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    kimuranatsuno

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    kimuranatsuno

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    最終回後のスミイサ。甘め

    #スミイサ
    #ルイイサ

    Redo「──というわけで、デスドライヴズとひとつになった俺は、イサミを抱いて戦うために時空を超えて戻ってきたんだ」
    「……以上か?」
    「以上だ」
    「よしスミス。床に正座しろ」
    「Why!?」

     そんなこんなで、スミスは床に正座させられていた。主の帰還したヒーローだらけの部屋で、正面にはベッドにどっしり腰掛けたイサミがいる。スミスのよく知る緑の作業服姿で、ひざの上で指を組んで。ただ、伸びた黒髪だけは、今となってもなかなか見慣れない。
     ブレイバーンたちが世界を救ってから一週間。復興はおろか、あらゆる事後処理すらとうてい終わりがみえない。そんななかで、もはや日課となった尋問からやっと解放されたスミスは、今度はイサミに捕まっていた。くたくたの体でひと息つき、シャワーでも浴びようかと思った矢先に部屋に押しかけられて。それが嬉しくないと言ったら嘘になる。しかしイサミからほとばしる怒りを感じると、浮かれてばかりいられなくなってしまった。
     二人が落ち着いて話をするのは、戦いが終わってから初めてのことだ。
    「スミスお前、言ってないこと、まだあるよな? 何もかも隠してやがって」
     うつむくイサミのその言葉は、まぎれもない事実だった。だからスミスは小さく謝罪するのみだ。「すまなかった」と。なんなら、もう一度でも二度でも殴られる覚悟でいた。
    「……知っている未来を話さなかったのは、既定のルートを変えたくなかったからだ。ブレイバーンとなってイサミを救うためには、俺の戦死が必須だったから」
     戦死。そのワードにイサミの眉がピクンと反応する。
    「イサミは、俺が死ぬって分かったら、どんなことしてでも止めるだろ?」
    「……当たり前だろ」
    「あぁ、イサミならそうする。ていうか俺も死ぬつもりはなかったんだ! ちょっとした手違いがあって──」
    「分かってンだよそんなことくらい! なんだよ勇気爆発って! ……いや、今はそれがダサいとかはいい」
    「ださっ? うぅ……あと……スズナギ二尉に対して「元バディ」ってマウントを取りました」
    「いやそれは俺も聞いてたよブレイバーンの中で」
     そうじゃねえんだよ、とイサミは顔にかかる髪を鬱陶しそうにかき上げた。スミス=ブレイバーンに身体的自由がほぼ無いように、イサミも髪を切る時間が取れないくらい忙しいらしい。
    「まだスミス自身の口から聞いてないことがある。俺はそれを聞きに来たんだ」
    「これ以上、何を……」
    「ッ、こっちはルルがいないのを確認して来てんだよ。なんならヒビキ達に足止めしてもらってる」
    「そういえば、髪を切ってもらうって、はしゃいでたな」
    「俺もさっさと切りたいんだがな。この用事を済ませて」
    「今の髪型もクールだぞ、イサミ」
    「そうじゃねえよ二人きりで話したかったって言ってんだよ! 言わすなよ!」
    「嬉しい」
    「だ〜〜〜〜!!! 話が通じねえ! お前ブレイバーンかよ!」
    「? そうだぞイサミ」
    「ちっげえだろスミスだろ!」
     それを聞いた瞬間に、スミスは緑色の目をおおきく見開いた。
    『功績は認める。それでも君は得体の知れない脅威なんだ』
     ATFの上層部から入れ替わり立ち替わり毎日繰り返し聞かされ続けた言葉は、いつしか洗脳となってスミスを縛り付けていた。もう普通の人間ではないと。体は戻っても、自分では元通りと思っていても、周囲の人々はそうではなかった。親しい人間以外は皆、腫れ物を扱うように接してきた。
     世界を救うことのできる力は、裏返せば滅ぼす力にもなり得る。執拗な尋問も軟禁も、それを危惧してのことだろう。ましてや、知っている未来と真実と正体を明かさずにATFを率いていた身だ。欺いていた、と言われても言い訳のしようがない。スミスも納得している。納得しすぎて、最近では鏡を見るたびに暗い予感が胸をよぎるくらいだ。だから、スミスは言う。「違う」と。
    「以前の俺と同じではないんだ、イサミ」
    「あ?」
    「この眼の色、どう思う?」
     ブレイバーンの光の色。この色は、人智を超えた力の痕跡だ。ひさしぶりにイサミと会って、話して、いくらかやわらいでいた不安が、ふたたびスミスを曇らせていく。
    「どう思うって……」
     そこにイサミの困惑する声が重なって、スミスはギュッと太腿の上の拳を握った。
     嫌がるのを無理やり乗せたときのような、強さと強引さと必死さは今のスミスには無い。この一週間で疲れていた。イサミの言葉しだいでは、折れて、崩れてしまいそうだ。でも、そうはならなかった。スミスが以前のスミスでないというのなら、イサミだって以前のイサミではない。
    「きれいな色だなと、思う」
     照れながらも、そんなことを言ってのける。
    「……っ」
     そのときスミスの瞳が輝いたのは、人智を超えた力のせいなんかじゃない。人間の、至極当たり前な生理現象のせいだ。それを見たイサミは固かった表情をゆるめた。涙ぐむスミスの心中を理解したからだ。
    「俺が一度でもお前をブレイバーン扱いしたかよ。言っただろ。「スミス自身の口から聞いてないことがある」って」
    「俺、自身……」
    「それに、お前がまたブレイバーンになったって、操縦するのは俺だ。だからなんの心配もねえよ」
     「しかたねぇな」という表情のイサミがたいそう可愛く見えて、スミスは硬直してしまった。疲れも不安も吹っ飛ぶくらいだ。
    「もう分かるよな? 俺が何を聞きたいか」
     スミスはイサミに見惚れていて、何も考えていなかった。無理もない。だってちょっと微笑んでるし。
    「あっ、えっ…と、本当に何?」
    「〜〜〜ッッッ!」
     空気に亀裂の走る音、のちに沈黙。
    「あーーーーーー」
     イサミはとうとう、頭を抱えて大袈裟に低い唸り声をあげた……と思ったら、おおきなため息をついて腕組みをして、スミスを上から睨みつける。そして──
    「いい加減にしろよ。ずいぶんと鈍くなったもんだなぁさっそく平和ボケか? 一等兵からやり直せ」
     淡々とまくし立てて、吐き捨てる。
     そのときスミスの胸が高鳴ったのは、けっして被虐願望のせいではない。鋭い、貶すような冷めた視線に、はじめて出逢ったときのイサミを見たからだ。
     忘れもしない、TS部隊合同演習の日。決着のあと、すこしの言葉を交わしただけだった。もらったのは拒絶だ。陽射しの下で空ばかり見ているイサミは崇高で、まぶしくて、ちがう世界の人間みたいだった。1ミリの興味も引くことができないまま完敗した。ゾクゾクした。あの寒気は尊敬だった。感嘆と畏怖だった。憧憬を超えて恋だった。すぐにそうと分かった。初恋のくせに。
     スミスはやっと思い出した。9mの愛でいるあいだ、すっかり置き去りにしていた生身の気持ちを。そうか、もういいのか。平和な世界って、恋の続きをしても赦されるのか。イサミと自分は対等でいていいのか。それは同じ人間だからか。
    「大好きだ」
     あふれるままに言葉にする。
    「イサミ、大好きだ」
    「……おう」
     冷めていたイサミの顔が、みるみるうちに熱く赤くなっていく。そして「よしっ」と小声で言うと、バッとベッドから立ち上がった。
     そのまま立ち去りそうな気配に、スミスが慌てて追いすがる。
    「返事は!?」
    「うるせえ! ていうかどんなタイミングで理解してんだよ!」
    「出逢った日のことを思い出したからだ!」
     それを聞いて、イサミの歩みがピタリと止まる。
    「……俺は」
     見上げてくるスミスから逃げるように顔を背けて、そして、髪に隠れた耳まで真っ赤にして。
    「俺は、青も緑も好きだ」
    「イ、イサミぃー! っあ、うわああ!?」
    「ちょっ、うわっ!?」
     立ち上がってイサミを抱き締めようとしたスミスだが、正座による足の痺れが限界だった。足首がぐねり、膝が折れ、イサミの服にしがみつく。さすがのイサミもスミスの体重をいきなり支えるのは無理で、二人は仲良く床に倒れてしまった。
    「す、すまないイサミ。足が……」
    「こんなことまで再現しなくていいんだよ!」
     スミスに押し倒されたかたちになって、イサミは重たい体の下から必死に逃れようとする。しかしスミスが、いつまでたっても動こうとしない。何を考えているのか、イサミにも分かる。してもいいと思っても、いる。
     スミスの両手がイサミの頬を包む。二人の距離が消えていく。パタパタという明るい足音がこっちに向かってきている。スピードが思ったよりも速い。
     ドアが勢いよく開いた瞬間、スミスはイサミの上から跳ね起きた。
    「スミスかえってるー? ルルかみ切ってもらっ──」
    「「おかえりルル!」」
     男二人の焦った声は、ものの見事にシンクロした。それはそれは異様な雰囲気で、ルルはドアから一歩後ずさる。
    「ガピッ……ルル、あとでいい……」
     そうしてそのままドアを閉めて、どこかに行ってしまった。
    「ルル!」
     手を伸ばすスミスは、足のせいでまだ動けない。イサミはゆっくりと起き上がるが、追いかける気はないようだ。それはきっと、イサミとルルのあいだにも信頼関係があるから。
    「あとで探して謝んなきゃな」
     そう言って、今度こそはっきりとスミスに向かって笑いかける。部屋のなかにいるのに、まぶしすぎてスミスは目が焼け焦げそうだ。
    「立てるか? スミス」
     差し伸べられた手を借りて、スミスはようやく立ち上がった。握った手はすこし汗ばんでいる。告白をされに来たイサミも緊張していたのだと、スミスは申し訳ない気持ちになった。でもこれからの未来を思うと、そんなものは弾け飛ぶ。
    「また、あらためてやり直そう」
     その時間はきっと、たっぷりある。でもまずはこの関係に名前が欲しいから、握った手をほどき、また指を絡めてつなぎ直す。
     繋いでいるのは体の表面の一部分だけなのに、体温がやけに高まる。体温というものがあったことも、今になってスミスは思い出した。
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