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    kimuranatsuno

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    kimuranatsuno

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    複座スミイサ。ギスギスしている。クヌに目を付けられたきっかけのようなもの妄想。

    #スミイサ
    #ルイイサ

    【複座】眩いばかり 洗っても洗っても拭えない、走っても走っても振り切ることができない、目を閉じても消えていかない濃密な死の予感に囚われたとき、何を望むのが人間か。

     XM3ライジング・オルトス。日米が極秘に開発していた複座式TSには、日本とアメリカからパイロットが一人ずつ選ばれた。まずはシステムを運用できる数少ない適合者であるイサミ・アオ三尉。そして、そのイサミに『ついていける』人間、ルイス・スミス少尉だ。
     前線に投入されたライジング・オルトスは、希望をつなぐのに十分な初陣を飾った。それまではどうにか凌ぐしかなかった敵の攻撃を押し切り、バリアを破って撃破したのだ。それも、何体も。
     ライジング・オルトスの活躍、そして必死にかき集めた情報、部隊の練度向上もあり、一進一退ではあったが人類は未知の敵に対抗できるまでになった。作戦を牽引するのは、もちろんイサミとスミスだ。しかし敵を退けたあとに行われる二人の反省会は、もっぱら言い争いで終わることのほうが多い。その多くはイサミの独断専行に端を発するものだったが、今回は違っていた。
    「管制じゃなくて俺の指示を優先しろって言ったよな? 索敵も脅威判定もロックオンもこっちで出来んだよ! よそ見すんな!」
     TSの格納庫で、その日も二人は操縦服のまま言い合っていた。原因はメインパイロットであるスミスの一瞬の判断ミスだ。遠方の敵影に気を取られ、瓦礫の下の残党から銃口を外した。その隙を狙われたのだ。イサミがとっさに追尾ミサイルを発射して事なきを得たが、貴重な弾薬は減った。
     一本綱を渡るような戦いだ。わずかなミスが即、死につながる。スミスだってそれを嫌というほど理解している。自らの目で散々見てきたから。だから、言い訳をせずただただ謝罪した。「すまなかった」と。それでもイサミの声は、いつにも増して刺々しいままだ。
    「すまないで済むかよ」
     イサミの荒れ具合は、出撃できなかった戦場で二桁の死者が出たことも関係している。間に合わなかった、何もできなかったという歯がゆさが、八つ当たりにも似た言動をさせていた。 
    「……なんで複座なんだ。俺一人でいいだろ」
    「!」
     その言葉の大部分は、一人で背負い込むイサミの性格から出たものだ。
     イサミが編隊や指揮系統を考えてもしょうがないが、それでも考えずにはいられない。俺かスミス、どちらかが救援に出られていれば、と。しかし『俺一人でいいだろ』という言い方は、スミスにゆがんで伝わってしまった。
    ──技術で選ばれたわけじゃない。アオ3尉の性格を許容できるパイロットだから選ばれただけ。
    ──選出でなく消去法。
    ──指揮官が不足してさえいなければ、きっとダイダラ中隊の隊長がその任を担っていただろう。
     誰かに言われたわけではない。戦いが続くうちに自然とスミスの胸に発生した引け目だ。ずっと秘めていたそれが、イサミの言葉で胸から喉へ逆流してくる。
     悔しい。自分に非があるときは絶対に言い返さないスミスが、思わず声を荒らげるほどに。
    「君は少しくらい愛想よくしたらどうだ!?」
     言ってから、すぐにスミスは後悔した。あまりにも情けなく、あまりにもバカバカしい反論だと自分でもすぐに気付いたからだ。
    「愛想? 協力や遠慮じゃなくてか」
    「あ……」
     イサミの顔に、表情は無かった。まるで、スミスにくれてやる感情など一切無いとでも言わんばかりに凍りついている。出会ったばかりのころだって、ここまで壁は厚くなかった。そして次には、まったく彼らしくない皮肉めいた呼び名でスミスを呼ぶ。
    「いったい何を求めてんだ? 相棒」
     今度はスミスの顔が凍りつく番だった。カッとなった頭は痛いくらいに冷え、どうにか取り繕おうと必死だった。スミスはまだイサミと一緒に戦っていたい。淡い憧れを抱いている相手だから。でも、もう無理かもしれない。換えのきかないイサミと自分は違う。操縦桿を握るだけなら、スミスでなくてもいいのだ。
     スミスは拳を握って、うなだれた。死刑宣告を待つような心持ちだった。だが、いっこうに槌は振り下ろされない。
     永遠のような沈黙のあと、イサミが息を吸う音が聞こえた。
    「俺は力が欲しい」
    「え?」
     いったい何を求めるか。イサミの独白が始まった。
    「誰も死なせないための力が」
    「……イサミ」
     静まり返った空気のなか、たくさんの二足歩行がその場に並んでいたけれど、聞いているのはスミスだけだ。イサミの声は震えている。さっきとはうって変わって弱々しいが、そのぶん深刻さが伝わってきた。暴言で鎧わない、生身を見せられている気持ちになる。
     スミスが知るイサミは、十分に強い男だ。実戦に怯える姿や、甚大な被害を見て塞ぎ込む姿を見たあとでさえ、そう思う。しかしイサミ自身は、それでは足りないと言うのだった。ひとつも取りこぼさずに守り、救いたいと思っている。その力を持っていないから、願う。なんて高潔なんだろう。
     やっぱり君はヒーローだとスミスが胸を熱くした直後、イサミの唇がわなないた。泣く? スミスが驚き、見てはいけないと逃げるように視線を下げたその先、イサミの手も震えていた。左手で抑えつけるように右手首を強く握っているが、それでも震えは隠しきれていない。
    「クソ……今頃」
     極限の集中と極度の怒りで無理やり打ち消していた恐怖心が、潮の引いたあとの津波のようにイサミを襲っているらしい。
     戦場で。
     あのとき一歩でも動いていたら。一歩も動けなかったら。捕捉しそこねていたら。隊列が乱れていたら。破損箇所が違っていたら、敵が一体でも多かったら。無駄撃ちがあったら。反応が一秒でも遅れていたら。とどめを刺せていなかったら。死角になっていたら。射線を切る建物が残っていなかったら。そして何より、一人だったら死んでいた。二人だから生きている。死と隣り合わせの場所で、奇跡の糸を何本も撚り、なんとか命を繋いでいる。
    「俺は死にたくない。誰も死なせたくない……! それは、ッ……お前が俺を使いこなさなきゃ無理だろうが!?」
     泣き出しそうなイサミはまっすぐにスミスを見つめている。すぐにでも応えるべきだが、スミスは出来なかった。熱いままの胸の内に、あまりにも場違いな感情が溢れかえっていたからだ。
     嬉しい。
     選んでくれたのが嬉しくてしょうがない。いや、嬉しいという純粋な気持ちとは、どこか異質だ。だからスミスはイサミを抱きしめた。引きつるような笑い顔を、決して見られないように。
    「スミス……?」
     イサミが戸惑っているのを腕の中で感じる。スミスはとっさに「『使う』なんて言うな」と、やさしいことを言って誤魔化した。もちろん、イサミが聞きたいのはそういう言葉じゃない。
    「ッ、そうじゃねえよ!」
     イサミがスミスの腕を振り払おうとすると、ますます抱く力が強くなる。操縦服の硬さが、胸や腕を圧迫する。
     慰めでは済まない熱量をスミスから感じる。イサミがいよいよ本格的に困り出したころ、あっさり拘束が解かれた。
    「……ンだよ」
    「すまない。忘れてくれ」
     スミスは、申し訳無さそうに眉を下げて微笑んでいた。それはまったくいつもどおりのルイス・スミスに見えた。
    「忘れて」
     さらに念を押すように言うと、スミスはイサミに背を向ける。どうやら長い反省会を終わらせるつもりらしい。疲れた様子で格納庫の出口へ向かって歩き出す。
    「次からは大丈夫」
    「あ?」
    「もう、今日のようなヘマはしない。絶対にだ」
     感情を表に出したり、しない。

     濃密な死の予感に囚われてなお、〈守る力〉を望むイサミ・アオは高潔だった。それが普通の人間にできることか? まるでヒーローの所業じゃないか。そんなヒーローに、俺は選ばれたんだ。
    「ふふ…っ、ははは……」
     それだけでいい。もう何もいらないはずなのに、まだ欲しいものがある。
    『いったい何を求めてんだ? 相棒』
     その言葉を、やさしく甘い声で囁いてほしい。笑いかけてほしい。俺のものになってほしい。触れたい。存分に触れて、それから……マグマのようにどろどろと、止め処無い欲望が尽きない。
    「忘れろ」
     自室へ戻る道すがら、よろよろと艦内の壁にもたれ、スミスはボソッとつぶやいた。忘れろ。忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ……繰り返すほどに思い知る。死んで生まれ変わったって、きっと忘れられやしない。
     淡い憧れのままでよかったのに。気付いてしまったばかりの感情は、戦場においては邪魔でしかない。しかし、消すにはあまりにも大きい。ならばせめて、戦いの原動力にする。
    「イサミ、俺は……」
     守るために戦う君を守るために戦う。絆、友情、信頼、勇気……美しい皮を幾重にも被り、本当の中身が透けないように。さすれば正義は後から付いてくる。今はそう願うしかない。彼もまた、持っていないから願うのだった。
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    kimuranatsuno

    DOODLE複座スミイサ。ギスギスしている。クヌに目を付けられたきっかけのようなもの妄想。
    【複座】眩いばかり 洗っても洗っても拭えない、走っても走っても振り切ることができない、目を閉じても消えていかない濃密な死の予感に囚われたとき、何を望むのが人間か。

     XM3ライジング・オルトス。日米が極秘に開発していた複座式TSには、日本とアメリカからパイロットが一人ずつ選ばれた。まずはシステムを運用できる数少ない適合者であるイサミ・アオ三尉。そして、そのイサミに『ついていける』人間、ルイス・スミス少尉だ。
     前線に投入されたライジング・オルトスは、希望をつなぐのに十分な初陣を飾った。それまではどうにか凌ぐしかなかった敵の攻撃を押し切り、バリアを破って撃破したのだ。それも、何体も。
     ライジング・オルトスの活躍、そして必死にかき集めた情報、部隊の練度向上もあり、一進一退ではあったが人類は未知の敵に対抗できるまでになった。作戦を牽引するのは、もちろんイサミとスミスだ。しかし敵を退けたあとに行われる二人の反省会は、もっぱら言い争いで終わることのほうが多い。その多くはイサミの独断専行に端を発するものだったが、今回は違っていた。
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