メランコリーアイスクリーム「ねぇレオ」
空気を傷つけることさえ億劫な口をやっとの思いで開いて、そうしたら暑い空気が口に入ってきて不快さが喉まで落ちていく。行きたくないって言ったのになんだかんだと理由をつけて連れてこられた海。逃げ場のない日光の下、レオはキラキラしてて、俺はパラソルの下でどろどろしていた。
「どうした?」
アイス食うか?って親指は海の家へと向けられた。
「なんで人間は溶けてきえちゃわないんだろう」
「へ?」
「アイスみたいにどろどろに溶けて無くなっちゃえば楽なのに」
この前読んでた漫画で、精神的に追い詰められた女の子が言っていた。俺もそう思う。病んでるから、とかじゃなくてどろどろと溶けて流れて、地面に落としたアイスみたいに消えてなくなっちゃったら楽なのにって。悲観じゃなく願望。なにもしたくないの最終形。アイスを落として泣いちゃったあの子も明日にはきっと忘れてる。
「なんでって」
いつもよりもまんまるくなった目に俺が映る。暑くてぺしゃんこになった俺はレオの瞳の中でもきっとあと一歩でどろどろだ。暑いって、ほんと。異常気象じゃん、こんなの。
「そんなの俺が嫌だからダメに決まってるだろ」
当然のように答えたレオに、思わず、えっ、って言ったらそのまま腕を掴まれた。俺の手を掴んだレオは走り出す。早い。溶けかけていた足はもつれながらも追いかけるとそのまま海に突っ込んだ。
「え、なに、」
「溶けねぇように冷やすんだよ」
なって笑ったレオにそうだねとしか返せなくて肩まで浸かって体を冷やすと溶けだしていたと錯覚していた体は普通で、暑いとダメだなぁと思っていたらレオはなんか嬉しそうに俺を見ていた。
「凪にいて欲しいから溶けるなよ」
「うーん、アイス食べたら溶けないかも」
「よっしゃ、8段な」
それは食べきれないよって8段アイスに思いを馳せる俺の左手。縋るようなレオの手を振りほどかないまま、俺たちはまた暑い暑い砂浜へと戻った。
終