ハンナの生い立ち②7歳半頃とある事件を起こし、人間の住む国から他国へ移り住む。
自らの力で街を半壊させたトラウマから、魔力を使うことを忌避していたが、それではこの世界で生きていけないと心配した両親が、ハンナに魔法を教える。移り住んだ国の防壁の外は荒野が広がり、クリーチャーが徘徊していた。そこなら多少力の制御を間違っても、人的被害が出ることはなかった。両親の深い愛と、時の流れも手伝って、10年後にはトラウマも少しは薄れ、力も制御できるようになっていた。
一方、学院(学校のようなもの)や普段の生活では、ハンナは他人と関わることは避けていた。人間は下等種族として差別されていたため、執拗ないじめさえ無視すれば、ハンナが望むまでもなく他との関わりは断つことができた。最初は罵倒に傷つき、暴力に怒りを覚えたが、こちらが反応すると余計悪化することを悟り、諦観することを覚えた。これは罪を背負った自分への世界からの罰だとも考えた。
学院での評価は不当を極めた。体格の差で到底人間ができないような課題も同じように課せられた。魔術、魔法の授業は誰から見ても優秀な成績であったが、学院から下された評価は何故か最低だった。
ハンナは力や能力を高めることに対しては無頓着だったので、成績がどうだろうが気にしなかった。ただ、不当な居残りや罰を与えられることだけは苦痛だった。
唯一のこの国のいいところは、自分の起こした事件が全く知られていないということだ。生きていくだけで大変なこの国の環境は、凄惨な事件を忘れさせた。
しかし、ハンナはこれは世界からの罰だと、全てを甘んじて受け入れる人生を選ばなかった。自分のために全てを捨てて、異国の地で苦労をしている両親を知っているからだ。両親を安心させたい。この国にいては、人間である私はいつまでも真っ当に生きることができない。
安定した職、理不尽な差別のない場所を求めた結果、連合軍という選択肢を見つける。連合軍は国境を越えて様々な種族が集まっていて、人間でも後方支援部隊になら入れそうだと知る。国を越えた世界規模の組織なので、公平な基準で雇ってもらえる。戦うのは嫌だったが、調べてみると血なまぐさい戦地とはあまり縁のない、雑用みたいな役割もあるようだった。
この国で人間が普通に就職するのと比べれば、遥かに楽な試験で軍隊に入ることに成功する。事件から12年が経過した、19歳になる頃だった。
肩書も連合軍の軍人というエリートだが、実際にやることはなんてことない、各地の物資の補給や在庫の確認などの事務だった。
上層にはクラークの家系の人間もいたが、世界規模の大きな組織、いち下っ端に破門した分家の子どもがいてもわかるはずがない。
こうしてハンナの人生に一時の平穏な時間が訪れた。