマイナスの感情をゼロにしてやる。プラスにはできないかもしれないが。そういう気概でここに来た。
    「どんな話でもいいぞ」
     サタケがそう言うと、イサミはコーヒーを一口飲み下した。コクリと喉が動き、考えをまとめているような目をしている。やがて「俺は……」と、ゆっくり落ち着いた声で話し出した。
    「スミスと寝ました」
     出しあぐねていた名前が予想だにしないかたちで飛び出したものだから、サタケはカフェオレを噴き出しそうになった。口になにも含んでいなかったら、大きな声を出してしまっていたに違いない。
     驚きをカフェオレといっしょにどうにか飲み込んで、表現を吟味したのち、尋ねる。
    「恋人だったのか」
    「分かりません」
     セックスしておいて分からないって。いや、もしかして文字通り「いっしょに眠った」だけの意味なのか。それともいわゆるセフレ? 馬鹿なこいつにかぎってそんな。いやに冷静な元部下のとなりで、サタケはかるく混乱していた。
    「好きだったんだろ?」
    「……どうですかね」
     どこか煮え切らない態度でそう言うと、イサミはコーヒーをぐいっと飲み干した。
    「でも……」。からっぽになった缶を手にしたまま、話は続く。
    「自分の気持ちはよく分からないのに、スミスが俺を好きなのは痛いほど分かった。友情じゃなくてそういう……抱、きたいって、気持ちがあるんだと。俺、そういう目で見られるの、初めてじゃねえし」
     生々しく続く話を黙って聞きながら、サタケは考えていた。でもおまえ、ゲイじゃないよな、と。
    「だから俺から誘いました」
    「……?」
    「俺は、自分がゲイだと思ったことなんて、人生で一度もなかった。なのに『生理的に無理』とか、まったくなくて──」
     スミスとの交わりを端的に語ったその瞬間、イサミの目が泣きそうに細まったのを、サタケは見逃さなかった。体温を分かち合った思い出と、それを失ってしまった喪失感が同時に押し寄せてくるのは、身の引き裂かれる思いだろう。その表情は、イサミからスミスへの感情を何より物語っていた。
    「ルイス・スミス中尉は、おまえにとって大切な存在だったんだな」
     月並みな言いかたではあった。しかしそのあいまいさは、イサミのなかのスミスを表現するのに、これ以上ないものだったらしい。からっぽの缶を見つめるばかりだったイサミは顔を上げ、やっとサタケを見た。イサミの手から缶が滑り落ちる。渇いた音が、むなしく響く。
    「そう、そうッ……で」
     喉奥から絞り出される掠れた肯定は、イサミの本音をさらに引っ張り上げてくる。しかし本音は言葉になるまえに嗚咽になり、嗚咽は涙になった。
    「隊長、俺は、おれ、は……ッ」
    「イサミ、ゆっくりでいい」
    「俺は、愛してる、とかじゃあなく、ただスミスを……失いたくなかっただけだ。アイツの感情なんて知らないふりをして、ただそばに居てくれれば」
     でも、イサミは知らないふりをしなかった。つきまとう命の危険と未知への恐怖、そしてルイス・スミスという男の純粋な危うさが、行動に移させた。
    「だから、俺のぜんぶを使ってでも……繋ぎ止めようとした」
     スミスの好意を利用した。俺を遺して逝くようなヤツじゃないよな? そう信じていた。でも、違った。
    「でもそれは、間違いだった」
     涙に濡れた顔を両手で覆い隠し、声を絞り出す。絶望の底にいながら、幸せだった時間を振り返るのはつらいことだ。それでもイサミは語るのをやめない。懺悔だと、思っているのかもしれない。
    「朝起きて、ベッドの中で俺にキスしたスミスの顔が、頭にこびりついて離れないんです。アイツ笑ってて、いやにスッキリした顔しやがって。まるでもう、未練なんてないみたいに」
    「イサミ」
    「命への執着を、俺が断ち切ったんじゃないかって」
    「そんなわけあるか!」
    「ッ!」
     這い上がれないところまで引きずり込まれそうな気配を感じて、サタケは思わず声を荒げた。イサミは顔を覆っていた手のひらを外す。ぐちゃぐちゃに濡れたまま、膝の上で左右をぎゅっと握り合わせる。涙は止まっていない。

    「命を投げ出すのは嫌だって、俺言ったよな?」
     
    「いっしょに世界を救おうって、おまえ言ったよな?」

    「じゃあスミスがいねえなら意味無いだろ?」

     イサミの届かない声を聞きながら、サタケはやりきれない気持ちを抱えていた。遺された者のことを考えていないようなスミスに怒りを覚えたし、それ以上に、スミスが特攻したからこそ生きていられる自分の弱さが情けなかった。無力だ。だからサタケはイサミを抱き寄せられない。その悲しみを受け止めることしかできない。
     並んで座るふたりのあいだには、ひとり分の空白がある。無限とも思えるような空白が。
     やがて徐々に落ち着いたイサミは、隊服の袖で涙を拭った。
    「スミスは俺とブレイバーンをヒーローだと言ったが、俺はヒーローになんてなれない」
     さっきとはまったく違う、起伏のない恐ろしく平坦な声だった。まるで感情を燃やし尽くした焼け野が原のように。残っているのは、ドス黒い燃え残りだ。
    「俺はブレイバーンに乗る。でもそれは、世界を救うためじゃない」
     未知の力すら利用して成したい望みは。
    「俺はただただ、スミスをやったアイツらをひとつ残らずぶっ潰したくてしょうがないだけだ」
    「……イサミ」
     サタケのよく知るじゃじゃ馬も、人類の切り札も、もうここにはいなかった。いるのはUNKNOWNに見初められた魂。そしてルイス・スミスが愛した、たった一人の男だった。
     サタケは悟る。イサミを支えることは出来ても、救うことはできないのだと。それでも人類の未来はイサミとブレイバーンに託すしかない。なんて不均等な天秤だろう。しかしヒーローとは得てしてそういう存在なのかもしれない。だとしたら今のイサミは、どうしようもなくヒーローだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏😭👏🙏🙏🙏😭😭😭🙏😭🙏✨😭😭😭😭😭😭😭😭😭👏😭💙🙏🙏🙏😭💙💚🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator