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    豆@創作垢

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    豆@創作垢

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    次元の穴の付近で偶然見つけられた、ボロボロの手記

    とある男の手記 私は魔界を研究していた学者だ。しかし、もう研究を続けることは叶わない。いや、ある意味最高の研究環境とも言えるかもしれない。私は魔族の奴隷となったのだから。
     いつかこの手記が私の故郷地球に返り、同胞たちの助けになることを願う。

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     魔界の生活は酷いものだ。人間は魔族にとって家畜同然の扱いを受けている。いや、家畜以下かもしれない。魔族にとって人間は使い捨ての道具でしかない。
     しかし、使い捨てであってもすぐに死なすのは勿体ないらしい。一日一度、一握りのモソモソした穀物のような食べ物が与えられる。飲み水は1日にコップ2杯だ。
     水も穀物のような食べ物も、これといった味はしない。私より以前に奴隷で来た人たちは、貪るように食べていたから、毒はないのかもしれない。

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     もう何日経っただろうか。毎日が地獄だ。今も生きているのが不思議なくらいである。
     今朝、隣で飯を食べていた奴隷が死んだ。魔族の虫の居所が悪かったのか、側を通っただけで棍棒で頭を潰された。
     一緒に連れてこられた若い男は昨日魔物に食われて死んだ。毎日数人は餓死する。死体は集落の外に捨て置かれ、魔物がそれら死体を片付けていた。明日は私の番かもしれない。
     そういえば、魔族は人間を拉致する時、女子供も含め無差別に連れて行っていたはずだが、私はこちらに来てから青年老人問わず男しか見ていない。労働する場所が違うのだろうか?

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     ひたすらに洞窟から謎の鉱石を掘り出しては運ぶ毎日だ。どうやらこの深緑色の淡く光る鉱物がこの種族のエネルギー源となるらしい。
     戦場の死体を運んでは燃やす作業を一日やらされた日もあった。これを初めてやった日は、死体の匂いが身体にこびりついて一生とれないんじゃないかと思ったが、数日すると慣れた。鼻がきかなくなってしまっただけかもしれない。

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     ここでは、人間界では見たことのない謎の病が蔓延している。高熱にうなされ、手足の先から皮膚が青紫色に変色していく。髪は数日で色が抜け白髪になるか、全て抜け落ちる。最期は苦しみながら泡を吹いて死ぬ。
     何かの呪いか、内臓の疾患か、それとも魔界にも地球のように魔界にも細菌のような感染源があるのか、医者をやっていたという仲間も原因は詳しくはわからないという。
     ただ、魔界にいる期間が長い人から発症していく、というのは確かなようだ。

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     もうじきここへ来て2ヶ月になる。謎の病は、魔界へ来てから3ヶ月程度経つと発症し始める。そして、熱がでてからは1週間もしないうちに死に至る。
     運良く魔族にも魔物にも殺されず半年生き延びたとしても、この病は確実に私たち人間を蝕んでいく。半年を越えて生きていた者はいないそうだ。
     3ヶ月を越えて生きていられた者と、3ヶ月もしないうちに病で斃れた者との違いを調べているうちに、一つ分かったことがある。
     早く病にかかった者の多くは、皆に配給される以上の食糧を食べていた。人間界の情報を魔族に売って媚を売り、余分に食糧を得ていた者、暴力や人間界にいた頃の権力を用いて他人から食糧を奪っていた者、そういった人間は人より早く病で死んだ。
     逆に、人に分け与えたり、魔界を嫌悪して食べるのを拒んだりした人ほど長い間病にならずに済んでいるようだ。
     単純にこの穀物が人間にとっては遅効性の毒で、蓄積されると発症されるのかとも思ったが、悪知恵を使って魔族から食糧を得た者は、穀物以外の食べ物を食べていた。
     これは仮説に過ぎないが、人間の身体にとって魔素は有毒なのではないだろうか?
     魔界にある全てのもののエネルギー源は魔素であり、当然食物にも魔素は含まれている。人間は魔界の食べ物で飢えはしのげても、それが栄養素として身体に吸収されるわけではない。口を閉じた革袋に水を入れ続けると破裂するように、魔素の蓄積が限界を越えるとあのような謎の病として発症するのではないか?
     だとすれば、魔界にいる限り人間の生きる道はない。ならばもう自ら命を絶ってしまった方がいっそ楽ではないだろうか…。
     命ある限り手記を残し、この事実を地球に伝える。自分に課したこの使命がなければとっくに生を諦めていただろう。
     運が良ければあと1ヶ月。魔族の目を盗んでこの本を次元の穴に放り込む方法を考えなければ……。

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     なんということだ…。なんとおぞましい…非人道的な…!!私は今怒りと憎しみにうち震えている。この目で見たことが現実でなければよいと、これ程までに願ったことはない。
     おそらく私の仮説は正しかった。人間は魔界に適応できない。先に述べた魔素のせいだ。
     そして魔族はとっくにそのことに気づいていた。魔族はこの使い勝手のいい奴隷を、道具を、もっと長持ちさせられないかと考えたのだろう。
     一緒に連れてこられた女子供がいなくなっていることに、どうしてもっと疑問を抱かなかったのか。いや、気づいたところで私一人がどうこうできることでもないのだ。地球の同胞が、一日も早く魔界の奴隷を解放してくれることを願う。

     私の気持ちはどうでもいい。私の見てきたことを、このおぞましい事実を、地球に伝えなければならない。
     結論から言おう、魔族は人間を少しでも魔素に適応させるために、人体実験をしている。男たちが奴隷として労働させられている傍ら、子どもたちや女の人は魔素を人体に適応させるための実験の道具にされていた。
     私は実際の実験施設を見てきた。
     狂ったように叫び声を上げながら皮膚を掻きむしる少年。虚ろな目をして声もあげず、生きながら魔物に下半身を食べられている少女。人と魔物が歪に混ざりあった身体でただ唸り声をあげる人間であったもの。
     様々な形で魔素を取り込ませ、子どもを魔素に耐えうる身体にしようとする実験の、その失敗作が粗末な牢獄に放置されていた。

     私はここで逃げ出したかった。凄惨な子どもたちの姿を見ながら、私は予測をしてまった。人間界で生また子どもが、人間同士の子どもが、魔界に適応できないならば、次は何をするか。
     ああ…愚かな発想だと、私の考え過ぎであったと、その時の私を鼻で笑い飛ばせる結果であればよかったのに。
     私は牢獄の暗がりにいる一人の女を見た。
     その女は……妊婦だった。
     魔族と人のハーフであれば生きられるのか?いやそもそも人と魔族の間に子など生まれるのか?
     2つ目に浮かんだ質問の答えは既に私の目がうつしている。別の次元の世界であるのに、交配する機能は都合よく似通っているらしい。

     神は自らの形に似せて人を創ったという。これまでの研究が正しければ、堕ちた神々が創った世界が魔界だ。神の形に似た人間、元々は神であった存在。その血を混ぜれば、確かにどちらの世界でも生きていける存在が生まれるかもしれない。

     施設の奥から、幼い子どもや女の人の悲痛な泣き声や叫び声が響いていた。その先に踏み込む勇気のなかった私を恨まないで欲しい。
     どの道この実験は今に始まったことではないのだ。人間が魔界に連れ去られ始めてどれくらいの年月が経った?
     魔族も種族によっては知的水準が異なる。私が見つけたこの施設は、施設とは言ったが合理的に研究が行えるような場所ではない粗末なものだ。
     人間が牛を飼育するように、魔界で人間の家畜化が既にされている場所も既にあるかもしれない。

     私はもうじき死ぬ。施設には計画を立てて忍び込んだのではない。魔族から逃げている途中で偶然見つけたのだ。隠れていたこの場所も気づかれてしまった。最後に次元の穴から人間界に帰れないか、最後の実験をしようと思う。
     私の肉体は消えても、どうかこの手記だけは、この事実だけは、地球の我が同胞に届きますように。
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