明日は雨が降らないから。「明日の朝、雨が降ってたらキスしてもいい?」
綺麗に晴れた青空を指さしたレオは俺の目を見てそう言った。
「え?」
「だからぁ」
もう一度言おうとする口に山のように積まれた焼きそばパンを突っ込んで制止させる。ここは学校の屋上で、明日は晴れ予報で、レオと俺はキスする関係だった覚えはない。何から何まで的はずれなレオの言葉。普段だったらもう少し意味が理解できるのに、そう思った矢先だった。
「ああ、アスアイ?」
「んだよ、知ってんのかよ」
凪なのに、と、よくわかんない、なのにを投げられそれをスルーしながらたまごサンドに手を伸ばす。
「明日愛をナントカカントカでしょ」
「そうそう、今流行りの恋愛リアリテァーショー。お前そういうの見んの?」
「見ないけど、コラボしてるから」
ほらって画面に表示されたのは俺がいつもやってるアプリに流れる広告。アスアイを見てアイテムチケットをゲットの文字。ターゲットの年代がだいたい一緒だろうし、まぁそういうことで、もらえるなら貰っとこうかなとつけっぱなしでキーワードを待っていたのは記憶に新しく昨日の話だった。
「レオこそああいうの見るんだ?」
「まぁ、流行ってるし一応な」
流行に敏感。興味があるんじゃなく知識として情報が欲しいだけなんだろうなって言うのがよくわかる声色が返ってきて、よくやるなぁって感心する。
「そんなこと言って明日、雨降っちゃったらどうすんの?」
「大丈夫、明日は降水確率0パーセント」
ほらって天気予報を見せられて、いや、そうなんだけどと言うと焼きそばパンはレオの大きな口に飲み込まれていった。
「それにさ」
レオは雰囲気から、とか言って飲みたくもないくせに買ってきたコーヒー牛乳をストローですすりながら立ち上がり、2歩歩いてから演技がましく振り返る。
「キスしたらサリナは俺の事少しは意識してくれるだろ?」
サリナと呼ばれた俺は誠士郎ですがとは言い返さず、はぁとため息をついてから立ち上がる。
「じゃあ、今夜はてるてる坊主を3つ作って1つだけ逆さまにしておくね」
サリナちゃんは思わせぶりだなぁと口に出して改めて思う。絶対この男とは付き合わないと思うんだけど。
「言ったな!?」
「レオ、ヒカルはそんなこと言わなかったよ」
サリナちゃんを口説き落とし損ね、雨も降らせられなかった間抜けなアイツの名前を口にしたらレオは、あ、なんて言ってから笑ってた。
「凪クン、」
にやにやと笑いながら俺の肩に肩をぶつける御曹司。
「ちなみに凪んちが降ってたら俺の勝ち?」
「なに?放水でもする気?」
end…?
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omake
「あのさぁ」
季節は秋口。明日雨が降ったら、なんて言っていたのをすっかり忘れて、もちろんてるてる坊主なんて作らずに寝て、朝起きたらベランダに積もる、雪。雪?
「凪!迎えに来たぞ!」
得意げにチャイムを鳴らした御曹司におはようよりも先に出たのはあのさぁだった。
「雨だったらキスするって言った本人的には、雪降ったらなにしようとしてたの?」
「いや、びっくりするかなって」
そうだ、レオってそう言うやつだった。油断していた俺が悪いのかもしれない。だけどまさか雪降らずと思わないじゃん。
「レオってなんか、サンタさんみたいだね」
「え!褒められてる?」
「うーん、ギリ?」
やった、なんてやっぱり笑いながら御曹司は俺のくしゃくしゃの頭を嬉しそうに撫でた。
end